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営業マンの苦労と昇給交渉に潜む「疎ましさ」の正体

「誰かの懐が暖まるのを疎む」という感情は、多くの場合、自分が支払う側になったときに最も強く表れる。この心理は、高額な商品を扱う営業マンの立場を想像すれば、理解しやすい。営業マンは、商品が優れていることを顧客に説得しながらも、その商品を購入すれば相手のお金が自分の手に渡る瞬間を見届けなければならない。この過程で、顧客は単に商品に対する対価以上に、他者の利益に貢献していることを無意識のうちに「疎ましく」感じてしまうことがあるのだ。

たとえば、数百万円もする高級車や高価な時計を購入するとき、顧客の中には「これほど高額なお金が営業マンの手に渡るのか」と抵抗感を抱く者もいるだろう。しかし、その抵抗感は少なくとも購入後に何かしらの形で「手元に残る」物があるため、多少和らぐ。このように、高額な支出に対しても、手に入る価値が実感できる場合には、その感情はある程度緩和される。

一方で、昇給を組織に求める場面になると、この「疎ましさ」はさらに顕著になる。昇給は物理的な商品ではなく、個々の社員の評価や貢献度に基づいて決まるものであるため、その価値を経営側に伝えるのは難しい。経営者にとっては、昇給は「誰かの懐を暖める」コストに見えることが多く、利益が減少するかもしれないという視点から冷淡に扱われることも少なくない。たとえば、営業成績が優れている社員であっても、その昇給が直接的に会社全体の利益に結びつくかどうかは経営者にとって明確でない場合が多い。そうした場合、昇給の交渉は簡単には進まない。

昇給は物として手元に残らないため、経営側から見ると、その支出が直接的なリターンに見えないことが多い。だからこそ、社員は自らの貢献がいかに組織にとって不可欠であり、長期的には企業に利益をもたらすものであるかを明確に説明する必要がある。この点において、ただ個人的な利益を主張するだけではなく、会社全体の成長や成功にどれだけ貢献できるかを具体的に示すことが重要だ。

この「誰かの懐が暖まるのを疎む」感情は、組織の文化やリーダーシップスタイルにも大きく影響される。ある企業では、個々の社員の貢献を積極的に認め、昇給やボーナスでそれを還元する姿勢が自然に根付いているかもしれないが、他の企業ではコスト管理を優先し、昇給を避けることが常態化している場合もある。結局のところ、この感情とどのように向き合うかが、組織における個人のキャリアや会社の成長に大きな影響を与える要素となってしまっていると思う。

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