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move:04 占い師に学ぶ不動産、基本のキホン

 とうとう、占いに手を出しました……。迷走後、すったもんだがあり、こじれにこじれている我ら夫婦の家探し。

 というか、2か月前にたまたま予約していたのです。鑑定するのは紹介のみ、2か月先まで予約が埋まっているという"スゴ腕"占い師の話を聞いて、興味本位で……その料金、2万円なり。

 予約した日はちょうど三連休の真ん中で。2か月前には思いもよらなかった、いよいよ購入しようかという中古戸建のインスペクション(第三者機関が4〜5時間かけて検査する住宅診断)、その前日。

 さらに、その連休に入ろうかという金曜の昼下がりに、電話がかかってきたのです。あの、最初にひと目惚れしていまだ忘れられない物件の家主さん……ではなく、担当の不動産屋さんから。

 電話口で「手紙、出されましたよね」と言われて、冷や汗が出る私。そうなんです、最後の悪あがきで私たち、「たぶんこんな苗字だった」「Googleマップ的に、この番地か?」というあやふやな宛先に、思いのたけを綴った手紙を郵送したのでした……。届いちゃったよ。まさかのまさか。

 手紙には「お家、とっても素敵でした!」という素直な気持ちを長々と、あとは「万が一、一番手の方に決まらなければ、私たちはいつでもお待ちしてます!引き渡し日もご希望日まで待てます!ローンの仮審査も通ってます!!」とだけ伝えるシンプルな内容。

 ただ、相手方の不動産屋にすれば、自分たちをすっとばされて悪印象なのは間違いなく。やはり注意を受けましたが、私もまた切々と思いを語りまして……なんとか和解。

 かれこれ2週間ほど前、まだSUUMOで売り出しているのを不審に思い、直に連絡してみると「内見できますよ」との回答で。どういうこと?とひもといたところ、まだあの現金ニコニコ払い予定の一番手さんと条件を詰めていて決まらないという話で。でも結局は、その一番手で決まってしまったと聞いていました。

 そして今回の電話で知ったのは、この不動産屋さん、家主さんの友達の友達という関係性だったらしく……。「囲い込み」して家主さんの利益を害しているんじゃ?とか、少々疑いの目で見ていたのですが。それはなかったのかな? 単純に、一番手の買い手がおかしいのか……謎です。

 さらに彼が言うには……なんと、まだその一番手とは成約まで至っていないとのことで。え、もうすでに契約交渉開始から1か月近く経つんだけど……そんなことってある? ともかく、まだニ番手の私たちにも可能性は残っているということだけ、伝えられたのでした。

 私への直電で。それもそれで、私たち側の不動産屋さんをすっ飛ばしてるわけで、御法度だとは思うんだけども。

 うーん。うーーーん。なにこれー。




 こんな、占い日和なことあります?????

 てなわけで、行ってきましたよ、夫婦ではるばる1時間半くらい車飛ばして。途中でご当地の鰻重なんかもいただきながら。

うんまいやつ。


 車で向かう途中。「もうすでにリサーチ済みだから」とか、言い出す夫。「なんか、占いの前に住所と名前と生年月日書かされるらしいんだけど、Googleマップ見りゃわかるだろうってこと言い当てられるらしいよ」「風貌は、マイルドヤンキーかチンピラみたいだって」とのことで。

 ふむ。相変わらずの疑り深さ。でも勝手に、メガネかけてる人の良さそうーなおじさんだろうと踏んでたんだけど。チンピラなんだ……?


 そうしてその口コミ通り、住所・氏名・生年月日と、今日占ってほしいことを書かされて待つこと、30分ほど。

 目の前に現れたのはーー。

 うん。マスクこそしてたけど、マイルド仕立ての小沢仁志さんでした……Vシネの帝王風味。

イラストはAI画伯によるイメージです……。


 なにやらぶつぶつ言いながら、帝王が赤鉛筆で私たちの事前アンケートに直接走り書きをすること数分。「◯◯か……」とある県名をつぶやくのです。

 「奥さん、実家どこなの?」唐突に聞かれて、「今は××です」と答える私。「××か、○○まではいかないのか……だんなは?」夫も「△△です」と回答。すると、「一応ね、移動先っていうのは◯◯(××の少し先の県)までの距離間だけです」と帝王。

 「同じ首都圏近辺でも、こっち方面とこっちの方角は行かないです」と、早々に断言されました。おお、占いって感じ。

 「行かないです」と言われたほうも一度検討には入れたものの、最終的に心に決めた移住の地は、確かに断言された「◯◯」までの間なので……なかなかの出だし。それは二人の相性的に、ということらしく。

「本来はこれ、男同士の組み合わせ。夫婦としては」

 え、そうなんですか。

「共同経営者とか、共同生活者って感じ。男同士の夫婦ってやつ」

 へええー。

「ええと、チビはできなかったの? つくらなかったの?」

 え、あ、はい。できなかった、つくれなかったというか……。

「はい。男同士なんで。100回エッチしても、お腹にコウノトリは来ませんてやつ。もともと男同士なのよ。だから、どうしても家族を増やしたいなら、わんちゃんでも飼えばいいじゃんっていう夫婦」

 そこから、病院に行っても異常はないけど子どもはできないとか流れるとか、結構グサグサくることを言われたのですが……割愛。聞きたい項目に、それは入れてなかったんだけどねぇ。とにかく子宝に縁がないことはわかりましたよ。とりあえず家の話を。

「奥さん、仕事は?」

 えっと、広告業というか……。ちょっと濁してみる。

「ふうん。だんなが主役じゃないんだよな」

 ど、どういうことですか?

「家は女が仕切ればいい。うん。だんなが外のほうで時間費やす人で、家の管理は奥さんがするしかないのよ。家はあなたの場所ですから、あなたの住みやすいようにしなさいってこと」

 なるほど……。

「ご主人は、また畑が違うんだよなぁ……何してます? 会社員? 何年目ですか?」

 そんな会話をくり返しながら、目の前で何枚ものタロットカードがめくられ、それぞれの絵の意味と、私たちの現状との共通点をつらつら語る帝王。私たちにもそれぞれめくらせながら話は進みます。

「奥さんが住みやすい家でいいんじゃない? 通勤しやすいとか。とにかく"私の勝手が効く家"だったらいいのよ」

(私は在宅ワークなのだが……まあいいか)

「だんなは帰ってきて風呂入って寝るってだけでしょう?」

(夫も在宅ワークがメインなのだが)

「だんながこうしたいとかいろいろ言っても叶いません、家建てるときは。まあせいぜい、ドアの高さが普通の既成より10cm、15cmぐらい高ければ住み良くなる。頭ぶつけるから、天井とドアの入り口を高くする。だんなの注文はこれだけよ」

(背の高い夫の一番の要望は、確かに「天井が低くないこと」ですね……)

「あとは全部、奥さんの知恵が優先されます。だんなが、ここはこのスーパーが近いから良いとか、考えませんから」

「マンションより一軒家のほうがいいでしょうね。最後、夫婦どちらかが残ったときに、最終的に土地がついているほうが値段が高い。マンションは条件が厳しい、管理費が毎回かかる、ペット飼えないとかもある、組合に参加しなきゃいけない、下に変なのがいたら引っ越すしかない、新築のマンションによくある話。一軒家は関係ないの、上下にいないから」

「理想論で言うと、◎◎線(首都圏メジャー地下鉄)あたりかな、××線(われらの希望地)? それでもいいよ、方角は合ってるから」

「駅近がいいかどうかって? 近くてもいいです、値段です。どこどこがいいです、じゃあ何億円も払えますかって話ですから。どの方角で買うか、あとは予算の問題です」

「縁がある家? そんなの、本とかテレビの見過ぎです。都市伝説とかネットとか占いの見過ぎ。これは何かのご縁かな?って、新興宗教じゃないんだから。合理的に考えたほうがいいです」

「丘があってきれいな一軒家で海が見えて、もう熱海で良かったわ~って、毎朝4時に出て通勤。うちのお客さんの実話です。で、自分もまさか60歳になるとは思わないのよ。40歳で買って、もう60になったら坂が地獄になる。今は家売りたい、売りたいって言ってます。まさか、足腰が弱るとは思わなかったって。そんなものです」

「駅まで5分って言っても、そこから電車が会社まで20分余計にかかるなら、どっちがいいのって話。その計算ですよ」

(えっと……私たち、不動産セミナーに来てたんだっけ)

「もう、いつ買ってもいい時期に入ってます。自分たちの干支までだから、午年の12月までにすべて完了して引っ越してるのが理想」

 そうなんですね!?

「あとは銀行と話してローンを組むだけです。あんまり伸ばすとローンの支払いが短くなるから、2年以内だね」 

 なるほど……。ローンを組むのは、スムーズにいきそうですか?

「いきます。だって10億の豪邸を買おうとしてるわけじゃないから。あとは、頭金を減らして月々を増やすか、頭金をある程度入れて、月々を安くするか」

 そう、ですか……。

「あとは奥さんが家を比べてみるだけです。土地を、将来売却した場合にこうできるっていうのを考えて。いつか、どっちかが先に死ぬのよ。そのときに売っぱらったら、これで特養に入れるよねってことです。70、80歳になったときの、老後の資産価値って考え方をしないと」

「どんな不動産屋がいいかって? 大手のほうが物件持ってます。この街のこの駅って決めたら、その地元の不動産屋がいい。でも駅も決まってないなら、大手不動産のほうがいろいろ物件持ってます。東急不動産とかね」

 なるほど……。

「もっとわかりやすく言いましょうか。だんなが主導で家を買ったとしましょう。それでだんなが愚痴を言う率と、奥さんの思い通りの家を買いました、奥さんが愚痴を言う率は、どっちが高いと思いますか?って。家のことは奥さんが一番わかってるんだから。もし奥さんが愚痴言っても、『お前がいいって言って買ったんだろ?』って返せるでしょう」



 なんか、もはや……いかつい昭和の不動産王にしか見えないんだけども。

 不動産の基本すぎる基本と、"亭主元気で留守がいい"の価値観ゴリ押しがすごいな、これは。今どき、男性だってもっと家づくりに参加するものですよ。確かにうちは、ちょっと昭和体質の夫ですけれど。

 この間も、仕事で行った住宅関係のメーカーさんで聞いた話。キッチンも、最近は夫婦ふたりで立てるように、身長差もみながら一緒に考えて計画する夫婦が増えているらしい。

 夫は風呂くらいしかこだわらない!あとはキッチンはじめほとんどが妻のこだわりで家づくりは進むもの!みたいなのって、だんだん時代錯誤になってきてるかも。占い師さんも、アップデートしないとね……とは、言わなかったけど。

「100点満点の家はないと思ったほうがいいですよ。夫婦でお互いの理想をとり込みすぎちゃうと、いつまで経っても決まらないから。合理的に、必要最低限で考えないと」

 まあ、ねぇ……。ついでに、今もめてる不動産屋さんの話も少し聞いてみました。

「不動産屋がその家を売ってくれないなら、ほかにもっといい条件を求めてる可能性があるってことです。ほかからの声との兼ね合いだと思いますよ。手に入らなそうですねぇ。お金をもっと多く出したら変わるかって? 相手の言い値なら、もちろんすぐ決まりますよ」

 それは、そうでしょうなぁ……。どういう占い?

「そうだ、風水も教えておこうか」

 それそれ、求めてるやつー!

「間取りある? これ南西向きだと厄介だな。奥さんが家出て行きます。南玄関なら健康な家。東も良いです。北西は、父ちゃん元気で留守がいいってやつですね。だんなは外に出てばっかりになる」

 そうなのか……留守は良くないな。ちょっと気をつけて見てみよう。

「あとは、北枕か東枕にすればOKですから。南と西は運気が下がります。北は健康と精神で、東は発展と発育、南は病気と精神の不安定、西は運気の衰退と問題が起きやすい。今は何枕になりますか?」

 今はたぶん……東ですね。

「じゃあ大丈夫だ。玄関に足が向いているってことだね」

 「ん? 違いますね。足は玄関とは平行というか……」と夫。私も「そうねえ……」と首をかしげる。

「家の前に、こういう通りがあるじゃないですか。これ私道か。ここがどん突きで。北がこっち。東枕ってことは、この道路側の玄関に足を向けて寝ている形ですよね」

 さらさらと頭の中に浮かぶ図を写すようにして、目の前の用紙に走り描きされる地図。そこには見覚えのあるうちの前の私道が描かれ、長細い建物を示す四角の中に、「階段があって……玄関はこっち側にこう、並んでるでしょう」と矢印が。

見覚えのある地図。


「ん? あ、えっと……。まあ、そう、ですかね……」



 そこで、夫婦ふたりの頭上にぽん!と浮かんでいた言葉は――


 Googleマップやないかーーーぃ!!!!!


 あのね、うちの住所って、Googleマップで検索するとすぐ隣のマンションを導き出しちゃうんですよ。番地同じらしくって。Uberとかタクシー呼ぶとき、いつも苦労するんですけれど。うち、その私道どん突きにある賃貸戸建てなんですの。

わが家は、こっちなの……。


 勉強代2万円で、なんだか改めて、当たり前すぎる不動産の基本と、世の中の既成概念いろいろを再確認した連休2日目でした。ちーん。

 帰りの車から見えた夕焼けがとってもきれいでね。なんと富士山まで見えましたよ。ヘッダーにしておきましょう。アップしている今日は、一粒万倍日らしいので。

 ちいさすぎる富士山パワーだけど、みんなにも一粒万倍の幸あれ。私たちもどうかこの先、最後には納得のいくわが家に住めますように……。

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