社会に利他行動の輪を広げるために
はじめに
新型コロナウィルスが急速に流行し、感染者や死亡者が日に日に増加して社会的な不安が広がっている状況です。
こうした感染症については、自分だけが自衛するのでは病気を十分に予防出来ず、社会全体で自分も他者も守る行動、すなわち、利他行動を取ることが求められます。
現在は、感染予防に気をつけている人は情報も集めてとことん気をつけている一方で、関心の無い人は感染するまでずっと無関心のままでいる、という分断が益々大きくなっているように感じられます。
こうした分断を乗り越えるためにも、社会の中で利他行動の輪を広げることが必須です。
そこで、サービスを通じた人間の利他行動の促進について研究している立場から、研究の知見に基づいた提案をさせてください。
利他行動を促進する要因
最初に結論から述べますと
これまでの研究から、人の利他行動を促すには2つの要因を促進することが重要であることがわかっています。
① 自己効力感を高めること
② 共同体感覚を醸成すること
この2つに注力することによって、内発的な利他行動を促すことが出来ます。
自己効力感とは?
自己効力感は「自分が目標を達成するための行動を遂行出来るという認知」と定義されます。
この自己効力感が高いと、自分に対する期待や自信が高まり、他者に影響を与える行動を取るようになります。
自己効力感を高めるには、達成経験や説得、承認が重要であることがわかっています。したがって、新型コロナウィルスに関連して個人の自己効力感を高めるには、外出を控えることやマスクを付けることといった予防策によって、どれくらいの好影響を与えられるのかを実際に示すことが有効です。
本当ならば、新型コロナウィルス予防に関して具体的な数値を示すことが望ましいのですが、まだ様々な観点においてデータが出揃っていないため、現実的に出来ることが限られてしまいます。
そこで、一つの提案として
生活習慣が変わったことによる影響を数値化・視覚化する
ということを挙げます。
今回の疫病による影響を(無理矢理に)前向きに捉えるならば、公衆衛生の意識が高まり人々の生活習慣が(将来的にも)改善された、ということがあります。
僕も、手洗いの回数や時間を以前の倍以上に増やしました。この衛生観念は、終息後も変わらないでしょう。
コロナ関連のデータが出揃うのはこれからですが、手洗い・うがいといった従来の予防策に関するデータは既に蓄積があります。
そのような情報を提供している個人や機関は既に多く存在していますが、予防によるポジティブな効果の絶対値を見せるよりも、受け手が当事者意識を持ち易いように、個々の生活変化による差分がシミュレート出来るサービスがあることが望ましいと考えます。
一方で、自己効力感のみが高まっても自信が過信に変わってしまう恐れがあります。自分が感染していると言って大衆にうつそうとして逮捕された人達も、「自分には他人を感染させられる」という自己効力感のみが高まり過ぎた結果であると説明出来ます。
そこで重要となるのが、共同体感覚です。
共同体感覚とは?
共同体感覚とは「他者に関心を持ち、世界と共感的な絆を持っているという認知」と定義されます。
共同体感覚は高まるにつれて、「共同体」の単位が家庭や学校、職場といった大きさから、地域社会や国、果てには宇宙といった範囲まで含まれるようになります。また、共同体感覚の構成要素には所属感、自己受容、貢献感があるとされています。
つまり、自分を認め相手をも認めることで、自分と相手を同じ共同体の仲間であると捉えることが出来るようになるのです。
この共同体感覚を醸成するための一つの提案として
自分の予防策を大切な人と共有する
ということを挙げます。
1日10分だけでも、自分がどういった予防策を取り、それがどのような効果を生みそうなのか、あなたの大切な人と共有してみてください。
それが一回りしたら、SNSで周囲の人達とも共有してみてください。そして、他の人の予防策に対しても自分がどう感じたのかをコメントしてあげてください。
自己効力感の高い人が、自分の意欲のままに知識や影響力を一方的に行使するだけでは共同体感覚を高めることは難しいです。
しかし、他者と意見交換する中で相手から反応をもらい相互理解を深めることで、共同体感覚が醸成されていきます。
少し前にニュース番組で頻繁に観られた、外出することに関するインタビューに回答していた若者達も、自分の行動が誰に対してどのような影響があるのかがハッキリ見えないために、不用意に外出するという行動を取ってしまうのです。
自分の「共同体」の範囲内にいる「仲間」を自分の行動によって守ることが出来るという確信を持った時に、人は間違い無く利他行動を取ります。
終わりに
僕も、不安に覆われてる社会に貢献したいと願っていながら、なかなかこうした記事を書く勇気がありませんでした。
つまり、共同体感覚がありながら、自己効力感が足りなかった時期が1週間程ありました。
それが、家族や研究仲間からの後押しを受け、自己効力感を高めることが出来て2つの要因が揃ったことで、自分の持っている知見を広く周知したいという行動に繋がりました。
行政やメディアは連日、外出自粛などの利他行動に対するお願いを繰り返すにとどまっています。
しかし、ただ頭を下げてお願いするだけでいるよりも、実際に自分の行動がどのくらいポジティブな効果を与えることが出来るかを示した方がずっと効果があります。
そして、そうした知見をどのようにして自分と遠い位置にいる人達と共有出来るのかということについて考え続けることで、利他行動の輪を広げることが出来ます。
2つの要因を高めるための具体的な施策やサービスについてより深い議論をすることは他の場に譲らせていただきますが
この2つの要因を意識した施策やサービスが増えれば、社会にもっと多くの利他行動が増えて疫病の終息が早まることを確信しています。