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ぺんてる/SMASH スマッシュ

大手筆記具メーカー、ぺんてるの主力商品のひとつにSMASHというシャープペンシルがあります。

このSMASHですが、近年の文房具ブームの火付け役と言っても過言ではありません。その影響力は凄まじく、最近は文房具に明るくない学生でもこのペンを所持している姿をよく見かけるほど。

筆者自身も中学2年生の頃、このSMASHに魅せられて筆記具オタクになったものです。
私の筆記具オタクとしての第一歩はLOFT限定のピンク色のSMASHでした。

SMASHは数多くの学生を虜にし、筆記具という底なし沼へと誘った罪深きペンなのです。

今回はそんなSMASHについて色々と話していこうと思います。


1章.SMASHの誕生

SMASHの先駆け

SMASHが発売される前年にあたる1986年。
不朽の名作グラフ1000が発売されました。
グラフ1000は発売後からその品質と性能で高い評価を受け、それは絶えることなく現在まで評価され続けています。
グラフ1000の開発担当はぺんてるのベテランデザイナー。さすがの仕事ぶりが伺えますね。

SMASHはグラフ1000の後を追う形で誕生したもので、その如何にも製図用であるという見た目とは裏腹にグラフ1000の一般筆記用という位置づけで開発されたという経緯があります。

不朽の名作 ぺんてるグラフ1000/pg100x

誕生秘話

そんなSMASHでしたが、開発に携わったのは入社してまだ数年の若手デザイナー。
開発の方針は「タフに使える一般向けシャープペン」
前述のグラフ1000とはしっかり棲み分けがなされていました。バイクを元ネタにしたそのデザインは非常に実用的かつ遊び心のあるもので、

・一般筆記用であるにも関わらず硬度表示窓を付ける
・一般筆記用にしては珍しい4mmガイドパイプ
・ショックアブゾーバーを意識したキャップの蛇腹
・口金とグリップの一体化
・p115から受け継がれたF3構造グリップ

など、枚挙に暇がありません。

にしてもですよ。
仕様変更はありましたが発売から現在までデザインが(ノックパーツの芯径表記除けば)一切変わっていないんです。
これはSMASHが改善の余地がない素晴らしいデザインだったことを指し示しています。

発売当初から全く変わらないデザイン。
上から
2019年12月製造
1992年12月製造
1992年01月製造
2016年04月製造

最初の企画書。
これに記されていた名前はSMASHではなく「WRITING!」という文字でした。
当初はこの名前で行く予定なのでした。

しかし却下。
続いて「SPIT」という案が出されますがこれもGOサインは出ず。

最終的に大量に出された案の中からSMASHがピックアップされ、現在もその名前が使われています。


2章.SMASHの躍進

発売当初

グラフ1000に遅れること1年。
1987年、SMASHはいよいよ発売を迎えました。

発売年が分からなかったので「発売当初」というくくりで話しますが、
発売当初は軸が4色展開。芯径も0.3/0.5/0.7/0.9の4種類。
更には各色でボールペンモデルまでありました。

もう少し詳しく書きますと
黒軸のみ0.3/0.5/0.7/0.9が存在し、
その他カラー軸は0.5のみの販売となっていました

黒はSMASHの根幹となるものとして、その他定番色は派生のカラー軸シリーズとして発売されていたようです。
要するにグラフ1000ForPROとその他cs/limitedのような関係に近いです

当時のSMASHのカラーバリエーション。
ブラック
ウォームグレー
ウォームグレーグリーン
グレーブルー
(グレーブルーについては1996年時点のカタログで「ウォームグレーブルー」との記載あり)
かつて存在したボールペンモデル

当時の文房具事情はというと、安いシャーペンだとかキャラクターものが席巻していた時代です。

しかしSMASHは1000円と比較的高価です
じゃあ売れなかったのか?そうではありません
むしろかなり売れていました。

発売年にグッドデザイン賞金賞を受賞。
その2年後には0.3とボールペンがそれぞれグッドデザイン・ロングライフデザイン賞とグッドデザイン賞を受賞しました。

当時定着していなかった1000円シャープという概念を世間に定着させ、当時の子供たちはすっかりSMASHに憧憬の念を抱いたのでした


3章.転落

ブームの収束

滑り出しこそ非常に順調であったSMASH。
しかしこのままグラフ1000のようにその人気が長く続くということはありませんでした。

ブームは過ぎ去ったのでした。
起爆剤になるようなものは何もありません。

徐々にその存在感を薄くしていくSMASH。
さて、こうなるととある問題が発生します。


次々と消えていく派生モデル

人気がないものを製造しても採算が取れるはずがありません。
そうなると企業はある選択をします。
そのモデルの生産終了、すなわち廃番です。

ボールペンが消え、軸の色も芯径も次々に廃番となり、バリエーションがどんどん減っていきます。

最終的には軸はオーソドックスなブラック、芯径も0.5のみとなってしまいました。


極まる低迷

さて、これでSMASHのバリエーションは黒軸の0.5たった1つのみとなったわけですが
こうなると更に人気が落ちるというのは火を見るより明らかです。

時は進み2008年。
唯一残った黒0.5のブリスターパッケージが廃番となってしまいました。
つまり残された販売手段は裸売りただ1つになったということ。ペンを裸売りをする店舗というものは非常に限られています。
すなわち一般のお店で見かけることはほとんどないに等しい状況になってしまったのです。

こうなると行き着く先は1つ。
SMASHそのものの廃番です。

それが2010年頃になるといよいよ社内でも廃番濃厚ムードが出てきてしまいます。
特に2010年、2011年の売上げは史上最低クラスだったそうです。


なぜ廃番にならなかったのか?

そもそもほとんど店舗に並ばなくなった時点でもうモデル自体の廃番は決まったようなものです。

じゃあなぜすぐ廃番にならなかったのでしょうか?

その答えはお隣、韓国にあります。
韓国ではコンスタントに売れていたそうで、その売上でかろうじて生きながらえていたようです。

しかし肝心の日本国内では全く売れる素振りひとつありません。
このままいけば当然廃番は免れない。これはハッキリとした事実でした。


4章.復活

トンネルの出口

2008年頃から店頭にすら並ばなくなったSMASH。
その低迷ぶりは凄まじく、もうあの頃の人気は戻ってきそうにもありません。
ああ悲しいかな、あれほどの名作が今度こそ潰えてしまうのか。

誰もがそう思っていました。
ところが2013年。

今までの低迷はなんだったのか。
Amazonにて筆記具部門での売上げ1位を獲得したのです
その原動力となったのはTwitterをはじめとするSNS。ちょうどその頃SNSではレトロ/製図用ブームが到来していたのだとか。
その筆頭としてSMASHの名が挙げられていたのでした。

内部機構はグラフ1000のものと同一。
デザインも優秀で実用的。
こんなペンが話題にならないはずがありません
瞬く間にSMASHの評判はSNSを通じて拡散され、このような結果に至りました。


SMASHを完全に生き返らせた男

突如として息を吹き返したSMASHですがまだ完全復活とはいきません。所詮ネットで少し話題になっただけなのですから。

しかし翌年の2014年、これにとんでもない追い討ちをかける出来事がありました。
人気Youtuberであるはじめしゃちょー氏のSMASH紹介動画です。

人気Youtuberの影響力というものは凄まじいもので、これに影響を受けた世の学生たちは皆SMASHを買い求めるようになります。

めっきり減っていた供給はとんでもなく大きい需要の到来によりすぐさまパンク。
SMASHは常に売り切れの状態が続きます。
不人気より店頭から姿を消したSMASHですが
今度は人気すぎて店頭で見かけることが難しくなりました。

第二次SMASHブームの到来です。
その勢いは凄まじく、当時のLOFT公式のツイートに書かれていた「転売への対策」「おひとりさま1本まで」という文字が当時の壮絶な人気を物語っています。


奇跡の復活/増え続ける限定色

ここまで大きな需要が出てきたものですから、当然ぺんてるもこれに対し供給を増やさねばなりません。

その中でまず復活したものが2つ。
廃番色ウォームグレーとグレーブルーの復刻です。
それぞれ2015年と2016年にAmazon限定として復活しました。

これは当時を知るSMASHファンからするとさぞ嬉しかったことでしょう。
当時を知らない学生たちにもこの2色はすんなりと受け入れられることになります。

更に復活はこれだけに終わりません。
2019年、芯径0.3のSMASHが帰ってきました。

定番品としては黒一色0.5のみとなって久しいSMASHに、新たなラインナップが追加されたのです。
これはまさに復活と言って差し支えないでしょう

これを記念した限定色も発売されました。
SMASHはこの頃から異様なまでに限定色が増えることになります。


更なる高みへ

SMASHの人気は衰えることを知らず、
2022年にはいよいよ定番色に新たな仲間が加わることになりました。

これは発売以来、実に35年ぶりとなる快挙です。

追加されたのは灰と赤。どちらも0.3と0.5の2種類あります。
これに加え、SMASHデザインのSTEIN芯やAin消しゴムなども発売されることに。

かつては廃番寸前の危機に立たされたこともありましたが、今やぺんてるのシャーペンといえば?というと真っ先にその名が出てくるほどになりました。
これからのSMASHのさらなる躍進に期待しましょう!


5章.コラム

キャップの芯径表記について

1章で話したとおり、SMASHは発売後37年間とくに姿を変えることなく現在まで販売されてきました。
唯一見た目に大きな変化があったとすればキャップの芯径表示です。

現行
旧仕様

ではこれがいつ切り替わったのか?
そのタイミングはおよそ2018年2月頃だと思われます

ということはそれ以前に発売していた限定色ならばキャップに05が入っているのでは?

その通り。しっかりあります
わりと昔からあったAmazon限定カラーはもちろん、実はLOFT限定カラーにも。

LOFT限定色は発売が2016年8月頃。
つまり2018年2月に仕様変更が入るまで、約1年半の間に販売されていたものには05表記があるのです。


ボールペンの変更点

SMASHは元々シャープペンだけでなくボールペンも販売していました。

元々シャープペン用に設計されていたので硬度表示/芯径表示が存在したわけですが、これが不要なボールペンになるとどうなるのか?

シャープペン
ボールペン

まずは先程紹介したキャップの芯径表示。
こちらは芯径ではなくB(おそらくボールペンのb)に変更されています。

さらに面白いのがシャープペンとは違い文字の部分が凹になっているというところ。

ちなみにシャープペンのキャップとボールペンのキャップに互換性はなく、ボールペンの方は取り付ける際にカチッという感触があります。

硬度表示窓だって違います。
通常版であれば2B〜4Hまでの硬度がありますが
ボールペンはEF〜Mまでの文字の太さとなっています
それぞれ
EF(ExtraFine:極細)
F(Fine:細字)
M(Medium:中字)
の略です。


あとがき

発売年について、表記揺れ問題がありますがここでは1987年発売とさせていただきます。

それとSMASH復活の経緯について、当時や当時を振り返るブログ等を参考にした結果私の中ではこのような結論がでました。


それにしても久しぶりのペン1本の歴史にフォーカスをあてた記事となりました。
私の文房具オタクとしめの第1歩となった、思い出の1本ですのでこういう形ではありますが紹介ができて良かったです。

いよいよ夏休み期間に入りそうですがnoteもさることながら動画制作にも力を入れていこうと思います。

ではここまでご覧頂きありがとうございました。

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