『現実』とは公務員が作ったゲームの名~メタバース経済とMMTを考える
今日も働きたくない人が書く経済の話、第一部・最終回です。
前回、溢れたお金の回収手段について、「(現実の日本社会では)広く"皆から回収"されていますが、さすがにFF11はそんな愚かなことはしなかった」と書きました。今回は、その続きです。
プレイヤーが成長して行動範囲が広がると、移動距離が増え、チョコボ搭乗料金や飛空艇搭乗料金ぶんの貨幣が以前より多めに回収されるようになります。ただし、これらはもともとあまり高額ではありません。
「納得感」を大事すると、サービスが変わらないものの価格を上げることは難しいこともあったのでしょう。FF11では、移動料金を変えることはありませんでした。
ところで、この「サービスが変わらないものの価格を上げることは難しい」ことは、当たり前のことですが、めちゃくちゃ重要です。
例えば現実の日本社会において、消費税が導入される以前から存在するものは総じて値上げしにくく、物価を下げるデフレ要因となりました。消費税以後に登場した"目新しいもの"は税額込みで「価格の妥当性」を判断してもらえますが、そうそう目新しくなどできないもの、例えば食料品などは価格は据え置き、気づかれないように(または露骨に)量を減らすなどの苦労を今も強いられています。「値上げしたぶん美味しくしました!」とはいきませんからね。
消費税導入やその後の税率引き上げの際に「食料品など、必需品は除外すべき」という声があがりますが、必需品だからではなく、そもそも商品価値の向上や新規性の付与が難しいものは"強制値上げ"の対象外にするしかないのです。しなければ、社会の負の効果をもたらすのが自然です。従業員の給料や下請け企業に払うコストを(パワハラ的に)下げることが実際に行なわれてきました。
なお、FF11では、さらなる貨幣回収の手段として、競売手数料を増額したほか、プレイヤー同士が路上で売り買いする"バザー"の仕組みに関税をかけました(この関税はのちに廃止)。
競売手数料はかなり税金(消費税、または印紙税)に近い概念ですが、もともと上限100Gで固定に近かったものが、出品額の1%(上限10000G)になったので納得感はありました(ただしその後、時間をかけて物価が10倍程度になっており、上限にかかる=100万G以上の取引がとても多くなった現在は、また固定額に近くなっています)。
貨幣回収、最大の変化は『寿司』
FF11における貨幣回収手段の最大の変化は、必需品をシステムによるショップからしか買えなくし、その販売額を高めに設定したことです。
例えばコンテンツに挑戦するときに使うことで強くなり、バトルを優位に進められるアイテムとして『寿司』が実装されましたが、この材料として、栽培で入手できる『米』と釣りで入手できる『魚』のほかに、ショップから買うしかない『酢』(200G程度)と『わさび』(2500G程度)が必要とされたのです。
現実でいえば寿司一貫が3000円(原価1000円)くらいするイメージでしょうか。今でも高級寿司屋に行けばそんなものかもしれませんが、縁がないのでよく知りません! ああ、そういえば高級パンケーキが好きな政治家がいましたね……へたにそういうものが実在するおかげで、例え話が難しくなって困ったものです。
ま、現実の食品への置き換えはともかくです。
寿司以外にも、材料の一部をショップから買うしかない高性能アイテムはいくつも実装されていきました。収入の高い上級プレイヤー、あるいは高収入を得ようとする機会に必要とするものの材料によって貨幣を回収する方法は、納得感を保ちつつ経済の安定化に寄与します。また、所得税の大きな役割である"累進課税"(より高い収入のある人ほど、より高い割合で税を納める)の代わりも果たしています。
見えてきた格差社会解決への糸口
ここまでをまとめると……
・競争によって新規性の獲得など価値の向上が見込めるものは民間に任せる
・逆にもう成長しにくく競争に意味がない必需品は国営にする(贅沢品は特に高く販売する)
こうすることで、貨幣を回収されることへの納得感を増す一方で、所得税など納得感の低い税を減額できそうです。
ところで「ゲーム内のショップを通じてアイテムを販売し、貨幣を回収する」仕組みは「無限にアイテムを生み出せるゲームだからこそできる」と思うかもしれませんが、そうでもありません。先ほどの寿司の例で言えば、農家と漁師を公務員にするだけで、比較的容易に似たようなことが実現可能です。
また、すでに多くの市区町村で自治体指定のゴミ袋(回収コストが含まれているぶん高い)の販売が行なわれています。これは国(市区町村ですが)が売るアイテムです。
指定ゴミ袋制度は、それまでの税金を変えずに二重課税にしたため悪印象の強いものですが、ゴミ処理コストぶん市民税等を下げてさえいれば、ゴミの減量努力を通じて市民が自治体運営に直接関与できるとても良いものにできうる制度でした(惜しい!)。
もちろん、すでに民間で売られている品物を国営にするのはなかなか難しいです。とはいえ、べつにいっぺんに大改革をしなくてもいいんです。指定ゴミ袋はその第一歩とみなすことができ、二歩、三歩と無理なく進めていける"なにか"を見つけていければいいのです。
そして、"モノを作る際に買わなければいけない"と言えば、電気などのエネルギーも同じです。エネルギー産業は国営に戻すべきですし、水道などを民営化するのは国家の基盤を揺るがす愚策だと断言します。
なお、人口は将来の変動もほぼ予測でき、必需品の必要量もほぼ比例します。ゲームのアイテムのように"無限"には必要ありません。指定ゴミ袋も、必要数を厳密に予測しやすいために実現できた側面があると思われます。
なお、このようなことを急速に進めたり、社会全体に及ぼそうとすると戦時中の統制経済のようになってしまいます。必需品ではないもの、競争してナンボのもの、それこそゲームのような娯楽品はこれまでどおりにすべきでしょう。
こう言ってはなんですけど、公務員が仕事で作ったゲームを遊びたいとは思いません。ゲーム内通貨にガッツリ課税されることは間違いないですからね。むしろ、『現実』こそ公務員が作ったゲームなのかもしれません。
さらなる経済の進化へ
ところで、ここまで触れてきたFF11の経済は、ようやく安定を手に入れたものの、「現実より少しマシ」になった程度です。理不尽さや不公平感は減少し、お金がよく回るようにはなってきたものの、物価は順調に上昇し「もっと金策せねば」と感じる機会は少なくありません。
よく「物価は(少しずつ)上昇していく必要がある」と言われますが、本当にそうなのか、と疑問も残ります。
FF11の経済は、この先も時間をかけて(失敗も交えつつ)現実を超えて進歩していきます。MMT理論と同様かそれ以上に"是非"が語られる『ベーシック・インカム』に似た仕組みもできあがっています(人によるところもありますが、毎週200万G程度もらえる"感じ"です)。
そのあたりの未来的な経済の話については、また新たな図版を作るなどしてから『第2部』でお話ししたいと思います。原稿も先に全部書いた方がよさそうです。今回連続記事の途中でグダって、「働きたくないでござる」とか言っちゃいましたしね。
(第2部へつづく)