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ドラクエ経済はギャンブル式?(前編) ~メタバース経済考
今回は、MMORPG『ドラゴンクエストX』(ドラクエ10)の経済が「ギャンブル式」な感じがすることについて考えていきます。
「ドラクエといえばカジノ」というくらい(?)ですし、ドラクエ2の時点で「ふくびきけん」があったくらいですから、ドラクエとギャンブルは切ってもきれません。ただし、「ギャンブル」という言葉が持つイメージがそのまま経済に反映されているわけではありません。ドラクエ10の経済は「お金をかけてお金を稼ぐ」ようになっているわけではないのです。
ドラクエ10のカジノは、その主要通貨であるゴールドをコインに変換してギャンブルを行なう場ではあるものの、結果として得られるものは"景品"であり、ゲーム内での希少性が主な価値になっています。それらをまったく換金できないわけではないのですが、あくまで例外的であり「世界に流通する貨幣をシステムが回収する手段」としてカジノは経済・貨幣の流れの袋小路に位置します。
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一般的なギャンブルは(長期的には)胴元が確実に勝つことになる貨幣回収手段ですから、ドラクエ10におけるカジノの位置付けはこの世界における貨幣回収機能の一部として適正だと言えます。民営ギャンブルであるパチンコを野放しにしている腐敗国家・日本よりずっと健全だとも言えるでしょう。
だからといって、ギャンブルという言葉をそうポジティブに使うつもりもありません。ドラクエ10の経済がギャンブル式だと言えるのは、"楽してお金を稼ぐ手段"という表面ではなく、"誘いの強さ"や"沼の深さ"という裏面の意味が強めだからです。「ギャンブル式」と呼ぶ第一の理由は、なにより支払いのハードルを下げていることによります。
例えば競馬の馬券が1口10万円では参加できる人が極めて少なくなりますが、1口100円なら誰もが参加できます。そして、ちょっとずつ買う馬券の枚数を増やすことも可能なため……まあ、現実のギャンブルのおそろしさはわかりきったことなので省略しましょうか。
ただし、結果的にたくさんの人を参加させた方が胴元は儲かるからこそハードルは下げられており、そして、より多くの貨幣が回収されていくことに参加者自身はなかなか気付きにくいのです。
総額は隠される
ドラクエ10で生きていくには多くの場面でお金の支払いが必要となりますが、ありとあらゆる場面でお金が必要とされるぶん、その1回の金額は少なめです。もちろん少額であっても10回繰り返せば10倍、100回繰り返せば100倍のお金がかかるわけですが、都度悩むほどの金額ではないので財布の紐は緩みます。
ぼくはギャンブルはまったくやらないのですが、同じようにギャンブルをやらない人のためにこの感覚を伝えるなら、風邪や虫歯での「通院」が似ています。1回の診療費・薬代は1000円以下で済むことが多いものの、最終的には1万円近い出費になった経験がある方は少なくないでしょう。逆に1万円とか5000円といった総額が先にわかっていたら、インフルエンザなど一部の病気で通院する人が激減することも想像できると思います。
これは、単純に「良い」「悪い」で語れることではありません。
とはいえ、医療費に総額いくらかかるとか、老後どれだけ長生き"してしまう"か、といった「先見性」は財布の紐を固くするため、経済・貨幣の流動性にはマイナスに働きます。
ギャンブルも「掛け金×勝った場合の倍率×勝てる確率」を計算できれば多くの人は負けるだけとわかってしまい、手を出さないでしょう。逆に言えばギャンブルを推進する側はその「先見性」を潰しにかかります。例えば競馬では「勝てる確率」という変数を明確に示すことはほぼ不可能です。
ドラクエ10における「先見性潰し」が開発者による意図的なものがどうかはわかりません。ただ、先見性が潰される要因のいくつかは他の目的を実現するための副作用に思える部分があります。そしてその目的とは、「利便性の向上」であったり「生産者の保護」だったりします。
(つづく)