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ドラクエ留学、ひとつき。(物語編)
いくつか記事を書きながら「硬直している現実の日本社会より、実際に人が多く集まるメタバース、MMORPGの世界は現実以上に『新しい現実』を作り出している」と感じた私は、それなら別世界もこの目で見てみようと旅に出た――な~んていうと大袈裟ですが、新参者として『ドラゴンクエストX』(ドラクエ10)への「留学」を始めて1ヵ月が経過しました。
今回はその経過報告その1「物語編」です。
なお、留学生であるぼくは、ドラクエに対してあまり熱心なプレイヤーではありません。ドラクエシリーズにおけるマイベストシーンは「ドムドーラ」(魔物に滅ぼされた町)で、後年になるほど明るい雰囲気になっていくこのシリーズからは徐々に気持ちが離れていきました。わざわざ購入した『8』(2004年)を投げて以来のカムバックなので、もう20年近いブランクがあります。数えてビックリ! です。
ネタバレ嫌悪が足を引っ張る!?
10年の歴史を持つドラクエ10ですが、運営開始初期のVersion1、その後発売された5つの拡張パックにあわせてVersion2~6、と現段階で計6世代の物語があります。ぼくはまだそのうちVersion2の中盤までしか進んでいないのですが、思っていた以上に楽しめています。
もともと昔のドラクエシリーズにおける堀井雄二さんの表現は、「不幸」を強く描くことで「平穏」とのコントラストを強調できるところが大きな魅力のひとつでした。
その「引き算」型のストーリーテリングはドラクエ10(堀井さん自身がシナリオを書いていない)でも健在で、世界観自体は明るいものの、多くの登場人物になにかしらの「欠損」があることで物語に深みを与えています。「足し算」型の物語では冗長になってしまうところを、わかりやすく、コンパクトなエピソードにまとめているのは見事です。
でも、ドラクエ10の物語については、良い評判を聞いてはいなかった(悪い評判を聞いていたという意味ではなく)ので、意外に感じました。これはちょっと損をしているのでは、とも。
もともとドラクエは開発サイドがネタバレを極端に嫌うので、宣伝の段階でストーリーについてほとんど表に出さない、そしてそのぶん意外性のある物語を提供する、ということが特徴になっていました。ただでさえネタバレ嫌悪が強い日本において、ドラクエファンはさらに輪をかけて秘密主義とも言え、良い部分が周囲に伝わりにくいのはもったいないところです。
ただ、これはMMORPGでは小さくない問題なのではないかと思います。これがオフゲなら「みんな楽しんでいる」で充分なのですが、MMORPGの場合は代わりに「エンドコンテンツを楽しもう」という面が表に出てくるからです。
でも、エンドコンテンツ(ゲーム本編終了後のお楽しみ、オンラインゲームでは延命要素)まで視野に入れてオンラインゲームを始めるプレイヤーはあまりいないはずです。ぼくもそこまでガッツリやろうとは思っていないので、初心者向けの動画などでエンドコンテンツまでやることを前提としたものを見かけると「キリのいいところまでストーリーを楽しんだら、そこまでにした方がいいのかな」という思いが脳裏をかすめます。
ドラクエ10のコミュニティ自体が「ネタバレ」に敏感に思える節はほかにもあって、ドラクエ10はちょっと「語りにくい作品」ではないかと思うのです。
ちょっとやってみますよ。例えば――
ドラクエ10のフィールドは次の写真のように、昔のファミコン時代を彷彿とさせるキツイ黄緑色の草原が基本で、一部を除いて全体に派手派手しいカラーリングが目立ちます。1990年代後半あたりからド派手になっていった子ども向けアニメの配色に近いかもしれません。
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ところが物語を進めて、Version2で導入された新エリアに行くと、ハッと息をのむような美しい世界が広がっていたのです。
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Version1のエリアにも様々な風景がありますが、これほど大きな変化はありませんでした。ところがVersion2でデザインの方針に変更があったわけではありません。実はこの景色、×の××では××この××○の○○として○○が○○○○んです。
――という感じ。ネタバレについてどこまでこだわるかは難しいところなのですが、ゲーム誌のライターや編集をしていた経験から言っても、これは絶対黙っていないとダメなやつです。
ま、そういう「仕掛け」が至るところにありそうで、「うっかりしたことを言えない!」と思えるのは嬉しいことです。「実際に遊んでみれば楽しい」というドラクエらしさの本質だと思います。
そして、この「魅力を伝えることが難しい」という葛藤は、ドラクエ10コミュニティに与えられた「引き算」だと考えることもできます。「欠損」を抱えて生きていくことで、プレイヤーたちもまたドラクエ10の登場人物になれるのかもしれません。