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無税社会は可能か?(後編) ~ダムの底のメタバース
長すぎる中編を書いていた時点で気になっていましたが、このままのペースで続けると5・6回やっても終わらないので足早に話を進めます。
そもそも、なぜメタバースなのか。
ユーザー視点で「おもしろいことができそう」と思われているわけではないことはみなさんご存じのとおりです。知名度が向上したことで資金が動くことに期待して「我こそはメタバース」を謳うひとたちが増えたことが盛り上がりの最大の理由ですが、それとは別に現状の国家の形態に縛られない世界が実現される可能性を"期待"する向きがあります。
税制以前に国家の必要性が減退している
誤解を承知で大雑把に言えば、サービスや商品を仮想通貨のみを通じてやりとりする市場ができあがれば、現状の法律では既存の国家に税金(の一部)を納める必要がなくなります。法定通貨(円やドル)に換金すれば税金を納める必要がありますが、換金しなければその必要はありません。
国家が崩壊する、というと大袈裟ですが「国内市場」という概念がなくなるか、大きくかたちを変えるくらいのことは起きかねません。そして、現状の税制は国内市場に依存しています。
中国は、いち早く仮想通貨を全面的に禁止しました。でも、中国のように強権をもってなんでもかんでも禁止できる国でなければ、そこまでの処置はとれません。
仮想通貨が一般的になるのがいつかはわかりませんし、あるいはならないかもしれません。ただ仮想通貨がなくても、グローバル経済自体が国家を単位とした税制とは相性が悪いのは明白で、例えばタックスヘイブン(租税回避地)問題も根本的な解決に至っていません。
国家がこれまでどおりに税を徴収しようとしても、今後はさらに難しくなっていきます。対策をとることはできますが、国家単位で独立して行なっても無意味なのは当然として、主要国の連携程度では足りず、世界全体で対応する必要があります。
それは別のかたちで国家の主体性が失われることを意味します。少なくとも経済を通じて、現在の国家はその必要性と影響力を大きく損なおうとしているのです。
国は納税の必要性を減退させている
今回の記事は「誰からも税を取らない社会」をめざすことを考えるものですが、わざわざめざさなくても、テクノロジーの発展によって誰からも税を取れない社会が徐々にに近づいています。そのうえ、国の在り方自体が納税の必要性を損なっているケースがあります。
税金は「直接税」と「間接税」にわけられます。このうち「直接税」は人や企業に直接かかる税金を指し、代表的なものは所得税(一般に法人税と呼ばれるのは法人所得税)です。所得税を「理不尽に国家に巻き上げられている」と感じ、払うことを嫌がる人はとても多いのですが、これは間違いです。いえ、以前は間違いでした。
これまた手短に説明すると、所得税は営利活動(等)を行なううえで社会的インフラを利用したことに対する使用料です。ただ、結果的に利益を得られなかった人や企業から取るのは無理があるので、多く利益を得た人や企業からそのぶん多く取るのです。
ところが。日本を含むいくつもの国家は鉄道、電気、水道などのインフラをどんどん民営化しています。民営化する以前から電気代や水道代は払っていましたが、それは「無料にすれば無駄遣いされてしまう」という問題を回避するためなど、意味がありました。しかしいざ民営化されてしまえば、インフラ企業に対して使用料を支払ったのだから、国に対してそれ以上支払う理由はない、と考えられてしまいます。
そもそも、みなのために必要だけど、個人ではどうしようもないものを、みなが少しずつしてどうにかするのを形にしたものが国家(行政)であり、インフラを手放すことは国家の役割のほとんどを投げ出す姿勢と受け取られても仕方ありません。
オンラインゲームが実践した経済安定策にヒントがある
話は一度、中編の続きに戻ります。
不安定だったFF11のゲーム内経済は、ゲーム内に「スシ」を実装したタイミングの前後で安定します。その理由は、「スシ」を作るために必要な「ねりわさび」をゲーム内のショップから購入する(=通貨を消失させる)必要があるようにしたからです。しかもこれが「お高い」のです。
それまでFF11では肉料理が主に使用されていましたが、オフラインのRPGでも見かけるように、モンスターを倒すと「肉」を得られました。ところが、お金を払わずに得られるものなので、肉料理がプレイヤー間で流通しても、通貨もプレイヤー間を移動するだけで、ほとんど通貨が消失しません。この状態で、宝箱などから通貨をたくさん生み出してしまうと、あっという間にインフレが起きてしまいます。だから、ケチにならざるをえなかったのです。
ところがFF11は必需品を中心に高く買わせることで「通貨を消失させる機会」を多くし、逆に「通貨を生み出す機会」を増やせるようになりました。
これは(長くなるので説明しませんが)いわゆるMMT(現代貨幣理論)に近いものです。
FF11は古いMMORPGであり、『Time To Win』(時間を費やせるひとが勝つ)と呼ばれるタイプの、いわゆる「ネトゲ廃人」仕様のゲームです。そのためゲーム内で価値が高いものを得られるのは一部のプレイヤーに偏っていましたが、「スシ」実装の頃から一般人がチャレンジできるコンテンツ(報酬も得られる)が増え、「空き缶拾い」のようではないプレイが可能になっていきました。
FF11はさらに、自分の別荘地みたいなものを持てるようになり、ここでは木材や鉱石など、毎日大量の素材を得られます。素材をそのままゲーム内のショップに売却することを貨幣を生み出すので、プレイヤーにとっての『ベーシックインカム』のようなものとして機能しています。
一方、上位のプレイヤーが欲するものに対しては、それを入手する過程でゲーム内のショップから高額アイテムを購入しなければいけない(=貨幣を消失させる)仕組みが導入されています。また、コンテンツに挑戦するための頻繁に用いられる移動手段で少額の使用料を徴収するようになっています。
FF11はプレイヤーの動向を長い期間注視し続け、当初は「上から下へ」(=トリクルダウン)の傾向があったお金の流れを「下から上へ」と逆転させたのです。
失敗できることが仮想社会の強み
華麗に成功をおさめたかのようなFF11ですが、そうでもありません。
ベーシックインカムに近いシステムとして、簡単な作業で貨幣を生み出せる仕組みが実装されましたが、無制限だったためにインフレを招きます。しかし、最近になって上限が定められ、ようやく落ち着きました。
大切なのは、仮想社会は失敗を経て、進歩できるということです。
古いメタバースであるFF11は、新しいメタバースや、変化しつつある現実のj経済に必要なものを教えてくれています。もっともそれは、FF11の開発者というよりは、多くのプレイヤーたちが導きだしたものなのですが。
まとめ
長い話のなかで、重要なことを浮き彫りにしてきたつもりではあるのですが、最後に念のためそれらを列挙しつつ(少し補足して)記事を終わろうと思います。現実にやろうとすると大革命が必要なうえにこれだけでは不十分ですが、近未来を舞台としたSFの世界設定の一助くらいにはできるのではないでしょうか。
誰かを狙って税金を取らない
直接税は正直者がバカを見る制度で、しかも古い。税制は他のかたちに置き換えることを考える必要がある。
システム(国家)はみなのために必要なことを中心に司る
インフラを民間に委ねない。国家が担う公務の幅を広げ、必需品の流通にも責任を持つ。そのため農家や漁業者、医療関係者、土木工事関係者等を公務員のように扱い厚遇する。
法定通貨は国内必需品・サービスのための通貨と割り切る
国家が管理するインフラや、必需品・資源等を法定通貨の主な用途とみなし、利用料を徴収する。富裕層が多く利用するものは、より高額にすることで所得税の代用とする。放送網の使用料などもこれに含む。
国家は民間経済に介入しない
国家は民間企業や労働者に対して徴税せず、さらにどの通貨が使われようと感知しない。
仕事とセットでベーシックインカムは可能
公務(インフラ運営等、公共性のある仕事)に幅広く参加できるようにすることで、誰もが最低限の収入を得られるようにする。法人税の仕組みに頼らず、労働者の弱い立場も解消できる。また、教育を受けることで収入を得られてもいい。