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TV捨てちゃったアハ

昨年引越しを機に捨てたんですよ、TV。もう、ほとんどつけることもなくなったので、いいかなと思って。「TVの馬鹿、もういらない!」というやつです。あ、このネタ前もやりましたっけ。

送料節約のため、台車に乗せて自分で運送業者のもとへ運搬。
川を越え、片道50分の道のり。鴨たちの群れに祝福を受けました(大手嘘業)

ただ、だからといって「TVなんてオワコンだよね~」みたいな話をしようというのではございません。ぼくは子どものころから1日中TV観っぱなしのTVっ子、あるいは当時はなかった言葉だけど「TV廃人」と言ってもいいくらいのヘビ~ウォッチャーでしたから。

前世紀、ネットが一般に広まり始めた当時から「TVイラネ」系の言説をよく見かけるわけですが、それって高校生の終わりくらいになると「近ごろのジャンプはおもしろくない!」ってどの世代も言い続けているようなものではないかと思うんです。

お気に入りの連載が終わった喪失感とか、行動範囲が広まって新しい楽しみを見つけたとか、理由はいろいろでしょうけど、雑誌やTVのように様々なコンテンツが詰まっている「箱」は、時に魅力が薄まる瞬間があるものです。

もちろん実際には次々と新しい魅力のある作品が生み出されているわけですが、主な対象とされるのは少し若めの世代だったりしますから、それが違和感につながるわけですね。自分が以前より少しオトナになっているだけなんだけど。

ところでそのオトナになりすぎた元TV廃人おじさんであるわたくし、情けないことにうっかり腰をバキッとやりまして、えへへ(かなり笑ってる場合じゃないけど)。ここのところは仕事も最小限にしてコタツに埋まりながらYouTubeでダラダラ動画を観て、腰がピキッとくるたびにタマネギ先生(パラッパラッパー)のように「ハータタタタタ~」と低い悲鳴をあげています。

そして、ついに一生観ないのではと思っていた「あとで観る」リストも見終えてしまったときにふと思いついたんです。子どものころに大好きだったTV番組を観られないかと。

もちろん許可なくアップロードするのは違法だからダメですよ。でもまあ、観たことは観たんです。

至高の笑い

最初に探したのが、『世直し君』。

お笑いで誰が好き? と訊かれたら、ぼくは迷わず「コント55号!」と答えます。『世直し君』は、そのコント55号の「欽ちゃん」こと萩本欽一さんがTVのド真ん中にいた時代の終わり頃、数あるレギュラー番組が次々終了していくさなかの1986年に始まった『ドキド欽ちゃんスピリッツ!!』という番組内の1コーナーです。

当時中学生だったぼくはこの番組が大好きで、特に『世直し君』は抱腹絶倒しながら観ていた一番のお気に入り。その後もたくさんのお笑いを観てきましたが、あれから30年以上、ずっと「あれが至高の笑い」と思って生きてきました。

ところが……今観ても、ちっともおもしろくなかったのです。

あーん。これは悲しい。

「オトナになるとトトロに会えない現象」だとわかっていても、あまりにつらいです。「エピソードごとに良し悪しあったのでは?」と思い、検索にかかったのを全部観てみましたがダメでした。やはり違法アップロードの番組を観てはいけなかったのです(?)。

トトロ現象

ただ、これを「トトロ現象」で済ませるのは投げ槍すぎます。ここは、いらんことまで深読みしていくnoteですから、もうちょっとよく考えていきたいと思います。

まあ、でも『世直し君』を楽しめなかった最大の理由は、トトロはさておくにしても想像力低下のせいでしょうね。

なにせ『世直し君』は台詞なし、サイレントでやる舞台上のアクション喜劇です。動きだけで何が起きているかを見せ、その内容にユーモアをふんだんに盛り込んでいる、「芸」として極めて秀逸な作品です。台詞をつけて同じことを表現するよりも、視聴者の想像力による補強を得た方が楽しめるということなのではないでしょうか。

また、コント55号や欽ちゃんの笑いは、その後のお笑いのテンプレートとして消費されてしまったという側面もあるかもしれません。

多くのお笑い芸人がTVに出てもMCをやるだけで芸(ネタ)をやらなくなること、少なくともTVでは芸らしい芸を観られなくなることを非難する向きがありますが、欽ちゃんの時代だってそうでした。「最近のTVは~」というのは言いがかりです。

ぼくがTVにかじりついていた30年以上前、欽ちゃんは舞台上で演じるコントには自身も多く出演していましたが、坂上二郎さんと二人で舞台に立つ姿を観ることはすでになく。かの有名な「飛びます飛びます」だけが切り出されているあのコントも、ぼくはその全編を、ずっとあとになってからYouTubeで観ました。あれは秀逸なコントなのでぜひみなさん、そして元日に起きた羽田の飛行機事故関係者に観ていただきたいところです。

あの「飛びます飛びます」は、「飛行機がぶつかると危ないから飛び立つことを伝えないといけない」「聞こえるように傍で言わないと」というネタですから、まさに今一番TVで放送できない禁忌のコントかもしれません。ご存じでない方は、ぜひYouTube(以下略)

キ○ガイと常人

またコント55号は「お笑いの基本は、キ○ガイと常人」という価値観においてひとつの手本として示されます。キ○ガイたる欽ちゃんが無茶を言い、常人たる二郎さんが困らされる、という基本のスタイルを指しています。もちろんこのスタイル自体は55号以前のお笑いにもあるのですが、二郎さんは"ツッコミ"役とは違う(困らされて文句を言うことはある)ので、55号はよりプリミティブだと言えるでしょう。

ここは誤解されがちなポイントです。常人の側が激しくツッコミをするお笑いでは55号とは逆に、「常人が上位」で「キ○ガイが下位」になりますから、"下位"にうまくやれない人や間違える人を置いて嘲笑する、いじめや差別的な笑いに陥りやすくなります。55号をお手本とする場合の「キ○ガイと常人」は、お笑いの原則と勘違いされがちな「ボケとツッコミ」とは大きく異なるのです。

また、イマドキのお笑い芸人に対して「子分を引き連れ、ひどい目にあわせている」という批判もありますが、実はこれも欽ちゃんの時代にすでに見られた光景だったのです。欽ちゃんが主導する舞台上のコントは、二郎さんに代わって欽ちゃんファミリーと呼ばれる人たちに難題を押し付けるスタイルが多いですからね。でも批判の声を聞いたことはありませんし、世間は同じように見てはいなかったのでしょう。

欽ちゃんはわざとらしく振る舞い、「キ○ガイ枠」だとわかるので観客は憧れませんし、ファミリーの面々は欽ちゃんに課せられた難題を達成して拍手を浴びるというかたちで「芸」として成立しているからです。

『世直し君』に欽ちゃんは出演しないのですが、背景にこういった「文脈」があることを踏まえれば、やはり素敵な番組で、楽しく笑えるコーナーだったと当時の気持ちを思い返すことができます。今観てもおもしろくないと思ったのは、きっと自分もイマドキの笑いに毒されていたからなのでしょうね。

今タイヘンなことになっているダウンタウンを同じ文脈で整理した場合、松本人志がキ○ガイで、浜田雅功が常人。ただし浜ちゃんはあまり困らされはせず、めったに体も張らず、いち早く正論でツッコミを入れる「正義」という、視聴者が憧れる「楽」な存在に映ります。

そこまではまだいいとしても、後輩芸人に難題を押し付ける番組で浜ちゃんが「やれや」と言う側にいることは大きな違いです。浜ちゃんは正義の象徴であり、また欽ちゃんファミリーとは逆に後輩芸人たちが失敗する様が主な笑いのソースとなっているわけですから、世間の認識に開きがあるのは当然のことでしょう。

両者のスタイルは根底では似ていながらも、ツッコミという一点がその後の出来を大きく左右しています。TVで長くもてはやされてきたのはダウンタウンスタイルの方でしたが、今後は「さて、どうでしょう?」という感じです。 シンキングタイムの始まりですね。

次世代のTVを担う者

さて、長くなりましたのでそろそろ終わりますが、最後に告知です。

実は、以前仕事でお世話になっていた元同僚がTV制作の世界に転身し、ディレクターデビューすることになったそうです。すごい! 元TV廃人としては憧れの気持ちで腰がねじを巻きそう(?)です。

ディレクターデビューする元同僚は、娘でもおかしくないほど歳の離れた若い女性なのですが、いっしょに仕事をしていた当時・学生時代から周囲のおじさんたちより人への配慮と丁寧な段取りができて、かつアクティブという、その職場にはもったいないほどのスタッフでした。人道的にもまともな人なので、きっと道を踏み外したTVの世界をまっとうな方向へ導いてくれると思います。ディレクター(director)とは、方向(direction)を示して皆を「導く者」の意ですから、まさに適任と言えるでしょう。

なのに! ぼくはといえば肝心のTVを捨ててしまったというのですから、腰がグギギとなるのは天罰としか言いようがありません。しかもデビュー番組の宣伝に微力ながらも力を貸そうと言うのに、よりにもよって「TV捨てちゃったアハ」ですから最悪です。

というわけで、ぼくが役立たずなぶん、これを読んでくださっているみなさんに番組を観ていただけたら……とお願いしたいのです。 

明日1月25日午後8時からの『ロッチと子羊』医療看護学校編がその番組です。

本人曰く「看護学校に通う学生のお悩みを哲学で解決する番組です。お時間あれば、ぜひ、ご覧ください(笑顔)」とのこと。

「哲学で解決」というのが良いですね。哲学は時にけっこうな凶器になるので、ある意味「キ○ガイと常人」に通じるところがある気がします。まーそういう番組じゃないでしょうけど、MCロッチはぼくも好きなコンビなので期待が高まります! と、ハードルをあげておきましょう。28日(日曜)0時に再放送もあるようなので、お時間が合う方をぜひご覧ください!

もちろん自分でも機会を見つけてみるつもりですが……え、YouTubeで観るなって? せっかく「ツッコミ、だめ絶対!」の流れにしたんですから、そこはいいじゃないですか。痛いところを突かれると、また低い悲鳴が漏れてしまいます。グギギ。

(おしまい)




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