ギャンブル必勝!?シミューレーターをつくるよ(メタバース経済考・番外編)
先日、メタバース経済考の記事でMMORPG『ドラゴンクエストX』(ドラクエ10)の経済が「ギャンブルっぽい」ということを書いたばかりなのですが、あれはあくまで「少額の積み重ねでお金を吐き出させようとしている」という構造を指摘するものでした。決して開発者が、プレイヤーに賭博でゲーム内通貨を運用させようとしているわけではなかったのです。
ところが、どうもドラクエ10のプレイヤーの一部にギャンブルで金策をする習慣があるようなのです。
ドラクエ10で行なわれているというギャンブルは、ダイス賭博(ダイス金策)と呼ばれるもの。ゲーム内のダイスを振るコマンドで1~100のランダム値を出せることを利用してお金(ゲーム内通貨、ゴールド)を賭けた勝負をするのだそうです。
細かいルールは様々らしいのですが、「45以下を出せば子(参加者)の勝ち」「それ以上なら親(胴元)の勝ち」というかたちで、やればやるほど損をするド直球の賭博になっているようです。
個人の感想を正直に言うと「ゲームの世界のなかのことだし、勝手にすれば~?」と思うのですが、これで破産してドラクエ10をやめちゃう人もいるらしく、意外に無視できない社会問題のようなのです。ドラクエ10は細々お金を回収され、高級品の中古売買もできない世界なので、一度お金を使い切ったときに「稼ぎ直し」が大変で絶望しやすい傾向はありそうです。ちなみに『FINAL FANTASY XI』には賭博の習慣はありません。
なお、ぼくがダイス金策の存在を知ったのは、ブログや動画で注意喚起を行なっているブロガー・動画配信者の方々がいたからです。リアルの報道よりよっぽどジャーナリズムを発揮していてエライ! と感心する反面、またも現実がゲームに敗北する様を見せつけられてとても悲しい気持ちです。
ただしギャンブルには必勝法がある
そこまで言っておいて必勝法の存在に触れるなんて、あんた悪魔かと言われそうですが……必勝法を実行することのタイヘンさを伝えることで、逆説的に「ギャンブル・リテラシー」を高めていけたらなと思います。
なお、ギャンブル必勝法を言葉にするのは簡単です。「次の勝負で、いままでの負けをすべて取り戻せる金額を賭ければいいだけ」ですから。
実例で考えてみましょう。話を簡単にするため丁半博打を例に使います。
サイコロを2個振って、その出目の合計が丁(偶数)か半(奇数)を当てる丁半博打の場合、予想が当たる確率は1/2、50%です。実際の丁半博打は参加者同士で掛け金を奪い合い、親(胴元)が参加料をくすねるタイプのいわば"対戦型"だったようですが、今回の例では、ひとりでもできるように「当たれば掛け金が1.5倍になる」ものとします。なんでも「おひとり様」対応の時代ですね!
1000円賭ければ、50%の確率で当たって1500円(500円増加)に、50%の確率で外れて0円(1000円減少)になります。そして、この丁半博打に10回挑戦すると、だいたい5勝5敗前後になるはずです。そして5勝5敗になったときの累計額は-2500円となります。
よほど胴元がマヌケでない限りギャンブルというものは回数を繰り返すほど、当然のように参加者は損を積み重ねていきます。数学……というほどのものでもないですけど、統計的に自然なことだから、みんな「ギャンブルは、やめとけ」と言うわけですね。
でも本当にやめてしまうと、ギャンブル・リテラシーは高まりません。
そこで出てくる「必勝法」としては、次の回にこの2500円の損を帳消しにするために5000円賭けることになります。当たれば5000x1.5=7500円となり、増えた2500円ぶんが累積していた2500円の損を相殺して帳消しにしてくれるというわけです。
ただし! ここでも負けると損は一気に7500円(2500+5000)になります。また必勝法を使って次の勝負で帳消しにするためには、15000円を賭ける必要が出てきます。運悪くそこでも負けて損が22500円(7500+15000)に膨らむと、さらにその次に賭けるべき金額は45000円になり……連敗するとトンデモない勢いで掛け金を増やさざるを得なくなります。
なお、丁半博打に連敗する確率(の分母)は、2の累乗と同じなので、いわゆるビット数を求めるのと同じように簡単に計算できます。ドット絵などでおなじみの「8ビット」は2の8乗で256ですから、丁半博打に8連敗する確率は1/256、という感じです。4ビットは2の4条で16ですから、丁半博打に4連敗する確率は1/16もあります。男女16人ずつの学校のクラスで丁半博打をすると、男女1人ずつくらいは4連敗する人が出てくるイメージです。
シミュレーターをつくってみた
というわけで、実際に上記の丁半博打を試せるシミュレーターを作ってみました。今朝、PHPでちゃちゃっと作ったものなので色気はありませんが、きちんと動作はするはずです(noteかにちよう企画班でいずれ詳しく解説します)。
これまでの累計額を表示しれくれるほか、掛け金の最小金額(1000円)を超える"損"があるときには、次にいくら賭ければ帳消しにできるかを教えてくれる悪魔のアドバイスつきとなっています。
とはいえ悪魔のアドバイスに従っていれば、いつかは「勝てる」ことを体感できると思います。そのとき掛け金がトンデモないものになる経験も、実生活ではなかなかできないので、ぜひ触ってみてください。
「お金はお金が好き」
もちろん連敗を続けると、どこかで「もう出せない」というところへ到達してゲームオーバーとなります。このゲームオーバーラインは、よりお金をたくさん持っている人の方が訪れにくく、「お金を持っている人ほどギャンブルに負けにくい」ということにつながります。
これはギャンブルに限りません。株や国債などの投機、あるいは会社運営なども含め、お金を持っている人ほど失敗を取り戻すチャンスがあるため、結果的に勝ちやすくなります。逆にお金のない人ほど早めに「ギブアップ」して負けを確定させることになるのは言うまでもありません。
これは、いわゆる「お金はお金が好き」というやつで、お金を多く持っているほどお金を稼ぎやすいわけです。現実で行なわれている大企業優遇の金融政策、富裕層のための税制優遇などは貧富の差を拡大させるだけ。そもそも、いざというとき以外にお金を使わず持っているから「お金持ち」というので、経済の循環も良くなるわけがありません。むしろしわ寄せを受けた庶民が生活費を切り詰めるようになると、食料品などの必需品すらニーズが減退し、国力が低下します。いや~、こわいですね現実は。
しかし胴元は対策する
話をギャンブルに戻しますが、上記の「必勝法」のことはもちろん賭博の胴元は知っていますし、対策も行ないます。対策方法は簡単で、掛け金の上限を定めるだけです。例えば「掛け金上限は30000円」というルールにしてしまえば、さきほど例に出した連敗時の「4万5000円」は賭けることができず、必勝法は使えなくなり、あとは統計的に負けが確定します。
なお、日本でもギャンブルを解禁しようとか、IR招致でカジノを作ろうとする際に、「身を持ち崩す人が出てくる、ギャンブルは危険だ!」という声があがると、それに対して「掛けられる金額に上限を設けよう」という反論が出てきますが、あれは「胴元の勝ちを確定させるための方策」であって参加者のためにやるわけではないことがわかると思います。ギャンブルのことを全然知らないと、このあたりは騙されがちなので気を付けなくてはなりません。悪魔の顔は、やさしそうに見えるものなのです。
(おしまい)