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読書『議会は踊る、されど進む』

東京都知事選が終わりましたね。現職・小池百合子都知事の3期目当選という意外性のない結果もあって、むしろ得票数で蓮舫氏を上回り、2位につけた石丸伸二元広島県安芸高田市長が話題になっているようです。

ほのかな既視感

石丸市長は、安芸高田市長時代に行なった政治家批判やメディア批判の様子がネット上で"ウケ"て知名度が向上した、と。しかし当然に議会との関係は悪く、市への無印良品出店を巡る予算を巡って市長が専決処分(議会を通さず市長が予算を独断で決める)を行なうなど、議会軽視の姿勢が目立っていました。

また石丸市長は今年8月の任期切れを待たずに辞職しており、1期もまっとうせずに東京都知事選に出馬したことになります。石丸市長は昨年、自身が掲げてきた「政治再建」について「ほぼ達成した」との見解を議会で示したそうですが、議会に変化を及ぼすことはなく、ただ対立を続けていただけのようです。市議会を完全に敵に回していることから、市長を続けようにも続けられなかったのが実情ではないでしょうか。

なんだかこの状況には既視感があります。

それが今回紹介する『議会は踊る、されど進む』(著:谷隆一)に記された、ぼくが長く暮らす地元・東久留米市の出来事です。

イオン出店を巡る対立

東久留米市では2000年代に、市内への「イオン」出店を巡って市と市民が対立しました。大型ショッピングモールができれば、交通量は増えるし、地元商店街はたまったものではありませんからね。しかし市側としては、なにより税収増のためイオン誘致を進めていました。

そして、イオン反対派市民の支持を受けて2010年の市長選に勝利したのが馬場一彦さんでした。選挙結果を踏まえれば、馬場市長はイオン誘致の計画を中止すべきです。しかし、すでに市とイオン間で様々な契約が済んでおり、もう引き返せないところまで来ていたことがのちに判明します。

「引き返せない」と知った馬場市長は、あろうことかイオン誘致の計画を前進させ始めます。イオン招致中止によって「契約違反」となれば市に大きなダメージが及びますから、市長の立場としては進めざるをえないという側面もあるのはわかります。

その後、2013年に開業したイオンモール東久留米。
『劇場版 のんのんびより』の"聖地"としても知られる。

しかしこの方針転換は、馬場市長誕生をあと押しした市議らも遠ざける結果となります。そして馬場市長はほぼ孤立状態で市議会と対立し、議会で予算を通せずに専決処分を繰り返すことになりました。

互いの立場を譲らず、馬場市長と議会との間の亀裂は深まるばかり。馬場市長は議会に出席していた市職員を連れ立って退席するという暴挙に出ることすらあり、議会はまるで「学級崩壊」さながらの状態に陥ります。

首長と議会与党が対立して物事が進まなくなることはそれなりによくあることですが、ここまで決定的に「崩壊」することは稀です。しかし元はと言えば、市民に反感を無視してイオン招致を進めてきた前市長や市議会にこそ問題がありました。

ちょうど国政では政権交代が起きた時期に、その風に乗って生まれた馬場市政でしたが、翌年の福島第一原発事故をきっかけに大きく信頼を損なっていった民主党政権と同様、1期限りで政権の座を明け渡すことになりました。

2011年当時、冷静にものを見る人たちは原発事故を「自民党が埋めた地雷を、民主党が踏んだ」と表現しましたが、東久留米市のイオン招致問題も同様でした。しかし民主党政権にしても馬場市政にしても、矢面に立つ者が責められる一方で、その背景にあった国民・市民の無関心などが反省されることはありませんでした。ただその時々に責めやすいターゲットを見つけ、非難し、そして反動と揺り戻しを繰り返すだけ。それは今も昔も変わっていない日本のありきたりな風景です。

世の中が悪くなっているとき、人々が強いリーダーを求め、権力を与えようとすることはこれまで幾度となく繰り返されてきました。しかし、権力そのものには、なにかを変える力などありません。権力によってなにかを変えられると信じられるのは、権力によって自身を変えられてしまうからではないでしょうか。

イオン進出から10年。イオン周辺地域では開発が進む。
開業から3年後の2016年。この当時はまだ猫たちがたくさんいた(写真内に4匹)。

なお本書『議会は踊る、されど進む』は、東久留米・馬場市政における「民主主義の崩壊」を記録していますが、それだけに留まりません。一方でその「再生」についても、狛江市・小平市の事例を取り上げており、日本全国で機能不全に陥っている民主主義を改めて考える際に役立つ貴重な一冊となっています。

今も姿を見かける、最後の1匹(=ひとつ前の写真の子猫の現在の姿)

(おしまい)




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