苦手チャレンジ『蚊取り豚』
ずっと蚊取りマットを使っていたんですよ。
液体タイプのは、消すのを忘れてつけっぱなしにして、無駄に消費してしまうような気がして。その点、蚊取りマットは白くなって効果がなくなるだけだからいいじゃないですか。電気が無駄になるのは、あるけれど。
ただ、蚊取りマットを扱うお店は年々減ってきています。種類を選びにくいし、価格も割高。これは時代の変化についていけない年寄りから搾取しようという資本主義の陰謀です(考えすぎ)。
新居は以前より部屋が多いので追加購入する必要がありまして。どうしようかな~液体タイプにしようかな~と悩んでいたとき、偶然お店で"コイツ"に出会ったのです、にっくき宿敵『蚊取り豚』のやつめと。
もう遥か昔のことになりますが、幼少期のぼくの宿敵は蚊取り豚でした。
もちろん当時は液体タイプはありませんでしたから、"蚊取り線香"が入っているデカイやつ。それを母は、冷蔵庫の前に置いたのです。ぼくが冷蔵庫を勝手に開けて、なかを探るからと。
こうかはばつぐん! でした。
幼少期のぼくはなぜか蚊取り豚に怯え、冷蔵庫に近づけなくなりました。匂いがイヤだったのか、うっかりさわって火傷したことがあるのか、いまとなっては記憶は定かではありません。
それにしても、母も母です。なぜ冷蔵庫の前に蚊取り豚を置くことが効果的だと思ったのか。お香で撃退される妖怪じゃあるまいし、息子をなんだと思っていたのかと。
いや、まあ……撃退されたんですけどね。見事に。
それ以来ずっと蚊取り豚には近づく機会もなかったのですが、半世紀近く、冷蔵庫の前に置かれた蚊取り豚から逃げ続けていることは事実です。きちんと蚊取り豚に立ち向かい、けじめをつけなければなりません。
そう決意したぼくは、購入した蚊取り豚を冷蔵庫の前にそっと置いてみたのです。すると……
いや、なんともない。よかった。
むしろ黒豚ちゃん、かわいい!
というわけで~。安心して冷蔵庫を開けたぼくは、なかに残されていたチョコを取り出し、勝利の証として遠慮なくいただいたのでした。
妻が帰ってきたら怒られるかもしれませんが、もうぼくには怖いものはありません。
ただちょっと、チョコの代わりの品を買いにいこうかなと思います。液体タイプも、けっこうコストがかかるものですね。
(おしまい)