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永遠のVB初心者① VBなんてプログラムじゃねえと言われ

昔々の職場にいたころさ。ぼくは編集者だったが、作っていたのはゲーム制作とかに関する書籍や雑誌でね。CD-ROMがついていて、そこに収録するちょっとしたサンプルゲームなんかは、ぼくら編集者が作っているものもあったんだ。

今でも知られている『ツクールシリーズ』で作った作品もあれば、独自にプログラムを組んでいる作品もあった。ツクールシリーズを卒業してプログラミングに挑戦したいユーザーのみんなのために、ぼくはVB(Visual Basic)関連の企画を担当していたので、VBを使ってあれやらこれやらを作っていた。

ああ、そんなとき聞こえて来たんだ。「VBなんてプログラムじゃねえよ」という声が。

ぼくはまあ、嫌われていた。その後部署を異動したあとで、もとの部署を訪れると「バカが来てる」なんて言われたこともある。その場に、ぼく以外の部外者はいなかった。

なんの理由もなくということもない。ぼくは始末の悪い同僚だったし、ひとに恨まれたり軽蔑される心当たりがいくつもあった。

思ったことを素直に投げつける彼は、有能なプログラマーだった。

まだまだコンピューターの性能が低かった当時。より高い表現のためには、より難度の高い言語を扱えることが求められた時代。動作が遅いVBは、彼らプログラマーの眼中にはなかった。

ゲームがリッチになっていくことを求めていなかったぼくは、そういう風潮が嫌いだったし、ああもう覚えてはいないけど「無駄でバカバカしい」とか言ったかもしれない。思ってはいた。彼の耳に届いたかもしれない。

VBは、夜中に会社に居残って勉強し、身につけた。残業代など出ない。

当時の部署にクリエイター的素質を持った若者が集められたとき、ぼくは「何もできない奴」としてそこに加わった。絵も描けない、音楽もできない、プログラムも組めない。まったくプログラミングなんかできない男が、ようやく身につけたVBを「失格」扱いされるのは悔しかった。でもなぜか、VB以外を勉強してプログラマーになろう、などとは思わなかった。

その後ずっとぼくは編集者やプランナーみたいなものでありながら、「プログラムも組める人」を続けた。別にVBオンリーというわけではなく、C#、CGI(perl)、PHPあたりも扱える。

VBについてもエキスパートになろうなどと考えたことはなかった。大して習熟もしないVBを使い続け、いろいろなものを作ってきた。

ぼくが作りたいものはちょっと特殊なものが多く、他人に作ってもらうのは(採算的に)厳しいという側面もあった。自分で、できるだけ素早く開発するには、VBという選択肢しかなかったともいう。

一番最近リリースしたのは、オンラインRPG運営ツール『タクティクスタディオン』という作品。あれこれ組み合わせてはいるけど、この作品の大半はVBでできている。(タイトルの写真はこの作品のプレイ画面)

『タクティクスタディオン』は、自分で小さな世界を作って、プレイヤーたちを招き、遊んでもらえるオンラインゲーム……を普通のWindowsPC上で運営するシステムだ。ネットゲームの作り方を教えてくれる人などいなかったので、FF11(ファイナルファンタジーXI)を遊びながら動作や通信仕様を研究した。

ほかの仕事をしながらとはいえ、『タクティクスタディオン』の開発には10年以上の歳月を擁した。意地でも完成させるために、心の中で何度も念じた言葉は「ここで自分が作りたいものを作り上げられなければ、他人が作りたいものを作るだけの人生になる。なんとしても、完成させる」というものだ。

でもこの言葉は、自分を騙すための嘘だった。

ぼくには他人が作りたいものを作る能力はない。自分が作りたいものを作り上げられないなら、終わりだ。

(つづく)


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