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なぜ"あの件"は報道されないか①新聞編

ネットでは大きく話題になっているのに「新聞やTVは報道しない!」との批判を見かけることがよくあります。今ならtwitterなどのSNS、昔なら2ちゃんねるなどの掲示板の話題です。現在進行形のもので言えば #Colabo問題 であり、ひと昔前ならペッパーランチ事件なんてものもありました。

そんなとき次に話題に……なりそうでならないのが「なぜ新聞やTVは報道しないのか?」です。なぜならないか、その最大の理由は「事件の当事者とメディアは裏でつながっている」といった陰謀論に陥りがちだからですが、あるいは本当に陰謀が企てられているのかもしれませんフフ。

というわけで、今回はそれぞれの"事件"の真実はさておいて、中立的に「なぜ報道されないか」を、エンタメからそうでないものまでメディアに関わってきた経験を踏まえて掘り下げていきたいと思います。話題の受け取り手としては陰謀論に惑わされないこと、話題の担い手としては報じてもらうために役立つことをお話しできればと思います。

なお、あくまでこれからお話しすることは一般的な意識の低い日本メディアの話になります。海外メディアはまた違うので、そこはご注意ください。

新聞はプライドが高い

まず知っておかなければいけない重要なキーワードは「新聞はプライドが高い」ということです。「新聞だけ?」と気になる方は鋭い! でもTVはほぼ新聞社とグループ企業なのと、まずは古くからある新聞の方から知ることに意味があると考えてください。

これについては、前述したような社会的な事件や問題ではなく、身近な娯楽の話題を例にしたほうがわかりやすいかと思います。

そこで思い出してほしいのは、任天堂の振る舞いです。

任天堂と言えばゲームプラットフォーマーであり、報道的な意味でもっとも注目を集めるのは次世代ゲーム機の情報です。そして、これまでも日経新聞が「任天堂が次世代機を開発!現行機の生産を終了!」みたいなことを報じてきたわけですが、任天堂はいつもバッサリそれを否定します。「そんな事実はない」と。

ところが舌の根も乾かぬうちに、結局は日経新聞が報じたとおりに次世代ゲーム機が発表され、現行機の生産は終了する――そんな"流れ"を見たことがある人は少なくないと思います。

どうしてこんなことが起きるかというと、「新聞は自身の媒体を宣伝に使われることを好まない」という背景があるからです。

新聞社は「任天堂が次世代ゲーム機を開発!」というニュース自体はぜひ報じたいところなのですが、それはあくまで"誰も知らない情報"としての話。日経新聞がすでに報じていることを"後追い"で報じても、むしろ恥ずかしく、広告費なしで宣伝になれば任天堂を得させるだけです。

それゆえ、新聞社は「他媒体で報じられた"既知の情報"は報じない!」という姿勢を取ります。でなければ、「宣伝されたい(できれば無料で)」と考える任天堂などの企業側にとっては、先んじて懇意にしている媒体にだけリークして、その後"その他の媒体"にも報じてもらった方が良くなってしまうからです。この"その他の媒体"になりたくない、というのが新聞のプライドです。そして、この「既知の情報は扱わない」という姿勢は、他社のスクープを封じる効果があります。

……という前提を社会の側も理解しています。

ですから、日経新聞がスクープを放ったとき、任天堂は一度それを強く否定し、後日あらためて広く全紙に対して公式発表することで全紙"横並び"の報道をしてもらうのです。それが任天堂にとってもっとも宣伝効果が高く、一番"得"になるからです。スクープは任天堂にとってありがたくはないのです。

なお、そんな"ウソつき任天堂"について日経新聞は「子ども相手にゲームを売る商売をしておきながら、堂々とウソをつく任天堂は子育てに有害な反社会企業!」と批判・追及してもよさそうですが、いずれ広告を入れてくれるかもしれないですし、「スクープした号が売れた」という事実は変わらないのでそこまではしません。また、資本主義社会という経済至上主義社会である日本で、しかもそういう"主義者"が多い日経の読者に対して「目先の利益のためにウソをついてはいけない!」なんて言うことはありえません。まったく共感を得られず、大切な読者が離れてしまうだけですからね。

もちろん任天堂が「日経新聞はデタラメな情報を載せる便所の落書き、いや最初からチリ紙交換なしで届けられるトイレットペーパーだ」などと言えば日経新聞側も反論するかもしれませんが、お互いわかってやっていることなのでそんなことにはならずに儀礼的に事は進んでいきます。持ちつ持たれつ、みんな仲良くです。

もちろん、情報の新鮮さを損なうのは他紙のスクープだけではなく、ネットも同様です。一般の人々は「なぜネットでこんなに話題なのに、新聞は報じない?」とつい思ってしまいますが、これは逆に「もうネットで知られているから」報じないのです。SNSなどで「このことはみんなが知るべき!」と広めれば広めるほどそのがんばりに反比例して新聞などによる報道は遠のいていきます。

なんだかめんどくさい話ですが、では、これをどうした良いのでしょうか?

社会の側の新聞対応

なにかを報じてほしいと思う側はこうした"新聞社の事情"にあわせた行動をとる必要がありますし、取っています。

それが、記者会見(記者発表)です。

次回詳しくお話しするつもりですが、現状の新聞社はそもそも手広くニュースソースを探ってなどいません。ですから、報じてもらいたい側がニュースソースを新聞社に"与えてやる"必要があります。そのためのベストな手段のひとつとして記者会見が挙げられます。

一般の人々から見ると、記者会見は著名人や社会的責任がある組織などがその立場上の責務として行なっているように思えますが、違います。各社"横並び"で報じてもらうことが第一の目的であり、次に記者の質問に答えることでそれを報じる各紙にわずかばかりの独自性を持たせるチャンスを与えるものです。また、TV報道用の映像ソースを生み出す効果も持っています。

そんなお膳立てをしないと報道してもらえないのか! と思うことでしょう。そうです。世間には、新聞やあらゆるメディアを、市民のために報じるべきを報じる「社会の公器」のように思っている方が少なくないようですが、それはもう完全な間違いで、ほとんどのメディアは当然ただの営利企業です。そう考えれば、彼らに「無料で報じてもらう」なんて都合のいいことがいかに難しいことかわかります。

それでも報じてもらうには

さて、ここまでに紹介したメディアの事情は、あくまで速報としてのニュースの扱いです。メディアが扱うニュースは、まさに"new"の複数形である速報が主体で、これは"今日、起きたこと"が中心ですが、それとは別に調査報道や論説もあります。あ、"news"の語源は東西南北からとする説もあるので、上記の件は話半分に聞いてください。

ただ、企業としてのメディアが腐っていく一方で、個々の記者には志の高い人もいて、結局は”後追い”になろうともなんとか報道しようとする人たちがいます。そのために必要なのが"新事実"です。

すでに広く知られている事件であっても"新たに判明したこと"があれば、報じるに値すると判断されます。ですから、志の高い記者は独自に調査を行なって、なんとか報じるための手がかりを探します。結果としてそれが見つかればタイトルに【独自】とつけた一種のスクープ報道をもって乗り遅れた話題に参戦することができるのです。これは、"各社いっせい"の記者会見では弱いので、報じてもらいたければ懇意にしている記者に情報提供するといった別の手段、いわゆる"リーク"が必要になります。

例えば昨年の安倍元総理銃撃事件では、安倍元総理や山上徹也容疑者と統一教会のつながりが参院選よりあとになって次々に"遅れて"報道されましたが、このとき各メディアはそれぞれ別の自民党議員と統一教会のつながりを追い、報じています。

もとを辿れば、統一教会を20年も追い続けてきたジャーナリスト鈴木エイトさんが情報源になっていた件が多いのですが、あるいは鈴木エイトさんはメディアの事情を知っていて、各社個別に別々の情報を与えることで各社参戦のお膳立てをしたのかもしれません。ま、これは根拠のない逆陰謀論みたいなものですが、そこまで配慮しないとメディアは動けないことがあるし、そこまですれば動かせると考えることもできるわけです。鈴木エイトさんでなくとも、「この件を報じてほしい!」と思う人には必要かつ有効な振る舞いであることは間違いありません。

動かす人がいたから動いた、動かす人がいなかったから動かなかった。その違いが時に偏りや陰謀に見えてしまうこともあるでしょう。

裏・メディアコントロール

もちろん「今はネットの時代! そんな子どもみたいなオールドメディアに配慮までして報じてもらわなくてもいい!」という考え方もあります。それはそのとおりです。

なにせ、オールドメディアに報じてもらおうとすれば「ネットには(先に)情報を出さない」という制約が加わることになります。

ぼく自身も個人的にはオールドメディアはもう死ぬしかないと感じており、やがてネット報道が中心になることは必然だと思いますが、そのためには情報の受け手であるぼくら自身に"リテラシー"が必要になってきます。

気を付けなければいけないのは、ここまでお話ししてきたことは一般の人々は知らなくて当然ではあるものの、報道発表をするような企業の関係者や実業家、メディア当事者、そして社会を理解しているからこそ市民を代表している政治関係者など、かなり多くの人が知っている、あるいは知っていて当然のことだということです。

そして、それを知る立場にあれば「ネットではこんなに話題なのに、なぜかオールドメディアは報じない!」という批判をすることは、本来ありえません。新情報をどんどんネットに出していくことは、オールドメディアによる報道を封じることになるとわかっているからです。

にも拘わらず、インフルエンサー的な人たちが「オールドメディアが報じない~」と言うのには、いくつかの理由が考えられます。

まず第一に、本当に事情を知らないケース。ネットの話題に無責任に乗っかろうとする無名政治家やYouTuberなどに多いのですが、皆を代表して社会を動かしたり、人々に影響を与えていい人物とは言えないので注意が必要です。党派を問わず、です。

第二に、オールドメディアを貶めるため意図的にやっているケース。賢いですね。

なお、お膳立てをして記者会見を行なったり、報道各社にプレスリリースを送付しても、報じられないことだって、もちろんあります。その理由も様々ですが、さすがに話が長くなってきたので次回に続きます。次回は報道の源流についての誤解を、遡って考えます。

(つづく)





 

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