Dvorak配列との出会い

 おおよそ一般的とは言い難いキーボード配列……Dvorak配列を、いったいどこで知ったのか? 記憶しているのは2つ。月刊ASCIIのコラムとAppleⅡcのチラシ。

 昭和末期〜平成初期にはインターネットはまだ一般には普及しておらず、情報の収集はもっぱら『紙の本』。さまざまなコンピュータ雑誌が毎月発刊される中で、パーソナルから業界の専門的な話まで幅広い内容を扱っていたのが「月刊ASCII」。その中のコラムでDvorak配列の紹介と、当時最も普及していたPC-8801やPC-9801でDvorak配列を使う方法などが解説されていた。

 その当時のコンピュータ雑誌の二つの雄は「月刊ASCII」と「I/O」だった。「月刊ASCII」はどちらかと言えばニュースとソフトウェアを扱う側、「I/O」はハードウェアに近いディープな内容を扱う側のイメージ。自分は電子工作や機械工作はしないので「I/O」は買っていない。むしろ、ソフトウェアからクリエイター側の話題を扱っていた「LOGIN」の方が好みで、よくお世話になりました(いろんな意味で)。「マイコンBASICマガジン」もよく買って、かなりの影響を受けたけれども、時代的には少し前になるので別の機会に取り上げることにする。

 だから月刊ASCIIのコラムでは、ソフトウェア的にDvorak配列を実現する方法が紹介されていたはずだ。ResEditもソフトウェア的な解決方法なのだが、そのコラムで解説されていたか?定かではない(おそらく書かれていなかったはず)。

 一方、AppleⅡcでは、Dvorak配列が“なんと”ハードウェア的に実装されていた。ボタンを押すだけで、QWERTY配列とDvorak配列が切り替わるようになっていた。自分は実機を持っていないので確認はできないが、カラー刷りのちらしには誇らしげに解説されていたのを鮮明に覚えている。

 AppleⅡというのは、Apple社の黎明期に爆発的に売れたパーソナルコンピュータだ。Macintoshが産れるずっとずっと前の時代のコンピュータで、もちろん憧れのコンピュータでもあった。AppleⅡcは後継機の中でも、やや後期の廉価・入門版的な扱いだったと記憶する。

 キートップにはQWERTY配列のアルファベットが刻印されている。そして、キーボード切り替え用のボタンでDvorak配列に切り替えられる。しかし、キートップにはDvorak配列用のアルファベットの刻印は無い。それじゃあ、どのキーが何になるのか分からないじゃない……と思うでしょ? その答えとして「Dvorak配列は使い易く、自然とキーの場所を覚えるので、キーボードを見る必要がありません」とチラシに書かれていた(と記憶する)。理由としては、本当にその通り。今も自分はDvorak配列を使い続けているけれども、Dvorak配列は無駄な指の動きが無く、指の下のキーボードを見るためにわざわざ手を動かす必要がない。

 でも今から思うと、キートップにDvorak配列用の刻印を入れなかったのは、Apple的な美学もあったかもしれない。

 もしも日本のメーカーが、同様の機能を持ったパソコンを作ったとしたら、どうするだろう? QWERTY配列のアルファベットの刻印は通常通りで、Dvorak配列用の刻印を少し目立たない青色なんかでキートップに小さく追加するんじゃないだろうか。ありがちでしょ? 現に、かな入力なんてほとんど使う人はいなくなったのに、いまだにほぼ全ての市販のパソコンには「かな」表記がされている。使いもしない「かな」表記のために、日本のパソコンのキートップはごちゃごちゃしている。「JISキーボード」という規格の害悪だ。

 キートップから「かな」が消えたところを想像して欲しい。一つのキーに、一つの文字。とってもシンプルで美しい。それは、Appleの創始者ースティーブ・ジョブズの目指した「禅」に通じている。

 Macの場合、今でもキートップに「かな」が無いものを買うことが出来る。「USキーボード」、「英語キーボード」とも呼ばれる。他のメーカーでも選べる場合があるが、非常に珍しい。けれど、Macの場合はどのモデルでも購入時に選択が出来る。自分はずっとUSキーボードを選んでいる。キーボードを見る機会が少ないからこそ、キートップがすっきりしているのが好みだ。

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