UFCとは何か? 第四回 「オープン・フィンガー・グローブの義務化とスターの登場」
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現在、数ある総合格闘技(MMA)団体のなかでも、最高峰といえる存在がUltimate Fighting Championship(UFC)だ。本国アメリカでは既に競技規模、ビジネス規模ともにボクシングに並ぶ存在と言われている。しかしMMAの歴史を振り返れば、その源には日本がある。大会としてUFCのあり方に大きなヒントを与えたPRIDEはもちろん、MMAという競技自体が日本発であるのはよく知られるところだ。
そこで本連載ではベテラン格闘技ライターであり、この4月までWOWOWで放送していた「UFC -究極格闘技-」で解説を務めていた稲垣 收氏に、改めてUFCが如何にしてメジャー・スポーツとして今日の成功を築き上げたのかを語って頂く。
競技の骨組みとなるルール、選手の育成、ランキングはもちろん、大会運営やビジネス展開など如何にして今日の「UFCが出来上がったのか」そして、「なにが日本とは違ったのか?」を解き明かしていきたい。
世界一の“総合格闘技”大会―― UFCとは何か?
The Root of UFC ―― The World Biggest MMA Event
第四回――オープン・フィンガー・グローブの義務化とスターの登場」
著●稲垣 收(フリー・ジャーナリスト/元WOWOW UFC解説者)
前回はジョン・マッケイン上院議員らに「野蛮で危険な大会」というレッテルを貼られたUFCが多くの州で大会開催不能に追い込まれ、南部の田舎町をドサ回りするハメに陥り、その状況を脱するために少しずつルール改正し健全な「スポーツ」として認められようと努力を重ねてきたことについて書いた。
初期UFCにはなかった判定決着もUFC7.5(アルティメット・アルティメット1995)から導入された。(それまでは時間内にKOかタップ――マットか相手の体を2度以上叩いてギブアップすること――がなければ引き分けだった。)UFC12からは、二階級だけではあるが階級制も導入された。そしてフィッシュ・フック(相手の口に指を突っ込んで引っ張る行為)も禁止となった。この間、後にPRIDEで活躍するマーク・コールマンもUFCに登場し、王者になっている。
今回はUFC13からUFC15までの、さらなるルール改正について見ていきたい。
また、後の“UFCライトヘビー級の暴君”ティト・オーティズ、“二階級制覇王者”ランディー・クートゥア、“大和魂”エンセン井上らスター選手たちも、この時期にオクタゴンに初登場する。
UFC13でランディー、ティト、エンセン井上がオクタゴン・デビュー
UFC13はジョージア州オーガスタで1997年5月30日に開催され、ヘビー級(200ポンド=約90・6kg以上)とライト級(200ポンド未満)で、それぞれ4人によるトーナメントが行なわれた。
この大会では後に「UFCの名誉の殿堂」入りするランディー・クートゥアとティト・オーティズがUFCデビューした。
また、修斗でオランダの強豪キックボクサー、アンドレ・マナートを破った日系ハワイアンのエンセン井上も初出場する。(修斗は“初代タイガーマスク”佐山聡がUFCより4年も早い1989年に創始した日本の総合格闘技大会で、当初は「シューティング」と呼ばれた。)
エンセンはグレイシー一族から柔術を学び、日本では佐山聡のもとで練習し、UWFインターナショナルの金原弘光や桜庭和志らともスパーリングを重ねた。それによって金原や桜庭にグレイシー柔術のエッセンスを伝え、自らは彼らがUWFインターナショナルで身につけたキャッチ・アズ・キャッチ・キャン(*)の技術や、レスリング技術も吸収した。
当時エンセンは佐藤ルミナ、桜井“マッハ”速人、朝日昇とともに“修斗四天王”と呼ばれていた。
*キャッチ・アズ・キャッチ・キャン:イギリスのランカシャー・スタイル・レスリングをルーツとするサブミッションやスープレックスを中心としたレスリングで、ビリー・ライレーのジム「スネーク・ピット」で修業したカール・ゴッチやビル・ロビンソンが、佐山聡、藤原義明、前田日明、高田延彦らに伝授した。ロビンソンは桜庭にも直接指導している。
エンセン井上はレスリング世界選手権準優勝のアルジャーに一本勝ち
UFC13のライト級トーナメントに出場したエンセンは、1回戦でレスリング世界選手権準優勝、全米学生選手権でも優勝の実績を持つロイス・アルジャーと対戦。アルジャーは、“全米レスリング界の偶像”、ダン・ゲーブルの弟子(72年のミュンヘン五輪金メダリスト)で、総合格闘技はマーク・コールマンから習っていた。
コールマンはUFC12でダン・スバーンを破りUFCのトーナメント王座とスーパーファイト王座を統一し、初代UFCヘビー級王者になっていた。そのコールマンが、このUFC13でアルジャーのセコンドに付いていた。
一方エンセンのセコンドには兄のイーゲンと修斗の盟友・朝日昇が付いた。
試合開始直後、アルジャーはタックルに行くが、エンセンはこれを防御し、アルジャーの右腕を両脚ではさみ、左腕を自分の腕で取りに行く。UFC8でゲーリー・グッドリッジがポール・ヘレーラに対してやったように、「はりつけ状態」にしてヒジ打ちやパンチを落とそうというのだ。
だがアルジャーは、さすがに世界レベルのレスリング選手だけあって、エンセンを「飛行機投げ」で投げて頭からマットに叩きつけ、取られていた腕を外して上になった。そこからエンセンにパンチやヒジを落としていく。
下になったエンセンは両脚をアルジャーの胴に回して組む「クローズド・ガード」を取り、まず両腕をアルジャーの胴に巻いて密着し、パンチを防ぐ。これに対しアルジャーは腰を上げて、エンセンの腕を自分の胴から外し、パンチを落とす。
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