コ2【kotsu】対談 『中井祐樹の新バイタル柔術』出版記念イベント 中井祐樹×浜島邦明 第五回
『中井祐樹の新バイタル柔術』出版記念
対談 中井祐樹(JBJJF会長)×浜島邦明(JBJJF事務局長)
第五回「普及しすぎた柔術ルール」
去る2018年10月31日、東京神保町・書泉グランデで、『中井祐樹の新バイタル柔術』出版記念対談が行われた。
今回、著者・中井祐樹の対談相手を務めていただいたのは、JBJJF(日本ブラジリアン柔術連盟)の事務局長・浜島邦明氏。奇しくも同連盟の会長である著者と事務局長の対談となった本イベントは、「発禁にならないことを願うのみ!」という中井氏の言葉から始まった。果たしてその真意は? 会長でありながら「自分は半分アンオフィシャル」と言う中井祐樹氏が本書と柔術の未来にに賭けた思いを連載でお届けする。
取材・文:コ2編集部
協力:書泉グランデ
普及しすぎた柔術ルール
浜島 現状、アマチュア格闘技の競技人口としてBJJが一強になってるじゃないですか。その一方でノーギ(編注)、グラップリングの層が薄くなってしまってるのですが、その点、会長としてどう思われますか?
(編注:ノーギ 道着を着ないで行う柔術のスタイル)
中井 私はもっとサブミッションに特化した人に出てきてほしいと考えてます。そういう意図もこの本に込められてますし、いくつかの技をノーギで表現しているのもそのためです。ノーギの世界で多用される技術は、ノーギで紹介している。それは私のこだわりです。
だから本をめくってるとそれまで道着を着てたところに、いきなりノーギが出てくる。それもあえて意図したことです。ギありとなしを並列で並べる。結局、一緒なんだよということを言いたいんです。
『中井祐樹の新バイタル柔術』より
浜島 昔はもっと柔術とグラップリングの交流ってありましたよね。柔術家がADCCに出て優勝したり、日本でもMMAの選手やサンビストが道着を着ると柔術家に対して不利だから、グラップリングで挑むという流れがあった気がするんですが。今はあまり見られませんよね。
中井 私に言わせると、柔術ルールが普及しすぎたんですよ。
浜島 普及しすぎた。
中井 そう。どこに行っても柔術ルールで動いている。だから外の人も柔術の中に入らないといけないことになる。そうやってオセロのようにバーっと柔術に染まってしまった。だからBJJとそれ以外に分けると、それ以外がすごく少なくなってしまうんです。彼らが活躍する機会がとても少ない。それはある意味私達の勝利ではあるんだけど、同時に考えなくてはいけないことでもある。
今、私は指導者たちにもそう問いかけてるんです。「柔術やってて立ち技強くなるのか」「柔術やってレスリングうまくなるのか」と。本当はなるんです。もともと全部中にあるんだから。でも立ち技を強化するため、柔術とは別に柔道なりをやることになる。ただもし練習の中に内包されてないなら、外に出るのも大事です。
だから私はSNSで他競技のことばかりつぶやいてますよね。それは柔術についてはことさらつぶやく必要がないから。
浜島 事務局長的にはもっとつぶやいて欲しいんですが……。
中井 大丈夫なんだよ。柔術は。
浜島 いやいやいや(笑)。でもかつて中井先生を筆頭に早川光由さん、桑原幸一さん、和道稔之さん、そして末席に私などが柔術を広めようとしてきた時代と現状を比べると、本当に夢のような発展ぶりです。それだけに「普及しすぎた」という言葉は本当に衝撃です。
中井 みんな柔術に染めてしまったんです。だって柔道でさえ最近は柔術になってる。
浜島 当時は渡辺直由さんのように、道着もノーギも勝っちゃう人がぽんと出てきたのですが、最近は本当に柔術家は柔術だけ。そういう傾向が確かにあります。
中井 でしょ? だからもっと混ざれと言ってるんです。柔術やってる人が、外のルールに出る必要がある。そうやって強くなってもらって、柔術には全部あるという風にしてもらいたい。
浜島 そういう概念って、日本の柔術界にありますかね。
中井 ほぼないと思います。
浜島 ですよね。
中井 だからこういう本を作ったんです。私が言わなければ誰が言うんだと。
浜島 中井先生にしか言えなくないですか?
中井 まあ、そうだと思います。だから私が言うんです。他の人達は立派な柔術の先生になっちゃいましたから。とても優秀な先生たちです。
でも私は柔道界ともMMA界ともレスリング界ともつながっているので、その中では建前半分で柔術を下げた言い方をすることもあります。「柔術はまだまだですよ」って。
例えば全日本柔道連盟で教える時には「あなた達は柔術必要ない人達ですよね?」と言います。柔術って柔道部なら学年で一番弱い子に自信をつけさせる程度のものです。柔道の中に入れたらそのくらいになってしまう。
「あいつ、投げはからきしだし柔道全然弱いけど、寝技しつこいから良い練習になるよね」みたいな。「その程度のものなんだから、君たちが覚えられないわけないんだよ」と。
でも、
「柔術はガードからの攻めなど、ある程度セオリーがあって教え方も固まったものがあるから、覚えやすいはずだよ」と。そう言うと選手たちが食いついてくるんです。
先日、阿部詩選手が腕絡みで優勝しましたけど、一般的に選手たちには寝技に苦手意識があるらしいんです。「習ってないから」って。半分謙遜してるんでしょうけれども、順序立てて習ってないから苦手だと言う。それで外国人の方が寝技が強い、と。だからこそ寝技で攻められるとパニクる。そういう苦手意識が日本のトップ選手ですらあるんですね。
だから私はそこをむしろ「寝技できたら一本取る」という意識に変えたい。むしろチャンスにできるんだ、ということを繰り返し伝えました。
とは言え、私が招かれた短い時間でできることは限られるんですが、以降、近所の柔術道場に月1回くらい通うようなことになって来るのではないでしょうか。
そうやって日本のトップが変わると、その下も一気に変わる。実際に地方で活動する柔術の先生からも、「柔道の町道場と交流しやすくなった」という声も出てきています。
七帝柔道には完全にBJJの技術が溶け込んでますよ。上級生が下級生にデラヒーバガードやディープハーフを教えてるんです。
浜島 ええっ?
(第五回 了)
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–Profile–
●中井 祐樹 (Yuki Nakai)
なかい・ゆうき/本名同じ。ブラジリアン柔術家、元総合格闘家。 1970 年、北海道石狩市(旧・浜益村)生まれ。北海道大学法学 部中退。札幌北高校ではレスリング部だったが、北海道大学で 寝技中心の七帝柔道に出会い転向。七帝戦で北大を 12 年ぶりの 優勝に導き、4 年生の夏に大学中退。上京してプロシューティン グ(現在のプロ修斗)に入門、打撃技も身に付けて総合格闘家に。 1994 年、プロ修斗第 2 代ウェルター級王者に就き、1995 年のバー リトゥード・ジャパン・オープン 95 に最軽量の 71 キロで出場。 1 回戦のジェラルド・ゴルドー戦で右眼を失明しながら勝ち上が り、決勝でヒクソン・グレイシーと戦う。この時の右眼失明で 総合格闘技引退を余儀なくされたがブラジリアン柔術家として 復活。現在、日本ブラジリアン柔術連盟会長、パラエストラ東京代表。著書『バイタル柔術』(日本スポーツ出版社・絶版)、『希望の格闘技』(イースト・プレス刊)の他、『本当の強さとは何か』(中井祐樹・増田俊也 共著 新潮社刊)『VTJ 前夜の中井祐樹』(増田俊也著 イースト・プレス刊)などがある。
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