地球最後の日 好き好きマシーンとは人間の脳を管理するコンピューターシステム
2030年、終身雇用という言葉は、死語になり、つぎに企業で考えられたことは、選ばれた優秀な才能を、最大限に活用することであった。
それには、仕事、その会社で働くことに喜びを感じてもらわねばならない。しかし、便利な物がどんどん開発され、わがままに育てられた人間を管理するのは、至難の業である。
そんな多くの企業の要望に応えるべく、H研究所は会社存続をかけて仕事をすることが好きになるコンピューターシステムを開発した。
名付けて「好き好きマシーン」。
さて、このコンピューターの使用法だが、まず、入社時に、その人の性格、好きなタイプ、好きな音楽、好きな色、好きな食べ物などなど・・・考えられるすべての好みをコンピューターにインプットする。
また、このコンピューターは、社員カードとインターネットで常時接続されていて、刻々と移り変わる好みを研究所で感知し、自動的に修正変更が加えられるようになっていた。
さて、そのコンピューターシステムを導入すると、H研究所が開発した社員カードを常に携帯することを義務づけられる。もちろん、仕事をしない時は不要だから、持ち歩かなくてもいい。
さて、この社員カードを身につけて仕事をすると、その人間は、例外なく自分の好みにピッタリ合った状態で仕事ができる。
たとえば、Sさんがビーフステーキが食べたいのに、お金が足りなくてハンバーガー一個のランチになったとしよう、現実にはハンバーガーを頬張っている彼女だが、カードから発せられる特殊な電磁波で、彼女の脳は錯覚を起こし、最高級のレストランでビーフステーキを食べていると錯覚する。
また、職場のすべての人が、彼女の好みのタイプの人々ばかりだと錯覚する。あの憧れの歌手が課長に、あの胸を時めかせた俳優が主任に、そして、初恋の人が主任として、Sさんの周りにいて、優しく接してくれるのである。
しかも、現実には、怒られていても、彼女の脳は、口説かれていると錯覚してしまう。
これで、人間関係に悩むこともない。
また、彼女の頭の中では、彼女が一番好きなタイプの音楽が流れている。
その他、考えられる好みのパターンすべてが、彼女の好みに錯覚して勤務時間をすごすのである。また、仕事を頑張れば頑張るほど、いろんな好みの出来事が頭の中で起きるのである。
また、逆に働くのを休むと禁断症状で苦しむことになる。
もちろん、現実には髪を振り乱し、汗まみれになって働いているにすぎないのだが、知らず知らずうちに彼女は死にもの狂いで仕事をしているのである。
だから、愕然とするのは、勤務時間終了時である。
一瞬にして、夢のような生活から現実に戻ってしまうのである。
「あら、もう仕事が終わったの・・」
家に帰りたくない社員が続出することになる。
もちろん、会社は、残業にも応じる。
ただし、残業手当は出ない。
それでも、もはや会社の虜となった社員たちは、働き続けるのである。
どんな過酷な労働条件になっても、どこからも文句は来ない。
文句や苦情が来たとしても、本人が好きでやっているのだから、止めようがない。
こんなに会社にとって、都合のよいことはない。こんなわけで、
「好き好きマシーン」
なるコンピューターシステムは爆発的に売れた。
しかし、このコンピューターシステムにも、弱点があることが次第に明らかになった。
寝るのも忘れて働いてくれるのはいいが、仕事なんて無限にあるものではない。
仕事は有限なのである。でも、人間の快楽に対する欲求は果てしないから、
「仕事くれー」
と半狂乱で叫びだす仕事中毒の社員、
「仕事・・・仕事・・・」
とニタニタ呟きブルブル震える社員たちまで現れ、このコンピューターシステムを導入した企業は対応に困り始めた。
そこで、H研究所では、仕事をしたくなくなり会社が嫌いになるコンピューターシステムを開発するように導入先の企業から迫られるようになった。
しかし、これがなかなか難しい。死にもの狂いでやらなくてはならない。
そこで、H研究所にも、「好き好きマシーン」が導入された・・・
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