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がんばれ!チエちゃん

小学校6年生の真由子ちゃんには、二つ年下の妹のチエちゃんがいた。
チエちゃんは、生まれて3ヶ月の時に高熱を出して、今でも後遺症なのか知能指数が3歳以下と診断されている。
チエちゃんは、毎朝、お母さんに手を引かれて養護学校に行っていた。
幸い健康そのものなので、約5キロの道のりも、なんのそのだ。
でも、お母さんがいっしょでないと、チエちゃんはじーっとしているだけ
で何もできなかった。
真由子ちゃんは、チエちゃんが病気になったのは自分のせいだと思っている。
お母さんが当時2歳の真由子ちゃんを可愛がって、チエちゃんにまで気が回らなかったから後遺症が残ったと思っている。
だから、
「きっと、チエちゃんの病気を治してみせます。もし、治らなかったら、
私はお嫁に行かないでチエちゃんの面倒をみます」
と、校内の放送の”自分の主張”で
泣きながら話した。
ある日、真由子ちゃんが、インターネットの相談室にメールを送ると、返事が返ってきた。
そのメールには
それでも魂は、同じようにちゃんとあるのだから、絶対に諦めないで、じっと目を見て心で話してあげれば、絶対に伝わるはずです。
と書いてあった。
その日から毎朝10分寝る前に10分、真由子ちゃんはチエちゃんの目をじっと見つめて心で話をすることにした。
チエちゃん、私、3ヶ月後、ピアノの発表会あるの。一生懸命練習したから
お母さんにも見に来てほしいの。だから、その日は一人で学校に行ってね。
お父さんやお母さんは、はた目に見ている限りでは黙っているし、にらめっこでもしているのかなと半信半疑で見守っていた。
1ヶ月くらいは、何の変化もなかったチエちゃんだったが2ヶ月目のある日、雨の朝だった。
いつも、じっとお母さんを待っているはずのチエちゃんが、家を出るなり傘も差さずに歩き出した。
お母さんは、びっくりして、傘をチエちゃんの頭の上に差し出しながら追いかけた。
チエちゃんは信号や横断歩道も、ちゃんと止まった。信号が青になると
チエちゃんは歩き出した。
アイーアイーと言いながら、黙々と歩いて、とうとう養護学校の門まできた。
その日のチエちゃんは、校門を通りすぎるなり、気を失って倒れてしまった。
その数日後から、お母さんは近所の奥さんたち10人に頼んで、養護学校までの危険な場所、横断歩道や信号のあるところに立ってもらい、お母さんはチエちゃんが、来るのをドキドキしながら校門で待っていた。
その日は朝からカンカン照りの日だったが、チエちゃんは汗だくになりながらも、一人でやってきた。
それから、見張りを少しずつ減らして、とうとうお母さん一人が先回りして校門で待っている日がやってきた。
その日は真由子ちゃんも、途中の歩道橋の陰で、こっそり待っていた。
チエちゃんは、まっすぐ前だけを見て、アイーアイーと言いながら黙々と歩いて行った。
そんな妹の姿を見ながら、涙の止まらない真由子ちゃんは、
チエちゃん!頑張れ、と心で何度も何度も叫んだ。
その日は真由子ちゃんのピアノの発表会の前日だった。

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