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ある夕暮れ。誰も乗らないブランコが微かに揺れている公園の脇に一台の車が止まっている。乗っているのは二人の刑事。二人は、そこから見える指名手配中の犯人のアジトらしいアパートの部屋に灯りが点るのを待っていた。その束の間に...6月24日

 
誰も乗らないブランコが微かに揺れている
夕暮れの公園の脇に一台の車が止まっている。
乗っているのは二人の刑事。白髪の常田と若い富岡。
二人の刑事は、そこから見える指名手配中の犯人のアジト
らしいアパートの部屋に灯りが点るのを待っていた。
「本当に来るんですか?」
「来るとも・・・俺のカンに間違いない」
「カンねえ・・・あれー」
富岡の目が点になった。
常田は不思議に思って
「どうした?」
「いえ・・あの二人・・」
富岡の目線の向こうには制服を着た男の子と女の子が
見つめ合っている・・・
「たぶん・・」
「たぶん?・・・」
「キスですよ・・あの雰囲気・・初キスですよ」
「どうして分かる?」
「カンですよ」
「まいったなあ・・・おまえもカンか」
それから10分過ぎ20分過ぎ30分過ぎても・・・
アパートには灯りはつかないし・・・
公園の男の子と女の子も、しそうでしない・・・
接近したかと思えば・・離れて・・・離れたかと思えば・・
また、接近して・・・を繰り返していた。
「アッアッ・・・アーン・・この意気地なし・・男だろ・・
男なら行け!・・チュウー」
富岡は張り込みよりラブシーンのようで、一人で興奮していた。
あきれた常田は、
「まったく・・ところで腹減ったなあ。おまえは?」
「そうですね・・」
「そこで何か買ってくるから、ちゃんと見てるんだぞ
おい・・・そっちじゃない・・・こっちだ」
常田は富岡の頭をパンと音が出るほど叩いて買い出しに行った。
 
10分くらい過ぎて常田が車に戻ってくると、富岡がニンマリしながら
しきりに感心している。
「おい、どうだ?・・」
「行きましたよ」
「ええ・・・ほんとか・・・よし、行こう」
常田が車から出ようとすると富岡が少し驚いて、
「え?どこへ」
「どこって、あのアパートに犯人(ホシ)が来たんだろ」
「いえ、来てませんよ」
「ええ?」
「いや、あの高校生・・・ちょっと・・ちょっとだけ・・
ほんの一瞬だけどキスしたんです。いいなあ・・
あの頃はあれだけでも心臓が爆発しそうなんですね。
いやあ・・まいったなあ」
「おまえなあ・・」
その時、富岡の顔色が変わる。
「常田さん・・・来ましたよ」
急に真顔になった富岡の目線の向こうにある
アパートの部屋に灯りが点った・・・
 

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