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波瀾万丈な男ほど昔から子だくさんで、なぜならば、日々の生活や仕事だけで心が動揺することが多いからである。危機意識がオスの本能を呼び覚ますわけである。

昭和の時代のお話です。
大阪の繁華街難波の街が、夜の7時ころから
停電になったことがありました。約1時間ほどで、
復旧したのですが、街は大混乱し、その責任を
取らされて、たまたま電気工事の立ち会いをしていた
山田義男という30過ぎの配電会社係長が
警察に一時身柄を拘束されました。
まあ、こんなケースは珍しいのですが、
警察も街がヤンヤの騒ぎになったもので
とりあえず誰かの身柄を拘束しようと動いたのでした。
 
「なんで、俺が逮捕されるんですか」
義男は必死で抵抗しましたが、5人ほどの警官に
取り押さえられて、留置場に放り込まれました。
「ただの停電ですよ・・・工事が少し長引いただけですって」
留置場の中で、義男が懸命に叫んでも誰も出てきません。
義男は冷たい鉄格子の中で、寂しく座り込んでしまいました。
目の前に見えるのは、薄汚れた簡易トイレだけです。
お腹は空いてきたし、誰か迎えに来てくれないか、
もう泣きそうな気分の義男でした。
 
3時間後、今日は、ここで泊まりかと、さすがに
観念した義男が、堅い堅いベッドの上で、ウトウト
し始めたときでした。
「おい、山田義男・・・釈放だ」
と強面の警官が呼びかけました。
疲れ切った義男が引きずられるように、拘置所の玄関口まで
来ると、会社の部長が待っていました。
部長は義男の姿を見ると駆け寄り
「大変やったな・・・」
と言うと、警官に頭を下げて
「さあ、山田君帰ろう・・
今日はタクシーで帰ってもいいからな」
と、外で待たせていたタクシーに一緒に乗り込みました。
 
まだ、最終電車の走っている時刻でしたが、
生まれてこの方、一度も警察のご厄介になったことのない
気弱で真面目な義男にとっては、暴風雨の吹き荒れる
嵐のような3時間でした。
 
家に帰ると、ちょうど深夜0時になっていました。
何事もなく
「あら、おそかったわねえ・・」
と迎える妻に、義男は放心状態で言いました
「俺なあ・・・今まで檻のなかにおった」
天真爛漫な妻は
「フフフ・・・ライオンじゃあるまいし」
「ほんま・・・停電で難波の街が大騒ぎになって」
「へえ・・」
と、半信半疑の妻でしたが、その妻の作ったお茶漬けを
狂ったようにお茶碗10杯食べた義男は、
「もー寝る・・・」
と、妻の手を引き布団に入ったのでした。
どこかの医者が言う話によると、危機感がオスの精子の動きを
活発化させるそうですが、その夜の義男は、新婚当時でも
考えられなかったほど、妻にむしゃぶりついて離さなかったそうです・・
 

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