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英語なまりのコージ(2)

「今日と明日は、東京で明後日はロスだ」
あさってを明後日(ミョウゴニチ)と言い、ロサンゼルスをロスと言う旧式人工知能コージは相変わらず英語なまりです。
175センチ100キロ。
どこから見ても、太った人間に見えるのは相変わらずです。
今、コージは商社でパソコン関係の部品を輸出入する仕事をやっている。
四捨五入で切り上げれば40歳になる独身の彼に結婚の話はもちろんタブーです。
コージは10歳年下の教え子と結婚したA先生のことをまだ忘れていないのです。
いや、根に持っていると言った方が正解でしょう。
そんな彼の心中を察した私は、お得意のムード満点のスカイラウンジを避けてムンムンと男の魂漂う某ホテルの地下ラウンジで待ち合わせることにしました。
そこで、私たちはウインド オン ザ ワールドというカクテルを注文しました。
きれいな水色のカクテルで女性にお勧めです。
おっさんが飲むにはもったいない。
ただし、ミントが苦手な人はちょっと難しい。
目の前でカシャカシャとバーテンダーがシエイカーを決めています。
「このカシャカシャ・・・うん、どこかで聞いたことがある・・たしか、この音は・・・」
眉間にしわを寄せ、英語なまりで悩むコージに私は
「なんやねん、おっさん・・」
と水を差すような大阪弁なまり。
「そうそう・・・あのリズムこそはゲーセンのインベーダーゲーム・・・」
私より4歳か5歳年長の彼はインベーダーゲームの達人だったのです。
とんでもない物を思い出させてしまいました。
かつて隆盛を極めたインベーダーゲームは私たちの学生時代には、ゲームセンターの隅で粗大ごみ化し寂しく埃をかぶっていました。
現在の多種多様化するゲームのご先祖様と呼ばれる古典的名作インベーダーゲーム。今では無料のミニゲームになっている。
どのくらいコージが得意だったというと、新聞配達をやっていた私が夕刊の配達に行く夕方3時ごろにゲームセンターで隅に眠るインベーダーゲームを
コージは叩き起こします。
翌朝の朝刊の時は、もちろんコージは下宿に帰っていません。
そして、まる24時間後の夕刊の時も驚くことに帰っていません。
そして、その翌朝の朝刊を配り終え朝寝をしようとする私の前に
「帰ったぞ・・・」
とコージは現れるのです。実に36時間、彼は100円。
ケタを間違っては困ります。百円でインベーダーと格闘し続けるのです。
驚くべき集中力、馬鹿なおっさん。
その間、もちろん肩が凝ったりゲームセンターの係りの人が
「すごいですね」とか「もう・・・そろそろ・・・」
そして、「馬鹿も休み休みしてくださいね」
と言おうとすると、ここまでやると尊敬を超えて脅威になります。
肩がしびれて上がらなくなったコージは、サーカスではありませんよ。
突然、靴を蹴り捨て足でボタンとハンドルを操作するのです。
インベーダーゲームの1サイクルが何十分か知りませんが、さて何十サイクル回ったのでしょう。
 それから、20年以上の年月が流れましたが、今私の隣で一杯2800円(税・サービス別)のカクテルを水のように何倍も飲みながら、
「おまえのオゴリダヨ」
と英語なまりで言うコージをにらみながら
「いくらこのオッサンでもパソコンを足で操作せえへんやろなあ」
と私は大阪弁なまりで勘繰ってしまいました。
 

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