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子持ちシシャモの身は悲しくて切なくて甘えたい。美穂は初めての妊娠八ヶ月、未知との遭遇まで、あと2ヶ月と迫った。いや、もうすでに始まっているのかもしれない・・・3月22日

 
子持ちシシャモの身は悲しくて切なくて甘えたい。
美穂は初めての妊娠八ヶ月、
未知との遭遇まで、あと2ヶ月と迫った。
いや、もうすでに始まっているのかもしれない・・・
 
結婚前、そして新婚当時の魅力だった
笑うとゾウの目のようになる夫の優しい眼も
ほかの女にも、そんな目で笑っているのかと
変に想像して憎ったらしくなり、意地悪をしたくなる。
 
だから、出社前にお仕事カバンをベッドの下に隠して
夫を慌てさせるのも。
声を変えて夫の勤める大阪梅田のM商事に電話して
「もしもし、M物産ですか?」
・・・・・はい、M商事です。・・・・・
「あら、間違えだわ」
とガチャンと切り、
「今の女の子はじめて聞く声だわ
新人かしら・・・美人かしら・・・」
なんて一人遊びに興じるのも
美穂の中に潜むUFOの仕業なのである。
ただし、このUFOは夫が美穂のおデコにチューすれば
シオシオと治まる可愛い代物である。
 
ある日、原因不明の苛立ちが美穂を襲った。
いてもたってもいられなくなった美穂は
夫の会社の近くまで出てきた。
夫の会社までは、駅まで30分特急列車に揺られて
30分合計1時間の距離にある。
美穂は、冬を真近に控えたキリギリスか
春の日差しを浴びた雪だるまのように
重い体を押して家を出て電車に揺られた。
そう、今は卒業シーズン。
卒業式帰りの羽織袴の女の子達を横目に
お腹の西瓜を叩いた。
UFOは、ツーキックで返した。
大阪梅田で電車を降りた美穂は
エスカレーターを下り
駅前のホテルのフロントから電話をかけた。
「近くまで来てるの・・・」
「ええ・・・近くって・・・どこ」
「阪急のホテルのフロントにいる・・・」
「阪急のホテルったって、3つはある・・・
どの阪急のホテルだ・・・」
梅田近辺には、阪急と名のつくホテルは3つある。
身重の妻が来ていると聞いて
大慌てで全力疾走で汗だくの夫はやってきた。
 
夫の顔を見ると美穂は、
「アーアアー」
と泣き出した。
「オイオイ・・・どうしたの」
泣き止まない美穂をソファーに座らせ
「しかたない・・・」
とポツリ。夫は給料日前の財布を開けると
苦しそうな顔で泣き止まぬ美穂の様子をうかがい
フロントに進んだ。
部屋は和室だった。
高層ビルのホテルの部屋から眺める夜景は
キラキラと美しい。
散々わがままを言った。
デコチューももらった。
UFOも鳴りを潜めた。
幸せを噛み締めながら美穂は
「いい子を産もう」と思った。
 

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