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美術館に飾られている絵画のような、美しく白い短編小説集に出会った。
こんにちは、喜田村星澄です。
今日はちょっと美しい作品集に出会いましたので、その本を紹介したいと思います。
泉由良さんの「ウソツキムスメ」という本です。
早速、私の感想を記してみましたので、読んでみてください。
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泉由良さんの「ウソツキムスメ」は作風がどれもちょっと切なさが込められていて、でも美しく仕上がっていて、好感が持てます。人によってはドンヨリと読み心地が悪い本もあるのですが、終始それの対極をいき、ある意味で読者を素敵な方面へ裏切ってくれました。
私はとても好きです。自分の書くジャンルとは違うのですが、重厚な童話やファンタジーか、あるいは美術館に飾られている絵画のような創作物に見えます。私はそう感じました。それは、作品タイトルにサブタイトルが英語で存在していたり、フォントが少し小さくて行間が空いている本文や白を基調とした装丁やすこしだけ出てくる絵のお陰かもしれません。短編であるが故に残る余白の部分を味わえると言いますか、そこまで楽しめる作品集です。もっとほかにも読んでみたくなりました。
それぞれの感想も添えます。
【アイネクライネナハトムジークthe forth parson】
何気ない会話で始まるスタイルは、静かで美しくって、しっくりくるなあ。落ち着いて読書したくなって読みはじめると、次第に私が好きな不思議な現象に入り込んでいく。どんどん、本を読み進めたくなる。そういう感じでした。このお話は、キーワードをここでは明かせないが、(だろうな)と予測してそれがそうだからどうだということではなく、その情景が絵のように美しければそれでいいのだという率直な感想でした。
【欠如のことmy sixth hole】
人って自分に欠如しているものに気付き悩む時がありますよね。それが何でと語れないのが普通なのだろうと考えさせられました。主人公は自分でもあり、どこかの誰かでもあるけれど、作者ご本人もそれを経験しているに違いないとそんな風に思いました。男性なのか女性なのか、分かりませんが何かを重ね書いていたのではないかと空想するのです。しかしながら爽やかにそして美しく終わるのでした。もう一つ、この辺で私が感じ始めた作品全体の筆力に関する印象※を最後に記したいと思います。私にはグサグサと刺さる力のようなものが胸に頭に感じとれていたのです。
【海に流すgoodby from seaside】
雨の降り注ぐ海――。なんてセンチメンタルなんでしょう。このテーマだけでもグッと惹かれてしまいますが、登場する人物の感情、感傷が詩的に絡み合いますね。そうか、だから詩や絵画のようだと感じたのかもしれません、作品全体が。きっと私の印象を造り始めた最初の作品であり、そしてその印象はこの後にさらに助長されることになるのです。私は、この作品の中心にある、嘘つきか正直か、私はウソツキムスメなのか?
読者の私は、もし自分が似たような心境になったとしたら、バスに乗ってただ窓を見つめ、海に行きたくなるのではないでしょうか。それが心にしみている理由に違いないのです。
【落ちてくるくじらthe fallen whale】
わたしは鯨を題材にした小説をひとつ書いていました。だから気になっていたんです、この作品。短編ですが良かったです。
夏の景色、一人の夏の思い出のような、ひとコマ。
サクちゃんの若く無限の空想力に、つまり脳細胞もきっと成長期には幾度も細胞分裂するだろうとそんなイメージを掻き立てますが、生命の神秘にも触れているようで、眩しい感覚になりました。くじらだけではない。いくらでも夏の記憶は生み出せるだろうな、と。そういうポテンシャルを持っている彼女の、しかしそこにしかない、その夏にしかないその場面の頭の中を、こうして届けてくれた事が見事だと思いました。
【秋雨秋子】
わかります。どうしてだろう、姉の気持ちが痛く分かります。母親の気持ちも同じです。
(ばか!)
そうだそうだ!
だけど感じる彼女を想う気持ちと、秋子自身も電話線の細い一本から伝えている姉への想いが、よく感じ取れます。この短い作品の中からジワジワ感じられます。雨の日にもう一回読んでみるといいかな……。そんな風に感じました。
【ナナンタさんの鈴の音】
小さな頃に頼っていたモノ、何かあるでしょうか。幼少期にこの体験をしている人は少なくないかもしれません。どうしても頼りにしていた心の支えのような何か――。
この作品はファンタジーですよね? そう確かめたくなる味わいです。それは何故なら作者が実体験した本当のお話に聞こえるからです。もしそうだったとしてもその答えは、私は聞かなくて良いです。この読んだあとの感覚をそのまま持っていたいから。
最初は(なんだ?)と想ったタイトルが、読んだ後にこれほどにしっくりくるのって、さすがですね。泉由良さんってプロの作家さんですか?(今更ながらに無知の私がこんな事をつい書いてしまう。。)
【春眠】
なんて感性が鋭く、美しく、少女の思い出の中に入っている作品なんだと感心させられたのが本作です。私は多分、今回これが一番の山場のような作品なのではと予想します。私には一番情景が浮かび、ふたりの心情が立体的に重なり合って見えたのがこの「春眠」でした。
おねえさんはグリーンゲイブルスに住んでいて――。
未春はこの思い出を一生、どこか脳裏にメモリしておくんでしょうね。
【翳り】
(そうか! そうだたんですね!)
ここに本当のウソツキムスメがいたのですね?
夏の二人の情景の中で、姉がちょっと狂気で怖かったのですが、ウソツキムスメであれば、これまた美しい作品に化けました。良かったよかった。ほっと胸を撫で下ろした私です。
■作品全体の筆力に関する印象※
泉由良さんの「ウソツキムスメ」にある筆力に関する印象を持ちました。良い意味ですので、もし失礼があったらお許しください。
大学生が日頃の想いを筆に入魂する。目立たぬ存在であるが、それにはとても鋭利な感性があって、文芸部の部員の中でひとり、異彩を放つとき。そういう人に似ていると思ったのです。ちょっと文芸風に記してみました。
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ある大学の学園祭に行った。
体育会系の部活の連中だ。眼力が強くて、アレにロックされると、たちまちに焼きそばだの磯部焼きだのが美味しいからというキャッチにあってしまう。考えただけでも視線を落として人混みの真ん中寄りを歩いてしまうのだ。お腹が空いても、どうやって買いに行けるかと心労が伸し掛かる。紅葉にはならない樹木が風の少なさを知らせているので、私は意を決し少しだけ見上げた。多分学生が歌うのだからあの程度だ。風の通る空路から音楽が聞こえてる。壁面に蔦う蔓性の植物の隣に、そのチラシが貼ってあるのが見えたのだ。
【文芸部は3階】
私は喧騒から退避して教義棟に入った。古くからあるガラス窓には茶色に風化したゴム質の固形物に重ねてセロハンテープでチラシが留められている。お汁粉の雑な絵には女子バスケットボール部と書かれていた。書道部とか、映研ショートフィルムなどと文芸部もあった。
3階に上がると廊下にはさっきの音楽が僅かに洩れ聞こえるが、ほとんど無人と感じられる空気がそこにはあった。
文芸部の入口に立つと、中に控えていた学生と目が合った。
「どうぞ見ていってください」
小さく会釈だけして、数歩教室に踏み込むと雑な長テーブルに沢山の機関誌らしきものが平置きされていた。近くに西暦の年号が書いてある三角に山折りした紙が添えられ、私が意味を理解した頃に、学生が寄ってきた。
「良かったらお持ち下さい。これ、今年のです」
「いいんですか? ちゃんと製本されてますけど」
「はい。フリーです。是非読んでみて下さい。私達が書いた小説載せてます」
「あ、ありがとうございます。じゃ、読ませていただきますね」
受け取った私は、少し居心地が悪くてその場を静かに離れた。そして階をひとつ上がったのだ。
その階には本当に誰も居ない。休日の建屋の中は、冷たい。
私はもらった機関誌を開いた。雑な造りで製本だけはしっかりとした業者の力が入っている逸品。
中には数作の小説らしきタイトルが並ぶ。
30分くらいだろうか、私がその本の文字を読み続けていたのは。
私はある著者の作品にがんじがらめにさせられた。文字が未熟で、体裁も悪い。しかし、そこに込められた雑な文字列はただの文章ではなかったのだ。冷たいツララが私の心に刺さり抜けない。
若さの爆発的な感性が、そのたったひとつの短編に、これほどにも無機質な感情を埋め込んでいるなんて。
私はとても長い間、そのフロアから下ることが出来なかった。
胸にその製本されたものを充てて、少し震えてから――。
日常に戻るのが難しくて、感動に震える身体をつれて、わたしはやっとの思いで大学の正門を出たのだった。
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という感じです(^^)
以上が、私の感想です。
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泉由良さんのご紹介:
最後までお読みいただきましてありがとうございます。<(_ _)>
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