【医師論文解説】ピルで変わる!? "イケメン"の基準【Abst.】
背景:
数百万人の女性が使用するホルモン避妊薬。
その使用がパートナー選びの嗜好に影響を与える可能性が示唆されてきました。特に、男性の顔の男性らしさ(facial masculinity)に対する好みが変化するのではないかという仮説が立てられていました。これまでの研究では、月経周期に伴う女性の好みの変化が報告されており、排卵期には男性的な顔への好みが強まることが分かっています。しかし、ピル使用者ではこの周期的な変化が弱まるか消失することも示されていました。
本研究では、ピル使用開始による女性の顔の好みの変化を実験的に検証し、さらにその変化が実際のパートナー選択にどのような影響を与えるかを調査しました。
方法:
研究は2つの部分から構成されています。
研究1:
被験者: 実験群18名(ピル使用開始者)、対照群37名の女性
手順: 約3ヶ月の間隔を置いて2回、男性と女性の顔の masculinity に対する好みをテスト
顔画像: コンピューターグラフィックスで masculinity を操作した画像を使用
評価: 異性の顔は長期・短期のパートナーとしての魅力を評価、同性の顔は一般的な魅力を評価
研究2:
被験者: 170組のカップル
手順: 男性パートナーの顔の masculinity を測定し、女性がピル使用中にパートナーを選んだグループと非使用中に選んだグループで比較
評価方法: 顔の計測と第三者による知覚的判断
結果:
研究1:
ピル使用開始群では、男性の顔の masculinity への好みが有意に減少
長期・短期関係の両方で同様の傾向
対照群では変化なし
同性(女性)の顔の masculinity への好みには変化なし
ピルの影響は異性の顔への好みに限定
研究2:
ピル使用中にパートナーを選んだ女性の男性パートナーは、非使用中に選んだ女性のパートナーと比べて:
顔の計測値で有意に低い masculinity を示す
第三者による知覚的判断でも、より女性的な顔と評価される
この傾向は、顔の形状のみを isolated した画像でも同様に観察される
議論:
本研究は、ピル使用開始が女性の顔の好みを変化させることを実験的に示した初めての研究です。さらに、この好みの変化が実際のパートナー選択に影響を与えることも明らかになりました。
この結果は、ホルモン避妊薬の使用が単に避妊効果だけでなく、パートナー選択という重要な生物学的プロセスにも影響を与える可能性を示唆しています。進化的な観点からは、ピル使用による好みの変化が、高品質な遺伝子を持つ男性(より男性的な顔の特徴と関連)よりも、協力的な男性(より女性的な顔の特徴と関連)への選好を強める可能性があります。
結論:
ピルの使用開始は、女性の男性の顔の masculinity への好みを減少させ、この変化は実際のパートナー選択にも反映されることが明らかになりました。世界中で広く使用されているホルモン避妊薬が、パートナー形成のプロセスに影響を与えているという事実は、関係の安定性や他の生物学的に重要な結果にも影響を及ぼす可能性があります。
文献:
Little, Anthony C et al. “Oral contraceptive use in women changes preferences for male facial masculinity and is associated with partner facial masculinity.” Psychoneuroendocrinology vol. 38,9 (2013): 1777-85. doi:10.1016/j.psyneuen.2013.02.014
この記事は後日、Med J SalonというYouTubeとVRCのイベントで取り上げられ、修正されます。
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所感:
本研究結果は、避妊薬の使用が想定外の影響を及ぼす可能性を示唆しており、医学的にも社会的にも重要な意味を持ちます。ホルモン避妊薬の処方時には、こうした潜在的な影響についても患者に情報提供する必要があるかもしれません。また、長期的には人口レベルでのパートナー選択傾向の変化につながる可能性もあり、人類学的・社会学的な観点からも興味深い研究テーマとなるでしょう。同時に、この研究結果を過度に一般化せず、個人差や文化的要因なども考慮に入れた慎重な解釈が必要です。今後は、ピル使用の長期的影響や、異なる文化圏での再現性の検証など、さらなる研究が期待されます。
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