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【医師論文解説】食べ過ぎご用心!? コロナ後の"嗅覚喪失"リスクが1.4倍に!?【OA】

背景


COVID-19感染の最も一般的な初期症状の一つに嗅覚障害があります。しかし、どの集団が最も感受性が高いかについてはあまり知られていません。この研究は、栄養不良の個人におけるCOVID-19誘発性の化学感覚障害のリスクを評価することを目的としています。
過栄養の個人はCOVID-19感染に対する感受性と死亡率が高いことが知られています。142カ国を対象とした調査では、COVID-19による死亡率と肥満者の割合に正の相関が見られました。過栄養の個人は、代謝、炎症、構造生化学のベースラインに違いがあり、これがCOVID-19誘発性の化学感覚障害への感受性を高める可能性があります。
方法
National COVID Cohort Collaborative (N3C) データベースを用いて、以下の条件を満たす18歳以上の成人を対象としました:

COVID-19の陽性検査結果
陽性検査日から2週間以内の化学感覚障害の診断
COVID-19感染前の栄養不良(過栄養または低栄養)関連の診断

化学感覚障害の既往歴のある個人は除外されました。COVID-19陽性で嗅覚障害のない成人も同様に分析され、統計分析の参照群として使用されました。
統計分析はオッズ比計算(95%信頼区間[CI])を用いて行われました。

結果

COVID-19患者3,971,536人のうち:

73,211人が感染前に低栄養と診断
428,747人が感染前に過栄養と診断

低栄養群:

264人(0.36%)が感染後2週間以内に嗅覚障害と診断

過栄養群:

2,851人(0.66%)が感染後2週間以内に嗅覚障害と診断

栄養不良のない群:

16,452人(0.47%)が感染後2週間以内に嗅覚障害と診断

統計分析結果:

低栄養と嗅覚障害のオッズ比:0.731(p < 0.0001, 95% CI [0.0647, 0.0825])
過栄養と嗅覚障害のオッズ比:1.419(p < 0.0001, 95% CI [1.3359, 1.5081])
栄養不良全体(低栄養+過栄養)と嗅覚障害のオッズ比:1.326(p < 0.0001, 95% CI [1.27, 1.37])

議論

生理学的説明:

過体重の個人は、健康体重または低体重の個人と比較して、匂いの閾値、識別、同定が有意に低いことが知られています。
BMIと嗅覚感度には負の相関があることが示されています。
肥満関連ホルモン(レプチン、インスリン)が嗅覚感度を低下させ、空腹関連ホルモン(グレリン)が嗅覚感度を上げることが知られています。

構造的変化:

過栄養は嗅覚感覚系に長期的な構造的・機能的変化をもたらすことが知られています。
BMIが高い個人では嗅球のサイズが縮小していることが示されています。

炎症との関連:

脂肪組織の増加は慢性的な軽度の炎症と関連しています。
COVID-19感染による炎症が嗅覚機能の低下につながる可能性があります。

COVID-19の重症度との関連:

肥満はCOVID-19感染の罹患率と死亡率を増加させることが示されています。
栄養不良全体とCOVID-19感染の重症度に有意な関連が見られています。

結論


栄養状態は、COVID-19後の嗅覚喪失の感受性に重要な役割を果たしている可能性があります。過栄養の個人はCOVID-19後の嗅覚障害に対する感受性が高く、低栄養はわずかに保護的である可能性があります。これらの知見は、化学感覚障害の感受性だけでなく、感染のより深刻な後遺症についても洞察を提供する可能性があります。

文献:Mastoloni, Elizabeth M et al. “Impact of Nutritional Status on COVID-19-Induced Olfactory Dysfunction.” The Laryngoscope, 10.1002/lary.31660. 30 Jul. 2024, doi:10.1002/lary.31660

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所感

この研究は、COVID-19感染後の嗅覚障害と栄養状態の関連性について重要な知見を提供しています。特に過栄養(肥満)が嗅覚障害のリスクを高める可能性があることは、臨床的に重要な発見です。しかし、いくつかの制限事項があります:

データの信頼性:N3Cデータベースは多くの施設からのデータを harmonize しているため、データの損失や変換エラーが生じる可能性があります。
診断の依存性:化学感覚障害の記録は臨床医のコーディングに依存しているため、実際の発生率を過小評価している可能性があります。
地理的制限:このデータは米国の医療システムからのみ得られたものであり、他の国々に適用できない可能性があります。
時間的要因:栄養不良の診断とCOVID-19感染の間の正確なタイミングは評価されていません。
嗅覚障害の定量化:嗅覚喪失の重症度は定量化されていません。

これらの制限を考慮すると、今後の研究では客観的なテストを用いて栄養不良とCOVID-19後の嗅覚障害の関係をさらに調査する必要があります。また、栄養状態の改善がCOVID-19感染後の嗅覚障害のリスクを軽減できるかどうかを検討する介入研究も有用でしょう。
この研究は、COVID-19の合併症に対する栄養状態の重要性を強調しており、予防医学と公衆衛生の観点から重要な示唆を提供しています。

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