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【医師論文解説】声帯手術後の悩みにさようなら? 最新の声帯治療法が明らかに!?【OA】


背景:


近年、プロの声楽家やアナウンサーなど、職業的に声を使う人々が増加しています。

それに伴い、声帯ポリープなどの音声関連の問題も増加しています。これらの問題に対する一般的な治療法として、喉頭微細手術(LMS)が行われますが、特にレーザーを使用する場合、声帯に傷跡を残してしまう可能性があります。

声帯の傷跡化は、コラーゲンの異常な増加とエラスチンやヒアルロン酸の減少を引き起こし、声帯の柔軟性と粘性を損なう原因となります。これまで、様々な治療法が試みられてきましたが、その効果は限定的でした。そのため、傷跡化の予防が重要な焦点となっています。

ステロイド注射は強力な抗炎症作用で知られ、喉頭手術後によく使用されますが、傷跡化の予防効果に関する決定的な証拠はありませんでした。本研究は、ステロイド注射の効果を科学的に検証することを目的としています。

方法:

本研究では、42匹のニュージーランド白色ウサギを使用しました。全てのウサギの両側声帯に532nmダイオードレーザーを用いて傷をつけ、そのうち28匹を2つのグループに分け、デキサメタゾンまたはトリアムシノロンのステロイド注射を行いました。残りの14匹は対照群として、追加治療を行いませんでした。

手術から4週間後、以下の検査を実施しました:

  1. 高速ビデオ撮影による声帯振動の分析

  2. 組織学的検査

  3. リアルタイムPCRによる遺伝子発現分析

結果:

  1. 高速ビデオ撮影による声帯振動の分析:

    • ステロイド注射を受けたグループ(デキサメタゾン群とトリアムシノロン群)は、対照群と比較して有意に高い最大振幅差(MAD)を示しました。

    • デキサメタゾン群:1040 ± 128 μm

    • トリアムシノロン群:1085 ± 129 μm

    • 対照群:684 ± 181 μm

    • ステロイド注射を受けた2つのグループ間に有意な差は見られませんでした。

  2. 組織学的検査:

    • コラーゲン密度(CD)比:

      • 対照群が最も高い値を示しました(43.5 ± 7.2%)。

      • ステロイド注射を受けた両群は対照群よりも有意に低いCD比を示しました。

      • ステロイド注射を受けた2つのグループ間に有意な差は見られませんでした。

    • 断面積(CSA):

      • トリアムシノロン群は対照群と比較して有意に低い正規化平均CSAスコアを示しました。

      • デキサメタゾン群と他のグループとの間に有意な差は見られませんでした。

  3. リアルタイムPCRによる遺伝子発現分析:

    • Has-2遺伝子の発現:

      • ステロイド注射を受けたグループで対照群と比較して有意に増加しました。

    • Collagen-4遺伝子の発現:

      • ステロイド注射を受けたグループで対照群と比較して有意に減少しました。

    • その他の遺伝子(Il-6、Mmp-9など):

      • ステロイド注射を受けたグループで変化が見られましたが、統計的有意差は達成されませんでした。

議論:

本研究結果は、ステロイド注射が声帯の傷跡化を予防する上で有効であることを示しています。特に以下の点が注目されます:

  1. コラーゲン合成の減少とヒアルロン酸合成酵素(Has)レベルの増加が観察されました。これは、ステロイド注射が傷跡化を抑制し、声帯の柔軟性を向上させる可能性を示唆しています。

  2. 組織学的検査では、ステロイド注射を受けたグループでコラーゲン密度比が低下しました。これは、ステロイド注射がコラーゲンの過剰な沈着を抑制し、傷跡化を予防する効果があることを示しています。

  3. 声帯振動テストでは、ステロイド注射を受けたグループで著しく改善された最大振幅差が観察されました。これは、ステロイド注射が声帯の機能的な改善にもつながることを示しています。

一方で、トリアムシノロン群で観察された声帯の萎縮は、ステロイド注射の潜在的な副作用を示唆しており、さらなる研究が必要です。

結論:

本研究は、声帯手術後のステロイド注射が、傷跡化を予防し、声帯の振動機能を改善する上で有効であることを示しました。この効果は、創傷のリモデリング促進、ヒアルロン酸産生の増加、細胞外マトリックスのコラーゲン成分の減少によるものと考えられます。これらの結果は、声帯手術後のケアに新たな可能性を示すものであり、プロの声楽家や声の専門家にとって重要な意味を持つ可能性があります。

文献:Jeong JY, Thapa S, Lee SW. Does Intralesional Steroid Injection Effectively Mitigate Vocal Fold Scarring in A Rabbit Model? Laryngoscope. 2024 Oct 1. doi: 10.1002/lary.31782. Epub ahead of print. PMID: 39352064.

この記事は後日、Med J Salonというニコ生とVRCのイベントで取り上げられ、修正されます。

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