【医師論文解説】医学生の国試合格率、入学時点で予測可能だった!?【OA】
背景
日本の医療システムにおいて、医師国家試験の合格は極めて重要な関門です。
しかし、不合格者の存在は医学部にとって大きな課題であり、医師不足に悩む日本の医療システムにも深刻な影響を及ぼしています。特に、OECD加盟31カ国中、日本は医師数が28位と少なく、この問題の解決は急務となっています。
方法
対象:岐阜大学医学部の2012年から2018年までの7期生、計637名
分析時期:入学時、1年次末、2年次末、4年次末、6年次末の5時点
使用データ:
入学前の7項目(性別、入学時年齢、高校の所在地、公私立の別、学力レベル、GPAなど)
入学後の10項目(TOEFLスコア、教養科目成績、基礎医学成績、CBT成績など)
分析手法:ロジスティック回帰分析による予測合格率(PPR)の算出
結果
1. 合否を分ける要因の特定
不合格者の特徴:
男性が多い
入学時年齢が高い
岐阜・愛知以外の高校出身
高校GPAが低い
大学入試センター試験の成績が低い
2. 各時点での予測因子
入学時点での予測因子
入学時年齢:OR 0.834(95%CI: 0.789-0.882)
1歳上がるごとに合格確率が約16.6%低下
地元出身(岐阜・愛知):OR 4.684(95%CI: 1.767-12.41)
地元出身者は非地元出身者の約4.7倍合格しやすい
1年次末での予測因子
入学時年齢:OR 0.812(95%CI: 0.762-0.865)
影響力は入学時とほぼ同様
地元出身:OR 4.960(95%CI: 1.841-13.36)
影響力がやや増加
基礎科学の成績:OR 1.144(95%CI: 1.028-1.272)
成績が1ポイント上がるごとに合格確率が約14.4%上昇
2年次末での予測因子
入学時年齢:OR 0.810(95%CI: 0.755-0.869)
基礎医学の成績:OR 1.252(95%CI: 1.114-1.408)
1年次より影響力が増加
地元出身:OR 3.925(95%CI: 1.355-11.37)
影響力がやや低下
4年次末での予測因子
CBT成績:OR 1.214(95%CI: 1.124-1.311)
最も強い正の影響力
入学時年齢:OR 0.809(95%CI: 0.742-0.882)
地元出身:OR 5.27(95%CI: 1.628-17.06)
影響力が再び増加
臨床前医学の成績:OR 0.855(95%CI: 0.734-0.996)
予想に反して負の相関
6年次末での予測因子
卒業試験成績:OR 6.337(95%CI: 2.643-15.19)
全時点で最も強い予測因子
CBT成績:OR 1.184(95%CI: 1.082-1.295)
臨床前医学の成績:OR 0.696(95%CI: 0.565-0.857)
入学時年齢:OR 0.863(95%CI: 0.782-0.953)
影響力は低下するものの依然として有意
臨床実習成績:OR 3.291(95%CI: 1.378-7.857)
地元出身:OR 5.052(95%CI: 1.303-19.60)
特徴的な傾向
入学時年齢の影響は全期間を通じて一貫して負の相関
地元出身の優位性は期間を通じて維持
学年進行に伴い予測因子が増加
6年次では卒業試験が突出して強い予測力
CBTの影響力は4年次以降で継続的に重要
3. 予測モデルの精度
感度:82.9%(入学時)→92.7%(6年次末)
特異度:72.3%(入学時)→89.3%(6年次末)
偽陰性率:常に1.6%以下を維持
陰性的中率:98.4%以上を維持
4. ハイリスク群の追跡
入学時にハイリスク群と判定:193名
6年次末までにハイリスク群として残存:104名
ハイリスク群の最終合格率:64.4%
ローリスク群の最終合格率:99.2%
考察
入学時年齢の影響が一貫して強く、高齢入学者への特別な支援の必要性を示唆
地元(岐阜・愛知)出身者の方が合格しやすい傾向
学業成績の影響は学年進行とともに変化
予測モデルの精度は学年進行とともに向上
結論
医師国家試験の合否は、入学時点から一定程度予測可能
複数の要因を組み合わせた予測の方が、単一指標よりも効果的
早期からの支援体制構築の重要性が示唆
文献:
Shioiri T, Nakashima M, Tsunekawa K. When can we identify the students at risk of failure in the national medical licensure examination in Japan using the predictive pass rate? BMC Med Educ. 2024 Aug 27;24(1):930. doi: 10.1186/s12909-024-05948-4. PMID: 39192215; PMCID: PMC11348611.
この記事は後日、Med J SalonというYouTubeとVRCのイベントで取り上げられ、修正されます。
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用語解説
PPR(Predictive Pass Rate):予測合格率
CBT(Computer Based Testing):全国共通の臨床実習前の客観試験
OSCE(Objective Structured Clinical Examination):客観的臨床能力試験
GPA(Grade Point Average):成績評価平均値
所感
本研究は、医学教育における重要な知見を提供しています。特筆すべきは、入学時点からの予測可能性が示されたことです。これは、従来の「成績が悪い学生を見つけて指導する」という事後的アプローチから、「リスクの高い学生を早期に発見し、予防的に支援する」という予防的アプローチへの転換を示唆しています。
ただし、年齢や出身地による差異が示されたことについては、差別的な取り扱いを避け、むしろそれらの学生への効果的な支援方法の開発につなげることが重要です。今後は、この予測モデルを活用した具体的な支援プログラムの開発と、その効果検証が期待されます。