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【ノーベル生理学・医学賞2024医師解説1/3】たった22塩基のRNA分子が発生運命を決める - 世界初の生物制御機構の発見【OA】
今回から3回連続で、2024年のノーベル生理学・医学賞受賞のメイン論文をご紹介していこうと思います。ノーベル賞に至る重要なインパクトを世界にもたらしたその歴史を、少し追体験してみませんか?
背景:
線虫C.elegansの発生過程では、各幼虫期(L1-L4)で特異的な細胞系譜が正確なタイミングで実行される必要があります。
この時間制御を担う遺伝子群をheterochronic遺伝子と呼び、その中でもlin-4遺伝子は初期発生において重要な役割を果たしています。lin-4の機能が失われると、L1期特異的な発生プログラムが後期ステージで異常に繰り返されてしまいます。
方法:
染色体歩行法とDNAクローニングによるlin-4遺伝子の単離
4種類の線虫(C. elegans、C. briggsae、C. remanei、C. vulgaris)でのlin-4配列の比較解析
ノーザンブロット法やRNase protection assayによるlin-4転写産物の検出・解析
プライマー伸長法とS1マッピングによるlin-4 RNAの5'末端と3'末端の決定
変異体解析によるlin-4機能への影響評価
結果:
lin-4遺伝子は693塩基対のDNA領域にコードされており、別の遺伝子のイントロン内に位置することが判明
lin-4からは2種類の小さなRNA(lin-4L: 61塩基、lin-4S: 22塩基)が転写され、これらがlin-4の機能的な遺伝子産物であることが示された
どちらのRNAも5'末端は同じ
lin-4Sはlin-4Lの最初の22塩基と一致
タンパク質をコードしていない
lin-4 RNAはlin-14 mRNAの3'非翻訳領域(3'UTR)に相補的な配列を持つ
この相補配列はlin-14 mRNAの3'UTRに7回繰り返し出現
lin-4機能欠損型変異体ma161はこの相補領域内に位置
4種の線虫間でlin-4配列は高度に保存されており、lin-4の機能的重要性を示唆
議論:
lin-4はタンパク質ではなくRNAとして機能する新規の制御遺伝子である
lin-4 RNAはlin-14 mRNAと直接的な塩基対形成を介してLIN-14タンパク質の翻訳を抑制する可能性が高い
この制御機構は発生タイミングの制御に重要で、L1期でのlin-4発現上昇がLIN-14タンパク質レベルの低下を引き起こすと考えられる
結論:
本研究は、小さな非コードRNAが特異的なmRNAの翻訳を制御する全く新しい遺伝子制御機構を世界で初めて発見しました。この発見は、RNAを介した遺伝子発現制御の新しいパラダイムを確立しました。
用語解説:
heterochronic遺伝子:発生タイミングを制御する遺伝子群
3'UTR:mRNAの翻訳されない3'末端領域で、遺伝子発現制御に重要
アンチセンスRNA:標的mRNAと相補的な配列を持つRNA分子
文献:Lee, R C et al. “The C. elegans heterochronic gene lin-4 encodes small RNAs with antisense complementarity to lin-14.” Cell vol. 75,5 (1993): 843-54. doi:10.1016/0092-8674(93)90529-y
この記事は後日、Med J SalonというYouTubeとVRCのイベントで取り上げられ、修正されます。
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所感:
本研究は、当時としては想像もできなかったRNAによる遺伝子制御という全く新しい概念を提示した画期的な論文です。わずか22塩基という極めて小さなRNA分子が重要な発生制御を担うという発見は、後のmicroRNA研究の先駆けとなり、現代の分子生物学に大きな影響を与えました。特に、RNAの二次構造予測や進化的保存の解析など、現代のRNA研究に通じる実験手法が既にこの時期に確立されていた点も注目に値します。
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