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【医師論文解説】耳下腺手術、新旧術式の対決結果はいかに!【OA】


背景:

耳下腺腫瘍の治療において、手術は最も一般的な選択肢です。

従来の術式である浅葉切除術(SP)や全摘出術(TP)に加え、近年では最小侵襲手術である被膜外切除術(ECD)が注目されています。ECDは、顔面神経本幹を露出せずに腫瘍を摘出する方法で、より侵襲が少ないとされています。しかし、これらの術式間で術後の痛みや不快感を比較した研究はほとんどありませんでした。

本研究の目的は、SP/TPとECDの術後痛および不快感を評価し、比較することです。

方法:

この前向き観察研究は、2021年から2022年にかけて単一の三次医療機関で実施されました。

対象は、耳下腺腫瘍に対して待機的手術を受けた成人患者82名で、SP/TP群31名とECD群51名に分けられました。

主要評価項目は、術後1〜3日目の歩行時痛、最大痛、最小痛(NRS 0-10)としました。副次評価項目には、神経障害性疼痛の要素、鎮痛薬スコア、治療関連副作用/痛みに関連する障害、患者満足度が含まれます。

データ収集には、標準化された「術後疼痛治療の質改善(QUIPS)」質問票とpainDETECT®質問票を使用しました。統計解析には独立したt検定、Wilcoxon検定、χ2検定を用い、効果量を計算しました。

結果:

  1. 術後痛の程度:

    • 術後1日目の歩行時痛(SP/TP vs ECD): 2.8 ± 2.0 vs 2.6 ± 1.8 (p = 0.628)

    • 術後1日目の最大痛: 3.5 ± 2.2 vs 3.5 ± 2.3 (p = 0.992)

    • 術後1日目の最小痛: 1.1 ± 1.04 vs 1.0 ± 1.2 (p = 0.206)

  2. 痛みに関連する制限や鎮痛薬の必要性に有意差はありませんでした。

  3. 両群の患者は、痛み治療に対して同程度に満足していました(p = 0.282)。

  4. painDETECT®質問票の合計スコアは、両群とも明らかに陰性(<12)でした(術後1日目: 6.81、術後3日目: 6.59)。群間に有意差はありませんでした(p = 0.991)。

  5. 全体として、術後痛は軽度から中等度と分類されました。

  6. SP/TP群では手術時間が有意に長く(216 ± 73分 vs 88 ± 33分、p < 0.001)、切除標本も有意に大きかった(60 cm3 vs 12 cm3、p < 0.001)にもかかわらず、痛みの程度に差はありませんでした。

  7. 両群とも、非オピオイド鎮痛薬で十分な疼痛緩和が得られました。オピオイドを必要とした患者はいませんでした。

  8. SP/TP群の48.4%、ECD群の35.3%の患者が、術後に鎮痛治療を全く必要としませんでした(p = 0.347)。

議論:

本研究結果は、耳下腺手術後の痛みが軽度から中等度であり、術式による有意差がないことを示しています。これは、ECDが最小侵襲手術であるにもかかわらず、SP/TPと比較して術後痛に関して優位性がないという意外な結果です。

また、神経障害性疼痛の要素は、少なくとも急性期においては両群ともに除外されました。これは、顔面神経や耳介神経の損傷が耳下腺手術の最も一般的な合併症の1つであるにもかかわらず、興味深い発見です。

手術時間や切除標本の大きさに有意差があったにもかかわらず痛みの程度に差がなかったことは、特筆すべき点です。これは、より侵襲的な手術でも、適切な術後管理により痛みを十分にコントロールできることを示唆しています。

結論:

耳下腺に対するどちらの手術技術も、術後疼痛の観点からは有意に優れているとは言えませんでした。全体として、耳下腺手術後の疼痛は軽度から中等度と分類でき、急性期の神経障害性疼痛の要素は除外されました。

※注意: この記事は情報提供を目的としたものであり、医学的なアドバイスではありません。具体的な治療や生活習慣の改善については、医師に相談してください。

参考文献

Jansen V, Gostian AO, Allner M, Balk M, Rupp R, Iro H, Hecht M, Gostian M. Postoperative pain after parotid surgery-comparison between superficial/total parotidectomy and extracapsular dissection: a prospective observational study. Eur Arch Otorhinolaryngol. 2024 Oct 3. doi: 10.1007/s00405-024-08991-5. Epub ahead of print. PMID: 39361139.

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