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【医師論文解説】60万人のデータが示す「4歳の壁」!? 鼓膜チューブにアデノイド切除は本当に必要なのか?【Abst】



背景

中耳炎は小児期によく見られる疾患で、その治療法として鼓膜チューブ留置術(Tympanostomy Tube Insertion: TTI)が広く行われています。

しかし、TTIの効果を高めるためにアデノイド切除術を同時に行うことの利点については、これまで明確な結論が出ていませんでした。

過去の研究では、サンプルサイズが小さい、研究デザインが統一されていない、評価指標が異なるなどの問題があり、結果の解釈が困難でした。そこで、この研究では米国の大規模なデータベースを用いて、TTIとアデノイド切除術の併用(Ad+TT)が耳科的転帰に与える影響を評価し、広く臨床応用可能な結果を得ることを目的としました。

方法

研究デザインと対象

  • 研究タイプ:マッチドコホート研究

  • データソース:Merative MarketScan Research Databases(米国の保険請求データ)

  • 対象期間:2007年1月1日から2021年12月31日

  • 対象者:TTIを受けた601,848人の小児

    • 年齢中央値:2歳(四分位範囲:1-4歳、範囲:0-11歳)

    • 性別:男児 351,078人(58.3%)

グループ分け

  1. Ad+TTグループ:TTIとアデノイド切除術を同時に受けた小児(201,932人)

  2. 対照群:TTIのみを受けた小児(201,932人、Ad+TTグループとマッチング)

マッチングの基準:

  • 性別

  • 手術時の年齢

  • 過去のTTI回数

主要評価項目

  1. TTIの再実施率

  2. TTI後の経口抗生物質処方率

分析方法

  • 多変量ロジスティック回帰分析を用いて、アデノイド切除術と共変量が各転帰に与える影響を定量化

  • 4歳未満と4歳以上の小児で層別解析を実施

結果

全体の結果

  • 対象者総数:601,848人

  • Ad+TTグループ:201,932人

  • 対照群:201,932人(マッチング後)

4歳未満の小児における結果

  1. Ad+TTの実施頻度:高い

  2. 経口抗生物質の処方リスク

    • Ad+TTグループで低下(オッズ比 [OR] 0.59、95%信頼区間 [CI] 0.58-0.60)

  3. TTIの再実施リスク

    • Ad+TTグループで増加(OR 1.24、95% CI 1.22-1.27)

4歳以上の小児における結果

  1. TTIの再実施リスク:

    • Ad+TTグループで低下(OR 0.78、95% CI 0.75-0.81)

  2. 経口抗生物質の処方リスク:

    • Ad+TTグループで低下(OR 0.63、95% CI 0.62-0.65)

考察

  1. 年齢による効果の違い:

    • 4歳未満と4歳以上で、Ad+TTの効果が異なることが明らかになりました。

    • この違いは、年齢によるアデノイドの生理学的変化や免疫系の発達と関連している可能性があります。

  2. 4歳未満の小児におけるAd+TTの効果:

    • 経口抗生物質の使用を減少させる効果がありましたが、TTIの再実施リスクは増加しました。

    • この結果は、若年層ではAd+TTが感染リスクを低下させる一方で、耳管機能の改善には十分でない可能性を示唆しています。

  3. 4歳以上の小児におけるAd+TTの効果:

    • TTIの再実施リスクと経口抗生物質の使用の両方を減少させました。

    • これは、年長児ではAd+TTが耳管機能と感染制御の両方に有効である可能性を示しています。

  4. 臨床的意義:

    • 4歳以上の小児では、Ad+TTを積極的に考慮することで、耳科的転帰を改善できる可能性があります。

    • 4歳未満の小児では、Ad+TTの適応をより慎重に検討する必要があるかもしれません。

  5. 研究の強み:

    • 大規模な人口ベースのデータを使用したことで、結果の一般化可能性が高いです。

    • マッチドコホートデザインにより、潜在的な交絡因子の影響を最小限に抑えています。

  6. 限界点:

    • 保険請求データを使用しているため、臨床的詳細(例:中耳炎の重症度、耳管機能の状態)が不明です。

    • 長期的な転帰や生活の質に関するデータが含まれていません。

結論

  1. 4歳未満の小児:

    • Ad+TTは頻繁に実施されており、経口抗生物質の使用を減少させる副次的な効果がありました。

    • しかし、TTIの再実施リスクの低下とは関連していませんでした。

  2. 4歳以上の小児:

    • Ad+TTは、TTIの再実施リスクと経口抗生物質の使用の両方を減少させました。

  3. 臨床への応用:

    • 4歳以上の小児では、耳科的転帰を改善するためにAd+TTを検討することが推奨されます。

    • 4歳未満の小児では、個々の症例に応じて慎重に判断する必要があります。

※注意: この記事は情報提供を目的としたものであり、医学的なアドバイスではありません。具体的な治療や生活習慣の改善については、医師に相談してください。

参考文献

Qian ZJ, Truong MT, Alyono JC, Valdez T, Chang K. Tympanostomy Tube Insertion With and Without Adenoidectomy. JAMA Otolaryngol Head Neck Surg. Published online October 17, 2024. doi:10.1001/jamaoto.2024.3584

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