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【イグノーベル賞2024解剖学賞医師解説】つむじは南半球と北半球で違う!?【OA】

【背景】

人間の頭皮に見られるつむじ(ヘアワール)は、出生前に形成される特徴的な模様です。

これらの渦巻きは、時計回りまたは反時計回りの方向性を持ち、頭部の左右どちらかに位置することが一般的です。しかし、これらの渦巻きの形成メカニズムや、その方向性を決定する要因については、長年謎に包まれていました。

今回、フランスとチリの研究チームが、この謎に迫る興味深い研究を行いました。彼らは、双子を対象とした調査と、北半球(フランス)と南半球(チリ)での比較研究を通じて、つむじの形成における遺伝的要因と環境要因の影響を探ろうとしました。

【方法】


研究チームは、以下の3つの集団を対象に後ろ向き研究を実施しました:

  1. 北半球の一般人口:フランス・パリのネッケル小児病院で軽度の頭蓋顔面外傷で受診した子供たち(2021年3月1日〜31日)

  2. 南半球の一般人口:チリ・サンティアゴのクリニカ・ウニベルシダド・デ・ロス・アンデスで軽度の頭蓋顔面外傷で受診した子供たち(期間不明)

  3. 北半球の同性双子:一卵性双胎(100%単絨毛膜妊娠)と二卵性双胎(80%二絨毛膜妊娠)を含む

研究者らは、各個人の髪のつむじの回転方向(時計回りまたは反時計回り)と位置(左、右、中央)を記録しました。双子の場合は、ペアごとに回転方向が同じか反対かを観察しました。

統計解析には単変量ロジスティックモデルを使用し、回転方向とつむじの位置との関連を調査しました。また、北半球と南半球での結果を比較し、地理的要因の影響も検討しました。

【結果】

  1. 対象者数:

    • 双子:74人(37ペア)

    • 各半球の一般人口:各50人

  2. 双子のつむじ:

    • 双子ペア内でつむじの回転方向が反対になる確率のオッズ比は1と有意に異なっていました(p = 0.017)。これは、双子のつむじきが同じ方向に回転する傾向が強いことを示しています。

    • つむじの左右の位置については、双子ペア内で有意な関連は見られませんでした(p = 0.869)。

  3. 半球間の比較:

    • 反時計回りのつむじに関するオッズ比を比較したところ、南半球(OR = 0.28 [0.24; 0.32])の方が北半球(OR = 0.04 [0.03; 0.05])よりも高い値を示しました。

    • この結果は、両半球とも時計回りのつむじが多数を占めるものの、南半球では北半球に比べて反時計回りのつむじがより頻繁に観察されたことを示しています(p < 0.001)。

    • つまり、地理的な位置(北半球か南半球か)がつむじの回転方向に影響を与える可能性が示唆されました。

  4. 一般的な傾向:

    • 全体として、時計回りのつむじが最も一般的でした。

【考察】

  1. 遺伝的影響: 双子研究の結果は、つむじの特徴が部分的に遺伝的要因によって決定されることを示唆しています。特に、単絨毛膜妊娠由来の双子(100%一卵性)と同性の二絨毛膜妊娠由来の双子(20%一卵性、80%二卵性)で観察されたつむじの回転方向の一致は、この仮説を支持しています。

  2. 環境要因の影響: 南半球で反時計回りのつむじがより多く観察されたという驚くべき発見は、環境要因がつむじの形成に影響を与える可能性を示唆しています。ただし、この差異が純粋に地理的要因によるものなのか、それとも特定の集団の遺伝的特性によるものなのかは、さらなる研究が必要です。

  3. 発生学的意義: これらの発見は、胎児期における細胞の移動やパターン形成のメカニズムに新たな洞察を与える可能性があります。つむじの形成過程を理解することは、より広範な発生学的プロセスの解明にもつながる可能性があります。

【結論】

本研究は、つむじの形成が遺伝的に決定される発生過程であると同時に、外的な環境要因の影響を受ける可能性があることを示唆しています。これらの発見は、一般的な発生メカニズムに関する新たな洞察を提供する可能性のある現象の重要性を強調しています。

研究チームは、これらの驚くべき発見を確認するため、北半球と南半球の複数の集団を対象とした大規模な疫学調査の実施を提案しています。このような研究は、地理的要因が頭蓋顔面の発達に及ぼす影響をより明確に理解するのに役立つかもしれません。

文献:Willems, Marjolaine et al. “Genetic determinism and hemispheric influence in hair whorl formation.” Journal of stomatology, oral and maxillofacial surgery vol. 125,2 (2024): 101664. doi:10.1016/j.jormas.2023.101664

この記事は後日、Med J SalonというYouTubeとVRCのイベントで取り上げられ、修正されます。

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用語解説

  • 単変量ロジスティックモデル: 統計学で用いられる分析手法の一つです。二値の結果(例:髪の渦巻きが時計回りか反時計回りか)と一つの説明変数(例:北半球か南半球か)との関係を分析するのに適しています。この方法により、ある特性が存在する確率を予測したり、その特性に影響を与える要因を特定したりすることができます。

  • オッズ比(OR): 二つのグループ間での、ある事象が起こる確率の比較を示す統計的指標です。例えば、この研究では南半球と北半球での反時計回りの髪の渦巻きの出現頻度を比較しています。オッズ比が1より大きければ、その事象(この場合は反時計回りの渦巻き)が起こる可能性が高いことを示し、1未満であれば可能性が低いことを示します。

  • 単絨毛膜妊娠: 一卵性双胎の一種で、受精卵が非常に早い段階(受精後3-4日以内)で分裂して2つの胚になる場合に起こります。この場合、双子は同じ絨毛膜(胎盤の外層)を共有します。遺伝的に100%同一であるため、髪の渦巻きのような特徴を研究するのに適しています。

  • 二絨毛膜妊娠: 双胎妊娠の一種で、二つの別々の絨毛膜があります。これには二つのケースがあります: a) 二卵性双胎:2つの異なる卵子が別々の精子によって受精した場合(遺伝的には普通の兄弟姉妹と同じ) b) 一卵性双胎の一部:受精後4-8日の間に分裂が起こった場合 この研究で観察された同性の二絨毛膜双胎の約20%が一卵性、80%が二卵性と推定されています。

【所感】

本研究は、一見些細に思えるつむじという現象が、実は発生学や遺伝学、さらには環境要因の影響を研究する上で重要なモデルとなり得ることを示しました。特に、南北半球間での差異という予想外の発見は、我々の体の発達が地球規模の要因によって微妙に調整される可能性を示唆しており、非常に興味深いものです。

今後は、より大規模かつ多様な集団を対象とした研究が必要です。また、つむじの形成に関与する具体的な遺伝子や分子メカニズムの同定、さらには胎児期の環境要因との相互作用についての詳細な調査が望まれます。

このような現象は、一見奇異に思えるかもしれませんが、生物学の基本原理を理解する上で重要な洞察を提供する可能性があります。つむじという日常的な現象が、実は地球規模の影響を受けているという発見は、生命の神秘とその環境への適応能力を改めて認識させてくれます。

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バーチャル医療研究会編集部
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