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【医師論文解説】日本人の3人に1人が危険な亜鉛不足状態!? 1300万人の日本人データが示す衝撃の実態【OA】
背景:
亜鉛は人体に不可欠な微量元素であり、タンパク質、脂質、核酸の代謝に関与する酵素の補因子として重要な役割を果たしています。
また、免疫機能、細胞分裂、DNA合成、味覚や嗅覚の認識、創傷治癒にも深く関わっています。世界中で20億人以上が亜鉛欠乏症に苦しんでおり、その影響は先進国、発展途上国を問わず広がっています。
亜鉛欠乏症は免疫機能の低下、味覚・嗅覚障害、肺炎、成長遅延、視覚障害、皮膚障害、リンパ球機能障害、食欲不振、下痢などのリスクを高めます。また、最近の研究では、肝疾患、炎症性腸疾患、慢性腎臓病、COVID-19感染症の患者の予後にも悪影響を与えることが報告されています。
日本においても亜鉛欠乏症は深刻な問題となっていますが、これまで大規模な調査は限られていました。本研究は、日本の全国規模の医療データベースを用いて、亜鉛欠乏症の実態と関連要因を明らかにすることを目的としています。
方法:
本研究は、2019年1月1日から2021年12月31日までの期間に、日本の全国規模の医療請求データベース(MDV)を用いた後ろ向き横断観察研究です。
MDVデータベースには、日本の急性期病院の約26%に相当する460以上の病院から、3800万人以上の患者の匿名化された管理データが含まれています。
研究対象者は、調査期間中にMDVデータベースに血清亜鉛濃度の記録がある20歳以上の患者です。亜鉛含有薬を処方されている患者のデータは除外されました。
主要な評価項目は血清亜鉛濃度で、日本臨床栄養学会のガイドラインに基づき、欠乏(<60 μg/dL)、境界域欠乏(60-79 μg/dL)、正常(≥80 μg/dL)に分類されました。
データ分析では、性別、年齢、体重、BMI、入院/外来の別、併存疾患、処方薬、検査値などの情報が収集されました。統計解析には、カイ二乗検定、ロジスティック回帰分析、スピアマンの順位相関係数などが用いられました。
結果:
全体像:
分析対象となった13,100人のうち、34.8%が亜鉛欠乏、45.5%が境界域欠乏、19.7%が正常でした。
平均血清亜鉛濃度は65.9 μg/dLでした。
性別と年齢による違い:
男性の36.6%、女性の33.1%が亜鉛欠乏でした。
年齢が上がるにつれて亜鉛欠乏の割合が増加し、80歳以上では45.8%に達しました。
50代以上では、すべての年齢層で男性の方が女性よりも亜鉛欠乏の割合が高かったです。
20代と30代では、逆に女性の方が男性よりも亜鉛欠乏の割合が高かったです。
入院患者と外来患者の違い:
入院患者の50.3%が亜鉛欠乏でした。
外来患者の23.1%が亜鉛欠乏でした。
併存疾患との関連:
誤嚥性肺炎(66.5%)、褥瘡(60.4%)、サルコペニア(56.7%)、慢性腎臓病(51.2%)、頭部外傷(48.1%)の患者で亜鉛欠乏の割合が高かったです。
COVID-19患者の42.7%が亜鉛欠乏でした。
薬剤との関連:
スピロノラクトン(58.4%)、フロセミド(53.7%)、甲状腺ホルモン剤(51.7%)、抗貧血薬(51.1%)、全身性抗菌薬(50.4%)を使用している患者で亜鉛欠乏の割合が高かったです。
検査値との相関:
血清亜鉛濃度は、アルブミン(ρ=0.53)、ヘモグロビン(ρ=0.42)、CRP(ρ=-0.38)、総タンパク(ρ=0.36)と中程度の相関を示しました。
多変量解析結果:
年齢と性別で調整後も、誤嚥性肺炎(オッズ比2.959)、褥瘡(オッズ比2.403)、サルコペニア(オッズ比2.217)、COVID-19(オッズ比1.889)、慢性腎臓病(オッズ比1.835)などの疾患が亜鉛欠乏と強く関連していました。
薬剤では、スピロノラクトン(オッズ比2.523)、全身性抗菌薬(オッズ比2.419)、フロセミド(オッズ比2.138)、抗貧血薬(オッズ比2.027)、甲状腺ホルモン剤(オッズ比1.864)などが亜鉛欠乏と強く関連していました。
議論:
本研究は、日本における初めての全国規模の亜鉛欠乏症の実態調査であり、高齢者、男性、入院患者、特定の併存疾患(呼吸器感染症、褥瘡、サルコペニア、慢性腎臓病など)や薬剤使用(スピロノラクトン、フロセミド、甲状腺ホルモン剤、全身性抗菌薬、コルチコステロイドなど)と亜鉛欠乏症との関連を明らかにしました。
高齢者における亜鉛欠乏の増加は、食事からの亜鉛摂取量の低下や加齢に伴う炎症との関連が考えられます。性別による違いについては、先行研究と一致しない部分もあり、さらなる研究が必要です。
呼吸器感染症と亜鉛欠乏の関連は、亜鉛が抗ウイルス免疫応答や呼吸器の免疫応答の調節に関与していることから説明できます。COVID-19患者への亜鉛補充の有効性を示す研究もあり、呼吸器感染症患者の亜鉛濃度モニタリングの重要性が示唆されます。
褥瘡やサルコペニアと亜鉛欠乏の関連は、亜鉛が創傷治癒や筋肉量の維持に重要な役割を果たしていることを反映している可能性があります。日本の高齢化に伴い、これらの問題は今後さらに増加すると予想されるため、栄養管理の一環として亜鉛レベルのモニタリングが重要になると考えられます。
慢性腎臓病と亜鉛欠乏の関連は、先行研究とも一致しており、亜鉛補充療法の可能性について更なる研究が期待されます。
甲状腺ホルモン剤や利尿薬の使用と亜鉛欠乏の関連については、亜鉛が甲状腺ホルモン機能に重要であることや、利尿薬が亜鉛排泄を増加させる可能性があることから説明できます。これらの薬剤は高齢者に多く処方されるため、定期的な亜鉛レベルのモニタリングが推奨されます。
結論:
本研究は、日本における亜鉛欠乏症の高い有病率と、その関連要因を明らかにしました。高齢者、男性、入院患者、特定の疾患や薬剤使用者で亜鉛欠乏のリスクが高いことが示されました。これらの知見は、亜鉛欠乏症のリスクが高い患者の特定と適切な介入につながる可能性があります。今後は、因果関係の確立や長期的な変化の追跡、生活習慣や食事習慣を含めたより包括的な研究が必要です。
※注意: この記事は情報提供を目的としたものであり、医学的なアドバイスではありません。具体的な治療や生活習慣の改善については、医師に相談してください。
参考文献
Yokokawa H, Morita Y, Hamada I, Ohta Y, Fukui N, Makino N, Ohata E, Naito T. Demographic and clinical characteristics of patients with zinc deficiency: analysis of a nationwide Japanese medical claims database. Sci Rep. 2024 Feb 2;14(1):2791. doi: 10.1038/s41598-024-53202-0. PMID: 38307882; PMCID: PMC10837122.
この記事は後日、Med J SalonというYouTubeとVRCのイベントで取り上げられ、修正されます。
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