【医師論文解説】美しい傷跡のための戦い:縫合の新事実【Abst.】
背景:
体幹および四肢の線状創閉鎖において、連続水平マットレス縫合(HM)と連続皮内縫合(SQ)は、他の縫合技術よりも優れているとされてきました。
しかし、これら2つの技術を直接比較した研究はこれまでありませんでした。そこで、Zachary Kwapnoski氏らの研究チームは、HMとSQの審美的アウトカムを比較する研究を行いました。
方法:
この研究は、無作為化評価者盲検比較試験として設計されました。50人の患者を対象とし、各患者の手術創を2つに分け、一方にHM、もう一方にSQを無作為に割り当てる分割創モデルを採用しました。主要評価項目として、術後3ヶ月以上経過時点でのPatient and Observer Scar Assessment Scale(POSAS)スコアを用いました。POSASは、患者と観察者の両方による瘢痕評価を含む包括的な評価尺度です。
結果:
POSAS合計スコア:
HM: 19.49点
SQ: 17.76点
統計的有意差なし(p = 0.14)
患者による全体的評価スコア:
HM: 4.71点
SQ: 3.50点
統計的に有意(p = 0.02)
評価者による全体的評価スコア:
HM: 3.87点
SQ: 3.29点
統計的に有意(p = 0.03)
これらの結果から、POSAS合計スコアではHMとSQの間に統計的な有意差は見られませんでしたが、患者と評価者の両方が、SQによる縫合のほうがより良好な審美的結果をもたらしたと評価したことが分かります。
論点:
この研究は、HMとSQの直接比較を行った最初の研究として重要です。POSAS合計スコアに有意差がなかったにもかかわらず、患者と評価者の主観的評価ではSQが優れていたという結果は、瘢痕評価における客観的指標と主観的印象の違いを示唆しています。また、この結果は、縫合技術の選択において患者の満足度を考慮することの重要性を強調しています。
結論:
POSAS合計スコアでは統計的有意差が認められなかったものの(p = 0.14)、患者と評価者の両方が、SQによる縫合のほうがより良好な全体的印象を持ったことが明らかになりました(患者 p = 0.02、評価者 p = 0.03)。この結果は、体幹および四肢の線状創閉鎖において、SQがHMよりも審美的に優れている可能性を示唆しています。
文献:Kwapnoski, Zachary et al. “Aesthetic outcome of running subcuticular suture versus running horizontal mattress suture in closure of linear wounds of the trunk and extremities: a randomized evaluator-blinded split-wound comparative effectiveness trial.” Journal of the American Academy of Dermatology, S0190-9622(24)00974-5. 28 Jun. 2024, doi:10.1016/j.jaad.2024.06.044
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連続水平マットレス縫合(HM:Running Horizontal Mattress)
HMは、皮膚の表面に糸が見える縫合方法です。
特徴:
創傷の両端を交互に通す「ジグザグ」のような縫合パターンを形成します。
皮膚表面に糸が見えるため、抜糸が必要です。
創傷の端をしっかりと寄せるため、張力が強い部位や創傷が開きやすい部位に適しています。
創傷の閉鎖力が強く、止血効果も高いです。
連続皮内縫合(SQ:Running Subcuticular)
SQは、皮膚の表面に糸が見えない縫合方法です。
特徴:
糸を皮膚の真皮層(表皮のすぐ下の層)に通します。
皮膚表面に糸が出ないため、抜糸が不要な場合が多いです。
創傷の両端を内側から寄せるため、表面に糸の跡が残りにくいです。
美容的な結果が求められる部位に適しています。
HMに比べて創傷閉鎖力は弱いため、張力の強い部位には不向きな場合があります。
両方法とも「連続」縫合であり、一本の糸で創傷全体を縫い合わせます。これにより、個別の結び目(単純縫合)よりも均一な張力が得られ、縫合時間も短縮できます。
この研究結果から、SQのほうが患者と評価者の両方から高い審美的評価を得たことが分かりました。ただし、創傷の部位や性質によって適切な縫合法は異なるため、個々の症例に応じて選択する必要があります。
所感:
この研究は、創閉鎖技術の選択に関して貴重な知見を提供しています。特に注目すべきは、客観的評価(POSAS合計スコア)と主観的評価(患者と評価者の全体的印象)の間に差異が見られたことです。これは、臨床現場での意思決定において、客観的指標だけでなく、患者の満足度も重要な要素として考慮すべきであることを示唆しています。
ただし、この研究には限界もあります。単一施設での実施であり、比較的均質な患者集団を対象としているため、結果の一般化には注意が必要です。また、長期的な経過観察や、異なる身体部位での比較など、さらなる研究が望まれます。
今後は、この研究結果を踏まえつつ、個々の患者の状況や好みも考慮に入れながら、最適な縫合技術を選択していくことが重要でしょう。また、縫合技術の改良や新技術の開発にも、この研究結果が貢献する可能性があります。
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