【医師論文解説】船酔いの影響が想像以上だった!? 上陸後24時間の驚くべき調査結果【Abst.】
背景:
船酔いが海上での作業能力に影響を与えることは既に報告されていますが、陸に上がった後の仕事能力や生活の質への影響については、まだ明らかにされていませんでした。
この研究は、その「陸に上がった後」の影響に焦点を当てた画期的な調査です。
方法:
健康な中国人男性を対象に、2つのグループを設定しました。
一つは単回の船旅訓練(SSV)を受けるグループ、もう一つは反復的な船旅訓練(RSV)を受けるグループです。それぞれ異なる船舶で訓練を行いました。
研究者たちは、船酔いの発生率(SSI)を調査するためのアンケートを実施し、船酔いの症状(嘔吐、吐き気、その他の症状、症状なし)の発生率を評価しました。また、陸に上がってから24時間以内の仕事能力と生活の質の低下(WLD)を調査するためのアンケートも実施しました。このWLDアンケートでは、全体的な感覚を4段階(重度、中等度、軽度、なし)で評価するとともに、特定のWLD項目の発生率(IR)も調査しました。
結果:
全体的なWLDの発生率は、RSVグループ(54.64%)の方がSSVグループ(63.78%)よりも低かった。
両グループとも、大型の上陸用舟艇で訓練を受けた被験者の方が、小型船舶で訓練を受けた被験者よりも、全体的なWLDスコアが高く、身体的疲労、睡眠障害、自発的な運動能力の低下の発生率が高かった。
嘔吐や吐き気を経験した被験者は、症状のなかった被験者と比較して、以下の項目で高いWLDスコアと発生率を示した:
集中力の低下
身体的疲労
食欲不振
自発的な運動能力の低下
射撃精度の低下の発生率:
SSVグループ:嘔吐あり(21.35%) vs その他の症状(7.13%)、症状なし(9.14%)
RSVグループ:嘔吐あり(22.11%) vs その他の症状(9.28%)、症状なし(5.27%)
機器操作の障害の発生率:
SSVグループ:嘔吐あり(16.85%) vs その他の症状(3.57%)、症状なし(6.85%)
RSVグループ:嘔吐あり(20.47%) vs その他の症状(7.85%)、症状なし(7.03%)
議論:
この研究結果は、船旅後の仕事能力と生活の質の低下が、以下の3つの要因と密接に関連していることを示しています:
使用した船舶の種類
船酔いの重症度
船旅訓練中の慣れ
特に注目すべきは、嘔吐を伴う重度の船酔いを経験した被験者が、陸に上がった後も継続して高いWLDを示したことです。これは、船酔いの影響が想像以上に長く続く可能性を示唆しています。
また、反復的な訓練を受けたグループの方が全体的なWLDの発生率が低かったことから、船旅への慣れが後遺症の軽減に寄与する可能性も示されました。
結論:
船旅、特に船酔いを伴う経験は、陸に上がった後も仕事能力や生活の質に大きな影響を与える可能性があります。この影響は、使用する船舶の種類や船酔いの重症度、そして船旅への慣れによって変化します。
文献:
Qi, Rui-Rui et al. “Sea Voyage Training and Motion Sickness Effects on Working Ability and Life Quality After Landing.” Aerospace medicine and human performance vol. 92,2 (2021): 92-98. doi:10.3357/AMHP.5614.2021
この記事は後日、Med J Salonというニコ生とVRCのイベントで取り上げられ、修正されます。
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用語解説:
SSI (Seasickness Incidence):
船酔い発生率のこと。この研究では、船酔いの症状(嘔吐、吐き気、その他の症状、症状なし)の発生頻度を評価するために使用されたアンケートを指します。SSIは船酔いの程度と頻度を定量化するための重要な指標です。
WLD (Working ability and Life quality Decline):
仕事能力と生活の質の低下を意味します。この研究では、船旅訓練後、陸に上がってから24時間以内に経験される様々な症状や能力の低下を評価するために使用されました。WLDは全体的な感覚を4段階で評価するとともに、集中力低下、身体的疲労、睡眠障害などの特定の項目の発生率も調査しています。WLDは船酔いの後遺症が日常生活や仕事にどの程度影響を与えるかを測定する重要な指標です。
所感:
本研究は、船酔いの影響が単に海上での一時的な問題ではなく、陸に上がった後も継続する可能性を明確に示した点で非常に重要です。特に、射撃精度や機器操作など、高度な集中力と精密さを要する作業への影響が明らかになったことは、軍事や海洋調査などの分野で重要な知見となるでしょう。
また、反復的な訓練によってWLDの発生率が低下したという結果は、船酔い対策としての事前トレーニングの有効性を示唆しています。今後は、これらの知見を基に、船酔いの予防法や効果的な回復方法の開発につながることが期待されます。
さらに、この研究結果は、船旅や海上作業後の休養期間の設定など、労働衛生面での新たな指針策定にも貢献する可能性があります。今後は、より長期的な影響や、年齢、性別による差異など、さらなる詳細な研究が望まれます。