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【医師論文解説】専門医vs.かかりつけ医、どっちがいい? 鼓膜チューブ挿入後を例に【OA】


背景:

鼓膜チューブ(VT)挿入術は、小児の滲出性中耳炎や再発性中耳炎に対して広く行われている治療法です。

しかし、術後のフォローアップケアに関しては、国際的にガイドラインが統一されていません。特に、専門医による定期的な診察が必要か、それとも一般開業医(GP)によるケアで十分かという点で見解が分かれています。また、術後のケアにおいて、親の経験や関与が重要な要素となることが指摘されています。本研究は、ノルウェーにおいて、耳鼻咽喉科医とGPのどちらかによる術後ケアを受けた子どもの親の経験を探ることを目的としています。

方法:

本研究は、ノルウェーの6つの病院で実施された多施設無作為化非劣性試験の一環として行われました。3〜10歳の子どもの親を対象に、術後1ヶ月未満、6〜7ヶ月後、2年後の3つの時点で、合計55回の個別インタビューを実施しました。インタビューは半構造化され、主に電話で行われました。データ分析には反射的テーマ分析を用いました。

結果:

  1. 医療システムへの信頼と予約責任:

    • ほとんどの親は、耳鼻咽喉科医かGPかにかかわらず、子どもが安全に管理されていると感じていました。

    • 耳鼻咽喉科医による診察は高度な専門性があると評価されましたが、GPによるケアも十分信頼できるものと認識されていました。

    • GPグループの親は、必要時に自ら予約を取る責任を負っていましたが、多くはこれを受け入れていました。

    • 一部の親は、18ヶ月後の診察を忘れる不安を感じていました。

  2. 時間経過とともに減少する親の心配:

    • 多くの親は、術後に子どもの状態が改善し、合併症がなかったと報告しました。

    • 時間が経つにつれ、VTに対する心配や注目が減少しました。

    • 一部の子どもに継続的な問題があっても、適切に対処されていると感じていました。

    • 中には、聴力低下以外の診断(ADHDや自閉症など)がつき、子どもの状態をより明確に理解できるようになった親もいました。

  3. 「終結」への欲求:

    • 多くの親は、子どもが完全に回復したことを確認するための「チェックアウト」を望んでいました。

    • VTが自然脱落したかどうかの確認や、聴力が最善の状態であるかの確認を求めていました。

    • 学校への移行期など、重要な節目に際して、この「終結」の欲求が高まりました。

    • 聴力検査の必要性については意見が分かれ、一部の親は自身の判断を信頼していましたが、多くは専門家による評価を望んでいました。

議論:

本研究の結果は、VT挿入術後のケアニーズが子どもによって異なることを示唆しています。多くの子どもが術後に問題なく経過する一方で、一部には継続的なケアが必要な場合もあります。この多様性を考慮すると、全ての子どもに対して同じ頻度で定期的なフォローアップを行うことの妥当性に疑問が生じます。

また、時間の経過とともに親の健康リテラシーが向上する可能性が示唆されました。これは、子どもの状態を評価する能力が経験とともに向上することを意味し、術後ケアの在り方に影響を与える可能性があります。

聴力検査の必要性については、現在のガイドラインでは広く推奨されていますが、本研究の結果はその普遍的な必要性に疑問を投げかけています。リソースの制約や検査の信頼性の問題を考慮すると、聴力検査の実施タイミングや対象者の選定について、さらなる研究が必要であることが示唆されました。

結論:

本研究は、VT挿入術後2年間の親の経験に関する貴重な洞察を提供しています。全体として、親は耳鼻咽喉科医かGPかにかかわらず、子どもが適切にケアされていると感じていました。時間の経過とともに心配は減少しましたが、多くの親は「終結」を望んでいました。必要に応じて一次医療機関に連絡する責任を親に与えることは、多くの場合満足のいく結果をもたらしました。これらの知見に基づき、不必要な診察を避けつつ、個々の医療ニーズに対応する個別化されたアプローチが推奨されます。

文献:
Austad, Bjarne et al. “Postoperative care for children after ventilation tube surgery: A qualitative study of parents' experiences over time in Norway.” American journal of otolaryngology, vol. 45,6 104457. 3 Aug. 2024, doi:10.1016/j.amjoto.2024.104457

この記事は後日、Med J Salonというニコ生とVRCのイベントで取り上げられ、修正されます。

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所感:

本研究は、VT挿入術後のケアにおける親の視点を深く掘り下げた貴重な研究です。特に注目すべき点は、時間の経過とともに親の不安が軽減し、健康リテラシーが向上する可能性が示唆されたことです。これは、術後ケアの計画立案において重要な要素となり得ます。

また、「終結」への欲求は興味深い発見です。これは医学的必要性だけでなく、心理的な側面も考慮したケアの重要性を示唆しています。

一方で、本研究はノルウェーという特定の医療システムの中で行われたものであり、他の医療システムへの一般化には注意が必要です。また、父親や非ノルウェー語話者の参加が少ないことは、結果の解釈に制限を加える可能性があります。

今後は、この研究結果を基に、より効率的かつ個別化された術後ケアプロトコルの開発が期待されます。特に、聴力検査の必要性や頻度、GPによるフォローアップの有効性について、さらなる研究が必要でしょう。最終的には、医学的必要性、親の不安、リソースの効率的利用のバランスを取った、最適な術後ケアモデルの確立が望まれます。

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