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【医師論文解説】乗り物酔いに悩む海洋生物学者が仕事に復帰!その秘密とは?【OA】


背景:

乗り物酔いは、陸・海・空の移動中に約3分の1の人が経験する一般的な問題です。

しかし、その予防や管理に関する文献は限られています。本症例報告では、34歳の女性の乗り物酔いに対する理学療法について詳述します。感覚の不一致理論に基づき、視覚-前庭感覚の順応と平衡訓練を中心としたプログラムが開発されました。

方法:

患者は海洋生物学者で、5年間にわたり徐々に悪化する視覚誘発性の乗り物酔いに悩まされていました。

初期評価では、不安定な面での平衡障害と頭部または物体の動きに伴う視覚的安定性の障害が主な問題点として特定されました。

治療プログラムは以下の要素で構成されました:

  1. 視覚-前庭感覚順応エクササイズ

  2. 平衡訓練

  3. 高密度フォームで作られた「ブーツ」を使用した日常生活での訓練

エクササイズは段階的に難度を上げ、持続時間と速度を増加させていきました。患者は主に自宅でプログラムを実施し、2週間ごとに follow-up を受けました。

結果:

10週間の治療後、患者の状態は大幅に改善しました:

  1. 2週間後:

    • 車酔いの軽減

    • 視覚安定性エクササイズでの症状持続時間が30秒から10秒に短縮

  2. 4週間後:

    • 運転中の乗り物酔いが消失

    • エレベーター乗車時の苦痛が最小限に

    • 浮き桟橋での立位が3分間可能に

  3. 7週間後:

    • 浮き桟橋での作業が症状なしで可能に

    • スキューバダイビングを2時間持続可能に (以前は不可能)

  4. 10週間後 (治療終了時):

    • すべてのエクササイズを難なくこなせるように

    • 仕事のすべての活動を再開

    • 運転中や自宅でのめまいが消失

    • 3時間のスキューバダイビング後も軽度の乗り物酔いのみ (症状は15-20分で消失)

  5. 10ヶ月後のフォローアップ:

    • エクササイズを中止しても、仕事と日常生活での機能を維持

議論:

この症例は、視覚および前庭刺激を用いた順応療法と段階的に難度を上げる平衡訓練が、重度の乗り物酔い患者の症状軽減と機能改善に効果的であることを示しています。特に注目すべきは、患者の職業に関連する特定の活動(浮き桟橋での作業やスキューバダイビング)に対する耐性が大幅に向上したことです。

治療の成功は、感覚の不一致理論と刺激特異的な順応の概念に基づいています。フォーム「ブーツ」の使用は、体性感覚入力への依存を減らし、視覚と前庭感覚への依存を強制することで、患者の症状を最も引き起こしやすい状況を再現し、効果的な訓練となりました。

結論:

この症例報告は、適切に設計された自宅ベースの運動プログラムが、重度の乗り物酔い患者の症状を大幅に改善し、機能的能力を向上させる可能性があることを示しています。視覚-前庭感覚の順応と平衡訓練を組み合わせたアプローチは、特に有望であり、さらなる研究に値します。

文献:

Rine, R M et al. “Visual-vestibular habituation and balance training for motion sickness.” Physical therapy vol. 79,10 (1999): 949-57.

この記事は後日、Med J Salonというニコ生とVRCのイベントで取り上げられ、修正されます。

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エクササイズの内容:

視覚-前庭感覚順応エクササイズ:

ステージ1:

  1. 腕を伸ばして持ったカードの文字(1.27cm)を読む

    • カードを左右に動かす(0.5Hz):90秒間

    • カードを上下に動かす(0.5Hz):90秒間

  2. カードを固定し、頭を左右に動かしながら文字を読む(0.5Hz):90秒間

  3. カードを固定し、頭を上下に動かしながら文字を読む(0.5Hz):90秒間

  4. 3m離れた場所の2.54cmの文字を読む:60秒間

  5. 頭を左右に動かしながら3mの文字を読む:60秒間

ステージ2:

  • ステージ1の活動を継続しながら、速度を上げる

  • 新たな活動として、カードと頭を反対方向に動かしながら文字を読む

  1. 平衡訓練:

ステージ1:

  1. 高密度フォームマット上で立位保持

  2. フォームマット上で足踏み

ステージ2:

  1. フォームマット上で足踏みしながら頭を左右に動かす

  2. フォームマット上で足踏みしながら頭を上下に動かす

追加された活動:

  • 高密度フォームで作られた「ブーツ」を履いて日常活動を行う

プログラムの実施方法:

  • 毎日実施することを推奨

  • 症状が出た場合はすぐに休止

  • 段階的に難度を上げる

  • 2週間ごとにフォローアップを行う

所感:

本症例は、乗り物酔いに対する新しい治療アプローチの可能性を示唆しています。特に印象的なのは、比較的短期間(10週間)で顕著な改善が見られたことです。また、自宅ベースのプログラムであることから、費用対効果が高く、患者の利便性も高いと考えられます。

しかし、単一の症例報告であることから、この方法の一般化には慎重であるべきです。今後は、より大規模なランダム化比較試験が必要でしょう。また、長期的な効果の持続性や、異なるタイプの乗り物酔いに対する有効性についても調査が必要です。

それでもなお、この報告は乗り物酔いに悩む多くの患者にとって希望となる可能性があり、この分野のさらなる研究を促進するきっかけとなるでしょう。理学療法士や他の医療専門家にとっても、乗り物酔いへのアプローチを再考する機会を提供しています。

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