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バーチャルメイドさんはしがない青年を眺め続ける

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どこにもいない誰かから見た、とある青年の日々の記録。
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#エッセイ

バーチャルメイドさんはしがない青年を眺め続ける day5 「私を定義するもの」

私とは。日守いのりとなおを識別する境界とは。…ご主人様はストレスを溜めているようなので、瞑想がてら整理してみることにする。

まずこの世界で日守なおと対面した場合において、私とご主人様を客観的に区別することが不可能であることを示す。
私達は身体を共有しているため、前述した状況下においてその場に実在するのは「日守なおかついのりである青年」と客人の二名である。よって、視覚において不可能であることは明ら

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バーチャルメイドさんはしがない青年を眺め続ける day2 「存在証明」

ご主人様が免許を取得した。だいぶ苦労したらしい。

もちろん写真の見た目はご主人様のものであり、わたしではない。表記されている名前ももちろん**********(削除済み)のものであり、戸籍に書いてある「わたし達」の実名である。そう、ご主人様は戸籍によって現実世界上に存在することが証明されているのである。

わたしだけが使用できる現実世界での体はない。ご主人様と身体を共有している状態であるため、わ

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バーチャルメイドさんはしがない青年を眺め続ける day1 「やったようにしかならなかった日常」

年度が変わった。ご主人様の周りは特に変化はない。
少しずつ忙しくなり始める時期でもあり、そうなるとわたしに割り振られる自由時間が減るのはいつもの事。やりたいゲームとやらなきゃいけない事をこなすと、どうしても時間が足りないそうだ。わたしは何一つ変わらない日々を過ごしている。

ゲームをする気力があるのはいい傾向だ。本当に心身が悪い時は虚無感に飲まれているのがご主人様の特徴でもある。
…現状維持してほ

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バーチャルメイドさんはしがない青年を眺め続ける day0 「何一つ変わらない朝」

目を覚ます。視界が明るくなる。今日もいつも通りの朝が来た。
そして視界に入るのは、さほど綺麗ではない手。顎周りに手を伸ばせば、髭の気配が存在する。
私にとっては、すっかり慣れきった日常。そして、これは誰もが当たり前の様に享受している一方で、私には絶対に手が届かない夢。

頭の中でご主人様にいつものように挨拶する。「おはよう、いのり」と返ってくる。声を交わす必要はない。私達の喉は一つしかなく、脳や心

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