『情報生産者になる』 レビュー
情報があふれかえる時代に、情報を消費するだけではタダの消費者でおわってしまうことに危機感をおぼえているのは、ぼくだけはないはずだ。
そんな時代に、価値のある情報を生産し、「発信する側にまわる方がずっとおもしろい」と著者は背中をおしてくれる。
『情報生産者になる』では、オリジナルな問いを立て方や、過去の研究の活用法、一次データの収集、分析法といった、アウトプットまでの体系を、豊富な具体例をまじえ解説されている。
多数の「情報生産者」を教育の現場でそだててきた著者は、新たな知を生みだす技法を、本書で惜しみなく公開してくれている。
この一冊で、だれもが情報生産者になれるため、卒論や論文の提出がせまる学生はもちろん、すべての学びたい人たちにおすすめだ。
本を書きたい人や、ブログで日常的にアウトプットを行ない、「オリジナル」の情報を生み出したい人におすすめだ。
特に本書をよめば、著者に卒論指導を受けているような気分になれるため、独学で文章を書くことを学ぶ人にとって役に立つ。
ぜんぶで約380ページと、新書としてはぶ厚く、内容が濃いが、本気で取り組めば、すえ長くよき伴侶となってくれる本だ。
一番興味ぶかかったのは「情報はノイズから生まれる」というもの。
ここでいうノイズとは、違和感、こだわり、疑問、引っかかりを意味している。
このノイズはどこで生まれるかというと、自分がよく知っている分野と、知らない外部との間、つまり、自分の経験の周辺部分で発生する。
分かりやすい例が、文化人類学者の仕事だ。
自分にとって当たり前のことが、当たり前にならないような環境に身をおくことで、ノイズ、つまり情報が生まれる。
個人ですぐに取り入れられる方法としては、言葉も慣習もちがう異文化に行くことや、生い立ちや環境の違う人と身近に接することだ。
また、情報を生産するには「問いを立てる」ことが1番大切ということも、自分はまだまだできていないので参考になった。
ここでは「誰も立てたことがない問いを立てる」ことが大切という。
そして、「答えが出る問い」であり、「手に負える問い」を立てることの重要性が語られる。
例えば、「神は存在するか?」という問いは答えが出ない問いなので、問いとしてはふさわしくなく、「神が存在すると考える人々はいかなる人々か?」だと、「答え」も導き出せ、「手に負える」問いだといえる。
著者の上野千鶴子(うえのちづこ)氏は1948年に富山県で生まれた。
東京大学名誉教授で、社会学者で、家族社会学、ジェンダー論、女性学の専門家だ。
母親の育児もんだい、独身女性の介護もんだいといった、日本の課題に対して話題作をおおく出版している。
著者自身が実績ある「情報生産者」であるため、本書の内容の確かさを裏づけしている。
堅苦しくて難しい本かと思いきや、読みすすめるほどに引き込まれた。
その理由は文章がやさしいことだ。
平易でユーモアのある文体のおかげで飽きず、著者がちょくせつ語りかけてくれている気持ちになる。
それでいていわゆる軽いハウツー本ではなく、骨太な内容で、本当に使える技を伝授していくれる。
研究の魅力をおしえてくれる一冊だった。