【レビュー】オーストラリアの不思議な短編集『遠い町から来た話』
ショーン・タン氏の絵本が大好きです。
それは、どこか別の世界に運んでくれるような、人間のやさしさを思い出させてくれるような、そんな絵本だから。
そして同時に、思考を柔軟にする訓練であり、大人になってこり固まってしまった頭をほぐすのに、ちょうどいい。
短編集といった趣の『遠い町から来た話』は、だれにとってもお気に入りの物語がきっとみつかるはずです。
子供にとっては想像力をふくらませてくれる本で、「いみが分からない!」といいながらも、何度も読み聞かせをせがまれそうです。
ワクワクさや切なさといった子供心を思い出させてくれるので、日々の仕事や日常に追われている大人にこそ読んでほしい本。
ぼくが大好きな、ショーン・タン氏の別の絵本『アライバル』とは対照的です。
『アライバル』がセピア調の絵だけで、一つの重厚な物語を表現していたのに対して、本書は文章もおおく、15の短編からなり、絵や表現法も多種多彩。
著者がじっさいに感じた無意識の世界を、圧倒的な画力と表現力で、絵と文章に落とし込んでおり、空想的でありながらも、妙にリアリティが感じられます。
どの短編も、独立した作品になりうると思えるくらい印象深く、特に心にのこったのは「棒人間」という作品です。
人のかたちをした、細い木でできた生き物は「棒人間」と呼ばれており、人間にたいして何の害もありませんが、なぜ存在するのかがわかりません。
人間にイタズラをされても、やりかえしたりもせず、なすがままにされている彼ら。
そんな寡黙な棒人間の存在は、「あなたたちは誰ですか」「なぜここにいるんですか」「なぜですか」と、無言で人間に問い返しています。
読み終わったあと、こころがざわめき、子供のころ、猫をイジメていた別の子供達のことを思い出しました。
著者のショーン・タン氏は、1974年にオーストラリア生まれ。
イラストレーター、絵本作家、舞台監督、映画のコンセプトアーティストと活躍し、「ロスト・シング」は映画化され、アカデミー賞短編アニメーション賞も受賞しています。
そして本書は『アライバル』同様、作者の人間性に触れられるような、ステキな作品。
絵と文がうまく溶けあっているすばらしい本で、無邪気で残酷で、探究心にあふれていた子供時代を思い出させてくれます。