旅に出たくなる本 『純情ヨーロッパ〈西欧&北欧編〉』 レビュー
なにかを制限されると、うずうずしてくるのは人のサガだろうか?
旅が気軽にできないいま、痛快な海外旅エッセイが読みたいと思い、手にとったのが本書。
著者が会社を辞めてから、おもしろい人々とふれあおうと、2ヶ月で欧州21ヵ国を横断し、鉄道の旅の前半「北欧と西欧」の国での出来事が収められています。
一緒に旅をしている気分にひたりながら、いろいろな人たちとの出会いを通じて、世界が優しさで満ち溢れていることを感じ、幸せな気持ちになれました。
さらには笑える箇所が無数にあり、電車内で読むには注意が必要です。
ひとり旅に出たい人や、ヨーロッパが好きな人はもちろん、旅に出たいのに、出れない人にもぴったり。
「仕事=人生」になっている現状を嘆き、仕事は単に人生の一部なんだなあという感覚を取り戻したい人にも、世界の人々の考え方に触れて、思考を柔軟にすることができます。
そして、なぜか悲しくて仕方のない人にも、本書を読めば元気をもらえます。
本書の面白さは、「1カ国につき、1つのミッション」をこなしていくアイディア。
たとえば、デンマークでのミッションは、「幸福度が世界一の国で、幸せの秘訣を探る」といったことや、ドイツでは、「憧れの古城に宿泊すること」、フランスでは「ヌーディストビーチで真っ裸になる」があげられます。
どのミッションも刺激的でワクワクし、どうなるんだろう?と読む手が止まりませんでした。
と著者がいうように、この世界を楽しみまくる秘訣が書かれています。
そして、急にはっとさせられる、出会った人々の声。
タクシーのドライバーは「デンマーク人は平等意識が強いから、人と競おうとしないんだよ。僕たちはハングリー精神じゃないから、がっかりすることもないし、それが幸せにつながっているのかもね。」と語ります。
ポルトガル人と日本人のハーフのアナちゃんは、「日本にいると謝ってばかりいるのがきつくなる」と言っていました。
さまざまな人びととの出会いを通して、著者自身も人生を振り返り、自分を卑下することをやめ、人間として成長していく様が描かれています。
「世界中の人と仲良くなれる」って本当なんだなと思い、人は出会いによって成長するんだ、とあらためて教えてくれます。
出会った人々の素敵な笑顔の写真も、本書の見所。
写真からも、現地の人々が心を開いているのがわかります。
会話の9割が下ネタのフランス人や、草食系のイタリア人といった、リアルな異国の人たちが、脳内旅を、より色鮮やかに彩ってくれます。
旅の一番の見どころは、やはり「ヌーディストビーチ」で、一文読むごとに大笑いさせられました。
こんな世界があるのか!と驚愕の内容で、色々な生き方があっていいんだなあと思わせてくれます。
著者が旅をはじめたのは、学生時代のアジアへの一人旅。
そこで異国の人々の優しさに感動し、会社員になってからも年に1度、2週間の海外一人旅に出ていました。
そして、映画会社の東映で18年間、TVプロデューサーを務め、2011年に独立。
ベストセラーとなった代表作『ガンジス河でバタフライ』は、旅のバイブルとして、主演・長澤まさみ、脚本・宮藤官九郎でドラマ化もされました。
ミッションを通して、現地の人々の心を開き、どんな人と仲良くなれる著者の北欧、西欧での旅。
それは笑いと驚きの連続で、非日常の体験をしている気分になり、元気がわいてきます。
今まで自分をしばっていた常識や固定観念が、ゆるゆるとほどけていきます。
旅本なので、オランダ人は基本週休3日、ドイツはビールもワイン16歳からOK、モナコの国民80人に1人が警官、といった、今までに知らなかった情報が盛り沢山。
等身大の「北欧と西欧」の魅力がつまった本で、続編の「中欧&東欧編」も明日届くので、いまから読むのが楽しみです。