『日本人というリスク』 レビュー
海外への移住を目指すならば、モチベーションを高めるために、日本人であることのリスクを把握することが大切!と思い、手に取ったのが本書。
日本を脱出せよ!とあおるような本ではなく、日本人の経済的リスクをもとに、リスクを国家や会社から切り離し、自由を得るためにどのように人生設計を描くかについて紹介しています。
マイホームの購入や、サラリーマンとして人生を会社にささげる生き方のリスクについて、漠然と考えていたことがうまく言語化されているので、これから就職する大学生や、会社勤めをはじめたばかりのサラリーマンにおすすめです。
また、リスク分散のために投資がすすめられているので、投資に興味のある人にも参考になるはず。
本書のおもしろさは、いままでは有効だった「会社・不動産・円・国への集中投資」が、現在ではリスクを極大化することになっていると看破した点。
日本人は最もリスクを嫌う国民で、戦後に、安定した生活を送るための最適化された戦略は、「偏差値の高い大学に入り、大きな会社に就職することをめざし、住宅ローンを組んでマイホームを買い、株や外貨には手を出さず、ひたすら円を貯め込み、老後の生活は年金に頼る」ことでした。
しかし、「金融危機」と「震災」という事件により、これらすべてがリスクへと変容していきます。
ではどうするかというと、自分と「会社・不動産・円・国」を切り離すこと。
会社のリスクは、会社が倒産したりリストラの対象になってしまうと、35歳または40歳からの転職が困難な日本において、再就職が難しいということです。
現在サラリーマンの人は「企業で仕事」をするのではなく、「企業と仕事」をすることが解決策に一つに。
具体的には、汎用性(他の企業でも通用する)と専門性をもった「スペシャリスト」になり、「マイクロ法人」として独立することです。
不動産(特にマイホーム)のリスクは、地価の下落。
対処法としては、「家賃を支払うくらいなら、家を買ったほうが得」というセールストークが、まったくのウソであることを理解し、マイホームはれっきとした不動産投資であることを認識することです。
円のリスクは、実質利回りが低いこと。
解決策は、外貨預金に変更することや、実質利回りがプラスになる株式に投資することです。
国のリスクは、年金や、医療・介護保険などの社会保障の破綻と、国家破綻。
対処法としてあげられていたのが、世界株式に投資しておくことです。
著者の橘 玲(たちばな あきら)さんは1959年生まれで、2002年に金融小説『マネーロンダリング』でデビューしました。
同年、「新世紀の資本論」と評された『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』がベストセラーになっています。
本書では、個人のリスクを分散するために、人的資本と金融資本を分散させることを推奨しています。
複雑な事象をシンプルに語ってくれる良書となっており、現在、自分がおかれている状況を俯瞰的に把握することができました。