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「笑い飯の漫才天国 in 東京 ~イキのいい若手大集合スペシャル~」ライブレポート

結成20周年を記念して始まった「笑い飯の漫才天国」。コロナ禍を経て幾度に及ぶ全国ツアーを終了させたのは、2024年1月の山形であった。
新たな仕切り直しとして、ツアー形式ではなく単独ライブとして生まれ変わったが、タイトルも同じく「漫才天国」かつキービジュアルは引き続きイエスとブッダがモチーフの某漫画であるのも嬉しいところだ。
そして2024年は、1974年に生まれた彼らが共に「50歳」という節目を迎えるある意味メモリアルイヤーでもある。詳細は言及しなかったが、哲夫曰く「ネタ作りを変えた」とのことで、新たにこれからの笑い飯を示す大きな1年になるのだなと思っていた。

二人そろって50代突入後の初単独は、ここ東京・大井町であった。
18:30開始ということもあり、待てども待てども観客の着席が間に合わず西田がたまらずブチ切れるジャブもあったが、無事に2024年度の漫才天国がスタートした。

笑い飯:デリバリーピザ
ピザのデリバリーを頼んだのはいいものの、30分以内で持って来なかったら腹が立つ。配達員の謝罪理由によっては許してやってもいいが、その言い訳とは…
スロースターターよろしく、終始二人とも噛み気味だった。口が回るのにも時間がかかるのだろう。ゆっくりと温まりを待つ。おもしろ配達員が、いつの間にかピザ箱の開け方やピザの形状でボケ倒して、終わる頃にはすっかりいつもの笑い飯に。

カベポスター:あだ名
子供の頃の同級生のあだ名の話。風貌から「どすこい」というあだ名がついたかと思えば「どす黒い恋文」の略称だったりとカベポ王道の捻った言葉遊び。犯人は永見君。

天才ピアニスト:彼氏のスマホ
重い女・ますみちゃんが見てしまった彼氏のスマホ。若干ぞんざいに扱われている描写がボディブローのように彼女に刺さりつつ、最後はスカッと大逆転。重くもあり、強くもあり、いい意味で貫禄を感じた。

蛙亭:ホスト
岩倉さん演じるホス狂の姫と、なぜか蟹に憑依された金髪のホスト・中野さんのコントラスト。発想力と演技に感服。妙に似たもの同士、いざこざはあれど惹かれ合ってしまう滑稽さと悲哀がなんとも蛙亭。ショートボブのイメージが強い岩倉さんがとても可愛らしいロリータな姫ギャルになっていた。

マユリカ:井戸端会議
お互いママ友になって井戸端会議をしたい…という願望を叶えたはいいものの、万引きで捕まったりと阪本ママから繰り出されるパンチの効いた自虐エピソードの数々に翻弄される中谷ママ。大歓声で迎えられ、終始爆笑の渦だった。阪本さんの超高速舞台移動を久々に拝見し、なぜか涙。

笑い飯:通販番組
「動物の部位」というワードからして爆笑なのだが、それを飲み薬を使って生やそうとして通販番組で売ろうとする発想が狂ってるのよ!
「お電話ください!」とハキハキ喋る西田に、身体のあちこちに悩んでいる人間からモテないクジャクまで演じる哲夫。不気味で下品で気持ち悪いネタを単独に必ず捻じ込んでくるのが笑い飯です。

コーナー:笑い飯世代王決定戦
 中曽根首相がレーガンに耳打ち、何を言った?
 千代の富士の「ウルフ」に代わる新しいニックネームは?
 公衆電話あるある
 替え歌「俺ら東京さ行ぐだ」
前半ブロックの若手と西田による大喜利コーナー。まさに1980年代に子ども時代を過ごしていた笑い飯の記憶にあるニュースやエンタメからのお題だが、やはり昭和後期~平成生まれの彼らが想像する時代背景や流行りものには若干ギャップや齟齬があるのが「本当に若いんだな…」と思わせるには十分だった。
阪本さんのやたら下ネタに走る替え歌で大爆笑。優勝は、巨人師匠の名言で5ポイント獲得の岩倉さん。
 

キャプテンバイソン:寿司屋
本日開店の寿司屋にふらりと入店する高野さん。その衝撃の理由と西田さん演じるすし職人の反撃が小気味いい。ぼそっ、ぼそっと高野さんが呟く度に静寂と笑いが潮のように満ち引きしていた。「UNDER5 AWARD」の審査員を哲夫が務めた縁でのオファーと思われるが、人力舎の若手筆頭格として十分アピールできたのでは!

そいつどいつ:森の守り神
深き森の祠でいたずら半分に写真を撮ろうとする二人。神は怒り、刺身さんに取り憑いたはいいものの、抜け出せなくなるジレンマ。それを揶揄う竹馬さんが腹立たしくも面白い。

エバース:タバコとししゃも
町田が喫煙するなら、僕はししゃもを焼くよと佐々木さん。タバコとししゃもがいつの間にか同系列に扱われ、喫煙が良くないことのように思えてくるから不思議だ。抜群の構成力と「しゃべくり」のテクニック、時々観客に答えを委ねることによって現実にふっと引き戻されるのも心地いい。「漫才っていいな」と思わせる時間だった。

オズワルド:名前の呼び方
エバース~オズワルドの流れはまさに「東京よしもと漫才師のトップランナー」を思わせるグルーヴ感。結婚した女性を今まで通り旧姓で呼ぶのか…と問題提起し、そういえば歌舞伎の役名は変遷していくものだと思わせ、当然引き出されるのは「市川海老蔵」。まんまと術中にハマり、なぜか当時の海老蔵氏のあれやこれやに発展していくさまは気持ちいいぐらいオズワルドの世界だった。蛙亭と甲殻類つながりの妙もまた良し笑

トム・ブラウン:剛力彩芽
すわM-1幻のネタかつ「ラヴィット!」で披露された漫才かと思いきや、まったく別角度から攻めたネタだった。剛力彩芽のモノマネをする峯岸みなみを止めるべく、首の骨を折るところからがトム・ブラウン。理屈も理論もぶっ飛んで、どうでもいいぐらい笑った。だいたい最後は爆破。

笑い飯 ぼんさんが屁をこいた
大阪万博も間近に迫り、イメージを良くすべく「ぼんさんが屁をこいた」に代わる新しい10文字を考案したはいいものの…
のっけから「味園ビルが滅んだ」から始まる千日前disに客席は当然の如くポカーンな反応。お構いなしに「吉本は荒れている」「黒門(市場)は外国だ」「通天閣はダサい」と自虐なボディブローを次々と叩き込む。ライブ前半と打って変わって、水を得た魚の如く悪口が止まらない。特に哲夫はかつてのM-1でスイッチが入った弾丸しゃべりが止まらず、ところどころ聞き取れる範囲の毒舌が放送できないレベルであった。
「タクシー運転手はやばい」「ラジオパーソナリティはじじい」「梅田ヨドバシは見えてるのにたどり着かない」など最早10文字オーバーの自由律に捧腹絶倒。ターゲットは横山やすし氏、浜村淳氏、MBSの福島アナ、某当て逃げ芸人やら車内でやらかした後輩やら。内輪をdisるならこのぐらいやらなきゃね。別に関西のことなんか知らなくても、流れに任せて笑っておけばよいのだ。このキレこそが笑い飯なのだから。

コーナー:11人連続銅鑼鳴らし
ミニトランポリンで勢いよくジャンプし、天井から吊られた銅鑼を鳴らせばOK。これ又初見の観客や若手芸人目当てで来場したファンには「?」な内容だが、笑い飯の単独ではレギュラー化している名物コーナーである。
長身の高野さんから身長順に皆高らかに銅鑼を鳴らしてゆく。それぞれが爪痕を残そうと刺身さんは上裸になったり、佐々木さんはジャケットを脱いで町田さんに渡したり。
当然だが、オチは西田のため毎度お馴染みの天空を衝くあのポーズで華麗に失敗、若干肩負傷。布川さんの陰に隠れ、同じくロン毛で同じ名字のキャプテンバイソン西田さんに擬態しようとしていたのもお茶目。


客席を眺め、哲夫は「年配」という言葉を頻繁に使った。かく言う自分も、笑い飯とほぼ同世代である。お笑いのライブシーンに辛うじて身を置いてはいるものの、「記憶力」という部分において随分と絶望をおぼえる年齢になった。
ライブのネタを記憶してメモに残す作業をしているが、後日そのメモを見てもネタの内容を思い出すことができないことが増えた。行ったかどうかさえも記憶に残らないライブが増えてきたのも確かである。
笑い飯の単独で卸す新ネタは2~3本であるが、これが後々テレビ番組や寄席で残っていく確率は年々低くなっているのは事実である。単独限りで消えてゆく笑い飯のネタたちは、配信もなくメモと記憶に残しておくしか術がない。そして自分自身の脳のメモリの限界と共に消えてゆくのだ。余りにも切なく、そして今日の素晴らしい時間も消えゆき、ただ行ったという事実のみがチケットの半券と共に残っていくだけだ。

帰りの電車でライブを反芻し、間も無く訪れる「忘却」という事実に悲しくなる。だけど哲夫が年配と揶揄した観客たちに向けた一言を噛みしめて、大事にしていこうと思った。この言葉こそが、笑い飯のファンでいられるいちばん大きな理由なのだから。

「お客さんも、我々と一緒に歳を重ねていってますから」

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