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神曲の洪水を受け止めきれない70年代のスティーヴィー・ワンダー

私が洋楽を聴き始めた80年代半ば、スティーヴィー・ワンダーは「I Just Call To Say I Love You(心の愛)」を大ヒットさせていました。その優しくて美しい曲を大好きになりましたし、その後の「Part-Time Lover」も好んで聴いていました。

大人になってからはベスト盤『Song Review』を入手し、定期的に聴いてもいました。

しかし、スティーヴィー・ワンダーと言えば何といっても『Talking Book』(1972年)、『Innervisions』(1973年)、『Fulfillingness' First Finale』(1974年)が三部作と呼ばれ、ここに『Songs In The Key Of Life』(1976年)を加えた70年代の四作がとにかくエグすぎるとされています。

にも関わらず、それらをちゃんと聴いたことがなかったのです。

三年ほど前から主夫になり、家での時間が増えた私は、「ここらへんでひとつ、スティーヴィー・ワンダー様に向き合ってみよう」と思い立ち、まずはこの四作を(今更ながら)聴いてみたのです。

すると、そこには溢れるほどの神曲(安易な表現に聞こえるかもしれませんが、ここではまさに神の御業としか思えない曲という意味です)が洪水のように襲ってくる、とんでもない世界が待っていたのです。

もちろん、それまでもスティーヴィー・ワンダーのことは天才だと思っていましたし、その才能は盲目である彼へ神が与えたギフトなんだろうと考えていましたが、それだけでは説明のつかない、信じられない曲の数々なのです。

『Talking Book』から『Songs In The Key Of Life』までの50曲、CMで使われているような超有名曲以外でもたくさんの「これも聴いたことある!」がありました。いやはや、恐ろしい。

そして、この四作についてはよく取り上げられていますし、詳細に解説もされていると思いますが、その前後のアルバムだって全くもって素晴らしいのです。

1970年の『Signed, Sealed & Delivered』(車でジェイムズ・コーディンと歌うタイトル曲(←動画の7:27あたりから)は最高)や、1971年の『Where I'm Coming From』、『Talking Book』と同じく1972年の『Music Of My Mind』も普通のアーティストなら一世一代の名盤となっていてもおかしくありません。

『Songs In The Key Of Life』のあと、やっと少し間があいて1980年に『Hotter Than July』がリリースされますが、これにだって「I Ain't Gonna Stand for It」や「Lately」に「Master Blaster (Jammin')」、そして全地球人が知っていそうな「Happy Birthday」(陽気な感じですが、キング牧師の誕生日を祝日にすることに反対する人達がいることを嘆きながらも、その功績を讃える歌だったのです)まで収録されているのです。

この人、いくらなんでもヤバすぎる!私が最初に知った大ヒット曲「心の愛」はこれらの後にリリースされるのです!

70年代にリアルタイムで聴いていた人達は、こんな完成度のアルバムが毎年と言っていいくらいのペースでリリースされて消化しきれたんでしょうか?嬉しい悲鳴とはこのことだったでしょう。

後追いの私はもちろん神曲の洪水を受け止めきれず、恐れ慄くばかりでした。聴き始めてから三年ほど経ち、ようやく「70年代のスティーヴィーは一応、聴いています」と言えそうなくらいになってきました。

そして、ただ音楽を聴いただけの私ですらこんなに感動しているのに、フェンダーローズやクラヴィネット、シンセサイザーなどの角度からも掘り下げることができる人達や、鍵盤を嗜む人達は一体どれほどの衝撃を受けるもんなんでしょう?クレジットを見るとほとんどの音をスティーヴィーひとりで演っていることも多いのです。信じられん。

というわけで、『Talking Book』からの四作はもちろん、70年代のスティーヴィー・ワンダーは本当に神がかっていたという話でした。

中でも『Songs In The Key Of Life』の評価が高いと思いますし、実際とんでもないアルバムですが、個人的に再生回数が多くなったのは『Fulfillingness' First Finale』でした。これは本当に知ることができてよかったです。

80年代にもヒット曲を出し、先日のアメリカン・ミュージック・アワード2022ではチャーリー・プースとともにライオネル・リッチーを讃えるパフォーマンスを披露したスティーヴィー。人類の宝が健在なのはありがたいことです。

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