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13年待ったゆえに恍惚となる 『Fear Inoculum』 TOOL

私は遅れてきたTOOL(トゥール)ファンですので、より長く、深くTOOLを追っている人からすれば「何もわかってないな」とお叱りを受けるかもしれませんが、それでも今や現役の中では一番好きなバンドと言えますので、ここで現時点での最新作『Fear Inoculum』について書かせてください。

2019年にリリースされた『Fear Inoculum』は、前作にあたる『10,000 Days』から13年ぶりのアルバムになります。

こんなにも長い間、リアルタイムでバンドの動向を追いながら新作を待ち望んだのは初めてのことでした。待ち続けて白骨化した写真がジョークとしてSNSにあげられていましたが、10年を過ぎた頃にはさすがに笑えなくなっていました。

ただ振り返ってみれば、TOOLを聴き始めたのが遅かった私には新作を待つ間の時間が過去のアルバムを聴き込む為に必要な時間だったのかもしれません。

初めて聴いたTOOLはレンタルした『Lateralus』(2001年)で、最初は正直どう反応していいのかわかりませんでした。ジャンルで言えばプログレッシブ・メタルと言えそうな音楽で、間違いなく好きな音でしたし、シビれるリフも多々あるのですが、気持ちよくノれないのです。曲も長く、繰り返しも必要以上に多いと感じていました。

ところが、曲が身体に馴染んでくるとその繰り返しや長さがそこに必要なものになり、とてつもなくかっこいい音楽が繰り広げられていることがわかってきました。

ひとたびハマるとどうにもこうにも抜け出せなくなるのがTOOLの音楽で、変な拍子や複雑な展開、繰り返しや曲の長さが「そうでなくてはならない」ものになってくるから不思議です。

バンドが新作に向けて「リハーサルを始めた」とか「レコーディングに入ったらしい」というニュースが出始めた頃の高揚はこれまでに経験したことのないもので、「どうかリリースまで自分が生きていますように」と願うようになりました。

すっかり前置きが長くなりましたが、とにかく待ちに待ってリリースを迎えたのが本作『Fear Inoculum』でした。初週にはそれまで全米1位だったテイラー・スイフトの『Lover』(←これもよく聴きました)を抜いて1位になったことも話題になりました。テイラーのファンが「TOOLって何?」となっていたそうですが、13年ぶりともなれば知らないのも無理はありません。

本作はメンバーがセグエ(segue)と呼ぶ Interlude的小曲を除けば全曲が10分を超える長さにも関わらず、時折シビれる瞬間はあるもののすぐに覚えられるようなメロディが多いわけではないトータル 87分は、漂っているうちに終わります。

「こんな書き方じゃ誰も聴いてみたいと思わないじゃないか!」と言われるかもしれませんが本当にそうでして、最初はやっぱり戸惑いました。

しかし、本作リリースまでの間にTOOLの音楽は変拍子や展開が身体に馴染んでくるまでには時間がかかることを学び、その先にはとてつもない恍惚が待ち受けていることを体験している私は、基本練習を繰り返すかのごとく、家事をしながら、買い物ではイヤホンをしながら、時にはオーディオの前に座りながら再生を繰り返しました。

この8月でリリースから3年、曲が馴染んだ私にとってはやっぱり唯一無二の音楽になっています。

以前にも増して変拍子や繰り返しが多いように感じますが、これも身体が覚えてしまえばもう離れられません。なんなら最初はどうにも気持ち悪く感じる変な拍子や、多く感じる繰り返しこそがこの恍惚感の源なのかもしれません。

ドラムのダニーは相変わらず凄まじく、「こんなの実際にプレイできんの?」とか思っていると、⑵ Pneumaのライブ映像が上がっていて、それを見て吹っ飛ばされるのもこれまた喜び。

ギターとベースが逆なんじゃないかと思うほどにメロディを担当するジャスティンのベースは素晴らしいですし、いわゆるギター・ソロ的な感じではなく間奏という言い方が合っていそうなプレイが多いアダムのギターは、リズムを刻む時のカッコ良さが筆舌に尽くし難いのです。いやマジで惚れる。

この変なリズムや展開を一体、どうやって演奏しているのか想像もつきませんが、それをライブでもやっているのがTOOLであり(Ozzfestの時もすごかったす)、そこに場違いな程の美しい声を乗せるのがTOOLの凄さだと思います。

メイナードのヴォーカルはやはり美しく、尚且つ激しく、よくもこんな人達が揃ったもんだと感謝する以外にありません。

最も好きな曲は ⑺ Descendingで、これもイントロが長かったりするのですがそれがまたたまらなくカッコ良くなってくる不思議。13分があっという間です。


TOOLはアートワークやMVも不気味なものばかりで、それも多くの人を遠ざけているかもしれません。聴いてみるまでのハードルが高い上に、最初は「長いし、全然気持ちよくノれないな」と感じると思いますが、もし何かのきっかけで興味を持ったのなら、是非ともこの恍惚に辿り着くまで聴いてみてほしいです。

次作はもう少し早く出ますように。

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