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私にとってのRUSH

音楽プロデューサーのピーター・コリンズが亡くなりました。73歳というのは少し早い気がしますが、ご冥福をお祈りします。

クィーンズライクの『Operation: Mindcrime』をプロデュースしたピーター・コリンズは、その1点だけでも偉大なプロデューサーと言えますが、改めて彼の作品群を見てみるとゲイリー・ムーアやアリス・クーパー(『Hey Stoopid』は彼のプロデュースだったんすね、カセットテープでよく聴きました)、ボン・ジョヴィの『These Days』といったところから、意外にもインディゴ・ガールズやナンシー・グリフィス、ジュエルなんかまで幅広く手がけていたことを知りました。

ただ、私の中ではカナダのスリーピース・バンド、ラッシュのプロデューサーというイメージが強いです。

ピーター・コリンズがプロデュースしたアルバムは『Power Windows』(1985年)、『Hold Your Fire』(1987年)、『Counterparts』(1993年)、『Test For Echo』(1996年)の4枚です。

これらのタイトルを見て「微妙な時期だな」と思われた方もいるかもしれません。プログレッシブなラッシュのファンであればなおさらそうでしょう。なんならピーター・コリンズに良い印象は持っていないかもしれません。

ただ、私にとっては初めてのラッシュである『Power Windows』を含めて、リアルタイムで新譜を経験したうちの4枚が彼のプロデュースによるものであり、ともに青春を過ごした組み合わせなのです。

何せ最初に聴いたのは『Power Windows』からの “The Big Money” ですから、私にとっては後から知るプログレッシヴなラッシュこそがらしくなかったのです。

本作でいよいよプログレッシヴでなくなりつつある過程にピーター・コリンズがどのくらい関与していたのかわかりませんが、このくらいのポップとプログレッシブの塩梅が当時の私にとってはちょうど良かったのでしょう。

それでも、いま改めて聴けば “The Big Money” もポップではありながらもバキバキのベースラインがとんでもない曲であることがわかりますし、 “Manhattan Project” から “Marathon” への美しい展開は十分にプログレ的だと思います。

ラッシュを好きになった私は、後追いをすることなく次作となる『Hold Your Fire』からのシングル “Time Stand Still”(コーラスはまだティル・チューズデイのエイミー・マン)をさほど抵抗なく聴いていましたし、“Force Ten” や “Mission” は今もお気に入りです。

(↑ ラッシュ屈指の名曲だと思うんですよ。ギターソロも素晴らしい)

そして、この2枚からの選曲が多いライブ盤『A Show Of Hands』(1988年)を愛聴するようになりました。そこで初めて「3人なのにめちゃくちゃすごいな!」とバンドの真価に触れるのです。

ここからプロデューサーはルパート・ハインに代わって『Presto』(1989年)、『Roll The Bones』(1991年)とリリースされます。

『Presto』は “Show Don’t Tell” や “The Pass” が知られているかもしれませんが、実は後半が素晴らしいですし、“Bravado”が最高な『Roll The Bones』もよく聴きましたが、1993年にピーター・コリンズが戻って『Counterparts』がリリースされます。

後追いで知った数々の名盤を含めてもこの『Counterparts』が最も聴いたアルバムになります。何せ当時はインターネットもなく、学生で時間を持て余していましたから、CDを買ったならそれは好きも嫌いもなくアホほど聴いたのです。

本作はギターが前面に出ており、ベースは太く、ドラムが活き活きと感じられ、⑴ Animate から歓喜したのを覚えています。⑶ Cut To The Chase のグルーヴは新鮮で、⑷ Nobody’s Hero は切なく美しく、⑼ Leave That Thing Alone のお洒落さに「まだこんな引き出しが⁉︎」と驚き、⑽ Cold Fire でドラマチックにハードロッキンできました。

グランジ全盛にも関わらずラッシュを違和感なく聴けたのは、生っぽくハードなロック・サウンドに仕上げられていたからでした。後に名前を聞く機会が格段に増えるケヴィン・シャーリー(本作にはエンジニアとして参加)によるところも大きいんだと思いますが、その彼を呼んだのはピーター・コリンズだそうですから、目指す音像は明確だったのでしょう。

そして、ラッシュ評でよく聞く「ゲディ・リーの歌が苦手」という方にも聴きやすくなっているのが本作だと思います。歌が障害になっていた方にはぜひ試してみてほしい1枚です。

バンド活動の休止を経てリリースされた『Test For Echo』でもギターを主体にしたヘヴィで生っぽい音作りは継続され、⑵ Driven や ⑺ Dog Years に痺れましたが、⑼ Resist の美しさにも感動しました。これは名曲です。そしてラッシュらしい芸術的なアルバムジャケットも素晴らしい。


ここまで書いておきながら、これらのアルバムがラッシュの代表作か?と言われれば、正直なところ私も「いやそれは何とも言い難い」となってしまいます。

やっぱり『Moving Pictures』ってすごいですし、『A Farewell To Kings』だって負けず劣らず素晴らしいですし、実は『Grace Under Pressure』も名盤なんじゃないかと思ったりしますから、その辺りまでを「ラッシュらしい時期」と捉えるのが普通でしょう。ラッシュの全体像を把握した後には、『Hold Your Fire』や『Presto』を聴く頻度は少なくなりました。

ただ、私にとっては『Power Windows』以降が馴染みのあるラッシュであり、多感な時期に体験したアルバムの多くはピーター・コリンズとのものでした。やっぱり思い出深いのです。

環境の変化による部分も大きかったと思います。ちょうど『Roll The Bones』くらいの頃から輸入盤を含めてCDを借りるのではなく購入することが増えていき、カセットテープへの録音は少なくなりました。良くも悪くも「買ってしまったCD」はとにかく好きになるまで聴いたんですよね、時間もありましたし。

そうすると最初は今ひとつでも、好きな曲、好きなパートが出てくるもので、繰り返し聴いた先の気づきが多かったのもラッシュの魅力でした。

そして何より、ラッシュを無条件に信用してしまう理由としてライブがとてつもないという事実がありました。『Exit... Stage Left』(1981年)や今も愛聴盤の『A Show Of Hands』、狂乱の『Rush In Rio』(2003年)など、とにかく3人で演ってしまうバンドの実力には感動しかありません。

(↑ 結局YYZですみません、でもインストなのにこの大合唱やばすぎる)

ニール・パートが亡くなったのが2020年。続いてピーター・コリンズも亡くなったとなると、ずいぶんと寂しい気持ちになりましたので、改めて自分にとってのラッシュについて書いてみました。

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