夜の水泳が美しすぎる 『Automatic For The People』 R.E.M.
かねてからR.E.M. について書きたいと思っていまして、この連休中は色々と聴き直しておりました。やっぱりいいですね。
スタジオ・アルバムは全部で15作、できることなら「これが有名だけど、これもいいと思うんです」というようなものを取り上げたいと考えていましたが、やっぱり『Automatic For The People』について書いてみたいと思います。
1980年にジョージア州アセンズで結成されたR.E.M. は、デビューアルバム『Murmur』(1983)がローリング・ストーン誌の年間ベストアルバムに選ばれるなど、当初から評価が高く、いわゆるUSカレッジチャートでその人気を確立していったバンドになります。
マイケル・スタイプ(ヴォーカル)、ピーター・バック(ギター)、マイク・ミルズ(ベース/キーボード)、ビル・ベリー(ドラム)の4人で始まったバンドは、1997年にビルが健康上の理由で脱退した以後は残った3人で活動を続け、2011年に突然(本当に突然)、解散しました。
R.E.M. はアメリカ南東部ジョージア州の出身ですので、そのあたりの音楽の影響を受けているとは思うのですが、カントリーともフォークともパンクとも言えない、でもそれらの要素を全て含んだロックというのが私の印象です。そこにバンドの政治的な姿勢やメッセージが加わって、オルタナティヴ・ロックとかインディー・ロックとか呼ばれていくことになったのだろうと思います。
初めて聴いたのは彼らにとって最初のヒットシングルとなった“The One I Love”(『Document』収録)でした。このヒット以降、『Green』(1988)からは“Stand”を、『Out Of Time』(1991)からは“Losing My Religion”をヒットさせるなど、(バンドがどう感じていたかは分かりませんが)順調に活動を続けていきました。
そんな中でリリースされたのが『Automatic For The People』(1992)でした。恥ずかしながら私は本作をリアルタイムで聴いておりませんで、のちの様々な評判から慌てて聴いたアルバムになります。学生で時間もあったのに、なぜあの時に聴いていなかったのかと後悔しているアルバム第1位です。多分、近所のレンタルになかったと思うんですよね。他にも名盤が多数だった1991年にCDを買い過ぎたこともあって、無意識のうちに買い控えしていたのかもしれません。
ひたすら暗く始まる ⑴ Drive を聴けばわかる通り、本作は内省的でアコースティックなものになっており、ストリングスがその雰囲気を高めています。オーケストラ・アレンジとしてクレジットされているのはジョン・ポール・ジョーンズ。いやはや、レッド・ツェッペリンにはひれ伏すばかりです。
傷ついた時のマストソング ⑷ Everybody Hurtsが素晴らしい曲なのはもちろんですが、ここでお伝えしたいのは ⑽ Man On The Moonから最後までの美しさです。
満を持して現れる、キャッチーなメロディを持つ “Man On The Moon” は、イントロからして何か別の扉が開いたかのようで、アンディ・カウフマン云々を抜きにして純粋に楽しめる曲になっています。
そして、この後にやってくるのが私にとって本作のハイライトとなる ⑾ Nightswimming です。始まった瞬間から信じられないほどの美しさで、ここまで漂っていた重さに耐えて聴いてきた我々を優しくいたわってくれるかのように響き渡ります。
ベスト盤『In Time 1988-2003』にはピーター・バックによる曲目解説が掲載されていまして、田村亜紀氏による訳が同封されていますす。この曲に関するエピソードがエゲつないので、以下に引用させていただきます。
ボツになったピーターの2曲も本作に収録されているわけですから十分にすごいと思いますし、アルペジオを多用しながら存在すべき音だけを奏でるピーターのギターはもっと評価されていいはずですが、“Nightswimming” がマイク・ミルズとマイケル・スタイプによってこんな形で出来上がっていたとは、天才っていうのはいるもんなんですな。そして曲の終盤、あまりにも自然に登場してくるオーボエの、これしかないと思える美しすぎるメロディ…。もはや天上の音楽と言って差し支えないでしょう。
この “Nightswimming” の後、続けて鳴らすことができるのはこの曲しかないと思える儚さでアルバムを締めくくるのが ⑿ Find The River です。人生を“川を見つける”ことに喩えた、マイケルなりの前向きなメッセージだろうと捉えています。
この “Find The River” までを聴いた後、アルバムを再び頭から聴くにはあの暗く重たい “Drive” 以外にはないと気づきますし、⑼ Star Me Kitten は最後の3曲の序曲のように思えてきますし、そもそも “Star Me Kitten” までの(概ね)重たく暗い道のりが最後の3曲の為なのかと感じるようになりました。こうなってくると、もうこのアルバムからは抜け出せなくなります。
カート・コバーンが亡くなっているのを発見されたとき、ステレオにセットされていたのが本作だったと言われています。そのことをバンドがどう感じたのか、私のような者には想像もできませんが、次作『Monster』(1994)に収録されている “Let Me In” にその思いが込められているそうです。再びギターを主体にしたガレージ・ロックのような音で活動を再開したバンドは、ビル・ベリーの脱退後も3人で活動を続け、素晴らしいアルバムをたくさん残してくれました。
このバンドがカッコよかったのは、突如、最後の作品となってしまった『Collapse Into Now』(2011)も素晴らしいロック・アルバムだったことです。「やっぱりカッコいいぜ!」と喜んで繰り返し聴いていたところに突然の解散。本当に残念でしたが、ここしばらく振り返って聴いているうちに「こんなにもたくさんの音楽を残してくれたのだから、文句は言えないな」と思うようになりました。
IRS時代の『Reckoning』や『Document』もお気に入りですし、『Out Of Time』や『New Adventures In HiーFi』だって素晴らしいですし、『Around The Sun』だって世間が言うほど悪くありませんが、やっぱり『Automatic For The People』は時代に左右されることのない、R.E.M. の最高傑作だろうと思います。