そのギター・トーンにはうっとりするしかない 『On The Night』 DIRE STRAITS
「いやいや、ダイアー・ストレイツのライブ盤なら『Alchemy』だろう」というご指摘もあろうかと思いますが、世代的にはこれがリアルタイムでして、いまもよく聴くアルバムなのでご容赦ください。
ダイアー・ストレイツはイギリスのバンドになるわけですが、いわゆるルーツ・ロック的で、そこに英国風味が加わった独特の音楽性が魅力だと思います。
マーク・ノップラーによる、ちょっと上手いボブ・ディランような歌、そしてなんといってもギターがその音楽性を際立たせ、5作目の『Brothers In Arms』(1985年)は全世界で3000万枚を超えているモンスター・バンドでした。
私が洋楽を聴き始めた頃に「Money For Nothing」や「Work Of Life」がヒットしていて、当時も嫌いではありませんでしたが「このおっさん(とはいっても当時のマークは30代後半のはず)の歌の何がいいんだ?」と訝しんでいましたし、『Brothers In Arms』の良さもわかりませんでした。
ダイアー・ストレイツは『Brothers In Arms』ツアーの後に一旦活動を休止していましたが、1991年に再結集して6作目『On Every Street』をリリース。
本作はこのアルバムに伴うツアーの中から、フランスのニーム(Les Arenas)とオランダのロッテルダム(Feyenoord Stadium)の公演が収録されたものになっています。
本作でのメンバーを見ると、マークを除けば最初からバンドにいるのはベースのジョン・イルズリーのみ。他にはアラン・クラーク(4作目『Love Over Gold』から参加)とガイ・フレッチャー(5作目『Brothers In Arms』から参加)という鍵盤担当の2人で、この4人がダイアー・ストレイツということになります。
サポート・メンバーを含めると実際には9人でのきらびやかなライブになっていて、初期のサウンドが好きな方々にはバンド本来の姿ではないように感じられるかもしれません。
選曲も『On Every Street』と『Brothers In Arms』からがほとんどなので、このことも往年のファンからは残念に思われているでしょう。
私もそれほど熱心に『Brothers In Arms』を聴いていたわけではありませんでしたし、『On Every Street』に至っては聴いてもいなかったので、なぜこれを購入したのか思い出せませんが、ライブによって全ての曲が魅力的になり、予想外に気に入って繰り返し聴きました。今でもダイアー・ストレイツを聴く時にはこれを選ぶことが多いのです。
本作での聴きどころはやはりマーク・ノップラーのギターです。それはもう本当に美しいトーンでして、速弾きギタリストに熱を上げていた頃でも「ギターの音色に関してはマーク・ノップラーが一番好きかも?」と思っていたほどです。
そして、9人体制ではありますがそのアンサンブルは最高です。うまい人達っていうのはガチャガチャになったり誰かの音が突出したりしないもんなんですな(ミキシングが素晴らしいだけなのかもしれんけど)。ペダル・スティールやサックスの役割は大きく、彩りを豊かにしてくれています。
5枚目、6枚目からの曲がほとんどではありますが、⑷ Romeo And Juliet と ⑸ Private Investigation はちゃんと収録されています。
⑷ Romeo And Juliet はここでも本当に素晴らしく、マークのギターや歌はもちろん、クリス・ホワイトのサックスも、もはやなくてはならないものになっていると思います。
これに「Sultans Of Swing」が加わっていれば本作も申し分なかったのですが、『On Every Street』ツアーなのですから仕方ありません。
⑺ On Every Streetでは、特に3:10過ぎくらいからポール・フランクリンのペダル・スティールの為の曲になっており、バンド演奏も素晴らしいのでぜひ聴いてみてもらいたいです。
アリーナ・バンドであることを証明するかのような大観衆の歌声も素晴らしく、ライブ盤の価値を高める演出になっていて、⑹ Your Latest Trick や ⑽ Brothers In Arms では感動させられます。
本作以降、マーク・ノップラーはソロとして活動しています。1stソロアルバム『Golden Heart』も大好きですし、エミルー・ハリスとの『All The Roadrunning』も愛聴盤になっているのはやはりそのギターの音によるところが大きいです。
いつ如何なる時もそのギターは美しい響きで幸せな気持ちにしてくれますが、ダイアー・ストレイツがこれっきりになっているのは少し残念です。