バンドの音楽性とトレンドの融合が見事だった 『Q2K』 QUEENSRŸCHE
Queensrÿche(クイーンズライク)には『Operation: Mindcrime』(1988年)という、HR/HM史に燦然と輝く名盤があります。他にも、最も売れたアルバムということならその次の『Empire』(1990年)、チャート最上位(US: 3位)ということなら『Promised Land』(1994年)があります。
先の2枚はいまさら説明不要のアルバムですし、『Promised Land』も好き嫌いは分かれるかもしれませんが完成度が高いアルバムであることに異論はないと思います。
しかし、この後にリリースされた『Here In The Now Frontier』(1997年)はなかなかにしんどいアルバムでした。グルーヴ&ヘヴィ路線が悪いわけではありませんが、曲調も音もクイーンズライクに期待するものとかけ離れており、私もかなり辛抱強く聴いたつもりですが、正直、好きな曲はありません。
そんな問題作の次にリリースされたのが本作『Q2K』(1999年)で、USチャートでは46位、セールスとしても『Here In The Now Frontier』の半分くらいと、全く成功したとは言えない本作なのですが、私はこれをかなり気に入っているのです。
そんな私も、もちろん(と言っては失礼ですが)本作が隠れた名盤だとまでいう気はございません。ただ、思うに本作には障害があり、それを理由にスルーされている方が少なからずいらっしゃるのではないかと思っています。
まずは前述した、前作における大きな路線変更です。これを気に入った方もいたとは思いますが、ただただトレンドに迎合し、らしさを感じられないままダラダラと曲が続いていくと感じたファンは、バンドから離れてしまったでしょう。
そして、クリス・デガーモ(ギター)の脱退です。ジェフ・テイト(ヴォーカル)と共にバンドの主要人物であり、最大のヒット曲となる “Silent Lucidity” を書いているギタリストが脱退した事実に、「クイーンズライクも終わったな」と思った人は結構いたはずです。
実際には前作におけるグルーヴ&ヘヴィ路線の首謀者がクリスだったとされていますから、今考えれば彼の脱退はそれほど悪いことではなかったと思えるのですが、これは大きな出来事でした。
そんな事情があった上に、代わりに入ったギタリストがその時すでにプロデュース業に専念していたジェフ・テイトの昔のバンド仲間だったとなれば、レンタルはまだしも購入するのはあまりにもリスクが高かったのが本作だったと思います。
ただ時代は変わり、現代は「ちょっと聴いてみること」が容易になりましたので、「クイーンズライクは好きだったけど、本作は聴き逃している」という方がいらっしゃれば、ぜひ聴いてみて欲しいという、かなりニッチな主旨でございます。
とは言っても、聴いてみてもらいたいのは2曲です。
この ⑴ Falling Down と ⑻ Breakdown で「おっ?」とならなければやっぱり本作はスルーしたままで大丈夫です。ただ、私はこの2曲に「クイーンズライクの音楽性とトレンドの融合が最高の形で実現している!」と興奮して聴きまくったものなのです。
前作の流れを汲んでいるのは間違いないのですが、リフ自体のカッコよさを感じましたし、スコット・ロッケンフィールドのドラミングは別人のようですがそれがまたカッコよかったりして、これだけでも買った甲斐があったと喜んでいました。
そこに前作には感じられなかったバンド本来のドラマチックな展開も加わり、揺り戻しと言ったら変かもしれませんが、いい塩梅になっていたと思うのです。
そうなると他の曲も聴けるようになってきて、⑷ When The Rain Comes や ⑾ The Right Side Of My Mind (これはまさしくクイーンズライク)などは普通にお気に入りとなりました。他の曲も含めて、本作のサウンドにジェフ・テイトの歌唱はとても合っていると思うようにもなりましたし、クリス・デガーモの不在を残念に思うこともありませんでした。アルバム全体に一貫性もあり、振り返ってみれば『Empire』よりもよく聴いた一枚です。
クイーンズライクはこの後、醜いすったもんだで分裂し、新ヴォーカルとしてトッド・ラ・トゥーレを迎えたセルフタイトル作(2013年)はなかなか良いと思ったのですが、2018年にはスコット・ロッケンフィールドが解雇されて提訴するなど、がっかりな状態です。