タイトル通りの優しい音楽が美しく響き渡る『Good Dog, Happy Man』 BILL FRISELL
決してジャズに精通しているわけではないので難しいアルバムは敬遠していますが、それでもビル・フリゼールの何枚かは相当な愛聴盤です。
中でも、1999年リリースの『Good Dog, Happy Man』は、それがジャズかフォークかカントリーかというような定義づけを超えて、音楽が好きなら誰でも楽しめるアルバムになっていると思います。アルバムジャケットとそこにつけられたタイトルが表す通りの、優しい音楽に癒される62分です。
ビル・フリゼールはおそらくジャズ・ギタリストとして認識されているんじゃないかと思いますが、その音楽はフュージョンやカントリー、今でいうアメリカーナとしか表現しようのないものまで幅広く、映画音楽も手掛けています。
本作は ⑸ Shenandoah以外、全てフリーゼルによる曲で、もちろん中にはジャズというか、フリゼールらしい(?)奇天烈フレーズに迷わされる曲もありますが、普通に聴ける曲で構成されているのがありがたいところ。
本作はペダル・スティールにグレッグ・レイス、ドラムにジム・ケルトナー、ベースにヴィクトル・クラウス(アリソン・クラウスのお兄さん)、ピアノにウェイン・ホルヴィッツというメンツで、そんなにジャズっぽくなく聴けるのはこのあたりにも理由があるかもしれません。
⑴ Rain, Rain からして私なんかは「どうやら素晴らしいアルバムが始まったな」と聴き入ってしまいますが、アコースティック主体の優しい音が本作を象徴するオープニングになっています。
そしてまず最初のハイライト、多くのミュージシャンが取り上げている ⑸ Shenandoahでは feat. ライ・クーダー。2人がそれぞれにらしさを発揮する共演というよりは、その音楽をより美しく響かせる為にお互いが存在するという感じのギターはたまりません。6分11秒があっという間、感動の1曲です。
⑺ The Pioneers も極めて美しい雄大な曲で、このメンツによるバンド感にも溢れています。世の中にはこんなにも見事に響き合う音があるんですな。フリゼールのギター・トーンとグレッグ・レイスが素晴らしいです。
アルバムタイトル曲の ⑾ Good Dog, Happy Man はアコースティックな1曲で、本当に良い犬と幸せな男を感じられる曲になっています。インストなのに!
アルバムはバンドが優しく奏でる ⑿ Poem For Eva で終わっていきます。こんな演奏ができるミュージシャンを心から羨ましく思います。きっと楽しいでしょうね。
ビル・フリゼールは多作で、正直どれを聴いたらいいのか迷ってしまう人なのですが、このアルバムジャケットに表現された優しさに惹かれて聴いてみたらそのまんまの音楽が詰まっていたという、極めて幸運な入り口でした。
他にも『The Willies』(2002年)やライブ演奏の『Futher East / Futher West』(2005年)などがお気に入りで、ちょっと洒落た音楽を流したい時には選ぶことが多いです。
(↑ Lost Highway、素晴らしい)
フリゼールは現在、72歳。2024年4月にはオーケストラと共演したアルバムのリリースが予定されているなど、その精力的な活動には感謝しかありません。
本作ではアコースティックギターによる曲が多く、それが私とってはよかったりするんですが、本来のテレキャスターによる音は極上。まだまだ聴かせてもらいたいです。